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魔法が、デカい
しおりを挟む「湖行って汚れを落とそうか」
嫌な予感しかしないが血染めの女子を連れ歩くのは良くないと思うので、まずは血を洗い落とす提案をする。ローブの裾に着いた血を見て狼狽えているジュンを、レイナとマキが支えて歩く。歩いた先には嫌な予感の原因があった。
「僕の剣汚さないでよー」
「ロシェルさん!」「加勢しますっ」
湖の畔を背にしたロシェルは僕の剣を構えて5人の敵と対峙していた。マキは敵の背後から抜剣して僕達の前に出る。レイナとジュンを守るようにペニーとカシーは背後を警戒。僕はマキの左側に着いた。
「お前等コイツの仲間かっ!?」
男達の1人が声を上げる。パーティーなのは確かだが、仲間かどうかは関係無い。無関係だからって見て見ぬ振りをするのか?
「お前等は知らん奴だな。違うクラスか?5人もいて女の子に怪我させられんなよ。もう少しすれば演習終わるんだからそこまでにしとけ」
「舐めやがって!」
「振り向くと殺られっぞ!」
コッチに来ようとした奴にアドバイスをくれてやる。5人はジワジワ固まって背を合わせた。思うツボだな。僕は左側から迂回してロシェルを迎える。
「ロシェル、ご飯だよー」
「うう、ユカタァ~」
「よくそんなマナクラで斬れたね」
合流したロシェルを連れて皆の所へ。剣もやっと返してもらえた。
「剣が無きゃ、そんな女…」
「レイナ、魔法撃てる?」
「人に撃った事無いわ」
負けたウォリスの遠吠えに、僕は魔法を撃ってもらおうとするが、レイナは人に向けた事が無いと言う。まあ普通はそうだろう。
「撃たないとマキが怪我するよ?それでも撃てない?」
マキの隣に立ち、少し広がるよう横に押す。射線が出来るとレイナは覚悟を決めたようだ。
「火の精霊よ、我が声を聞け…」
レイナの詠唱が始まると、男達は異常な程に狼狽えた。火の精霊と聞いて火魔法を連想したのだろう。火魔法の使い手が貴族に多い所まで連想出来れば逃げの一手しか無くなるのだが、動かないのはそこまで頭が回らないのだろう。
「早く、早く逃げろ」
体で隠してハンドサインと、小声で5人に訴える。
「くっ!クソッ、覚えてろっ!」
負けウォリスが悪態吐いて逃げて行く。助けてやったのに酷い言い草だ。
「撃ちますっ。ヴォリーダッ」
そこそこ大きい火の玉が、逃げ出す男達のいた場所に着弾して燃え上がる。
「凄いねレイナ。こんなに大きいのは初めて見たよ」
「ふぅ、調節は苦手なのよ。ふぅ…」
大きく息を吸って吐き、レイナは自分の未熟を恥じる。魔法使えない僕はもっと恥ずかしい事になるのだが、彼女は気付いてないみたい。
「みんなありがと」
「無事で何よりですが、何があったのですか?」
皆に感謝を告げるロシェルにマキは問う。一方の意見だけを鵜呑みには出来ないが、木の上で警戒してたロシェルに奴等が石を投げて来てケンカになったのだと。
「警戒に出るにしても出過ぎだよ」
「うん…。何もいなかったんだもん」
「いる所まで探しに行けばそりゃいるだろうけどさ。来るのを見付けるのが見張りだからね」
「…分かった」
「パン焼いてあるから隠れて食べよ。怪我は無いよね?」
「うん、うん」
茂みに移動するロシェルは少ししおらしかった。怖かったのだろうね。
「はぐっ、んまっ」
「美味かろう美味かろう」
パン作り組の作ったパンは、刻んだ干し果物を練り込んだ捻りパンで、串から外されネジネジになったパンを頬張るロシェルは無心で食らい付いていた。先に食べていた僕達も同じだったから、その気持ち凄く分かる。
午後の授業の終わりを告げる鐘が鳴り、広場に集まる生徒達にも解散が告げられた。パーティーで固まって、あるいはバラバラで、皆が広場を離れてく。
「ユカタァ、みんなぁ。アタシ、迷惑掛けちゃって、ごめん」
「迷惑とは思ってないよ。失敗しても上手く行かなくても、その経験が冒険者になった時に生きれば良いんだ」
外だと死ぬから、今の内に失敗しとけ。
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