【完結】剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。

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食うか、食われるか

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 約30人前の食事作りはパンを焼くだけでも大変だ。まずそれだけの量を焼く場所がない。それを見越して皆が知恵を絞った結果、調理場と竈を外に作る事となった、鍋を置くだけだった竈は、鍋と同時にパンが焼けるよう加工された。何より一番変わったのは燃料だ。今まで薪や枯れ草を使っていたのを魔法を付与した魔石を燃料とする事で、薪不足や煙、灰の処理等面倒が減った。エリザベス様曰く、熱風が竈内を均等に暖めてなんとか、らしい。ただ肉を焼く場所は作る時間が取れず、今夜の夕飯は肉たっぷりスープとパンになった。鍋は10人用なのでもちろん足りない。その分小盛にして食べながら作り、足りなければお代わりしてもらった。

「お、おかわり、して…良いの?」「ダメだよ」「食われちまうぞっ」

 誰が食うか。

「食われたくなかったらいっぱい食べて、反撃できるくらい強くなれ。俺も反撃されないようにお代わりするけどなっ」

 ヒソヒソゴニョニョ、食うか食われるかの話をしてるようなので少し煽ってやった。意を決した男の子と女の子がお代わりに向かうと、他の子達もゾロゾロと列を成して並び出す。いっぱい食って食われないようにしろよ。

 風呂に入って食って寝て、朝には皆走り回るようになっていた。食われないため、必死に体を鍛えているのだろう。

「私達は調理場を作るから、あンた達は狩りにでも行ってらっしゃい」

 セーナの一言で今日の予定が決まり、前衛4人で狩りに出る。馬2頭と戦車1台で東の門から枯れた草薮に出ると、獲物を探しに走り出す。エヴィナの操縦する戦車にはロシェルが乗り、僕とマキは馬だ。戦車の馬は若いのでガチで走ると追い付けない。待ってくれとの声も届かずだいぶ離されてしまった。

「あの二人ならば問題無いでしょう」

「まあね。合流するのも馬鹿らしいし、南に行ってみようか」

「はい」

 廃村の入口がある辺りから、遠くに森が見えて来る。魔獣帯だ。あそこまでは流石に行けない。魔獣帯にいる奴が獲物を求め、外にはみ出て来るからだ。魔獣帯に入れないような弱い魔物がその付近に集まるのは、魔獣帯から漏れ出る魔素を取り込みたいからである。南に向けて馬を走らせていると敵の群れが見えて来た。

「アレ、ヘビかな?」

「塊になってますね。ケンカでもしてるのでしょうか…」

 放っとくと2匹で食べ合いになって頭しか残らなくなるかも知れない。槍はセーナに壊されちゃったけど、横槍を入れに行く事にした。

 慎重に頭を探し、鱗の隙間に差し込むように中剣を突き刺す。間を置いてマキももう1つの首元に細剣を突き刺した。互いに互いから攻撃を受けていると勘違いしてる2匹は必死になって互いを締め合う。僕達の事見えてるハズだが頭に血が上ってるみたいだな。突き刺した剣をグリグリして肉を断ち、内側から皮を切って骨が繋がってるだけの状態になってもしばらく頭は戦っていた。

「収納っと」

「新手が来てしまいます。早めに撤退しましょう」

 ヘビの血で真っ赤になった僕達は、エヴィナ達を放ったらかして拠点に戻った。血だらけの僕を見たアルアインさんは嫌な顔をしたが、マキも真っ赤だったので遊んでたのではない事を理解すると、仕方ないわねと言って許してくれた。川で服と体を洗って来い、だって。

「お前、真っ赤だな!」「旦那様!領主様よ!?」

 水源下流の川では子供達が水遊びしてて、洗濯仕事をしてるエヴァさんに叱られてやがる。

「肉狩って来たんだ。今から皮と臟を取るからここより下流には行くなよ?生臭くなるぞ」

「なんだ?ゴーラか?」「どうせウォリスだぜ」

 チビッ子共に目に物見せてやった。僕は男の子達から兄貴と、マキはマキ姉ちゃんと呼ばれる事になった。狩りの上手い奴は偉い。単純な序列だが、その方が簡単で良い。その後洗濯を邪魔されたり馬を洗うのを邪魔されたりしたが、笑顔が増えたのは良い事だ。







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