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【第1章】追放と絶望の夜
第9話「王都再来」
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王都アーデルハイトは、相変わらず華やかだった。
護送馬車の窓から見える街並み。きらびやかな店、美しい建物、優雅に歩く貴族たち。
三週間前、私はここから追放された。
そして今――。
「降りろ」
衛兵の声。
馬車が止まった場所は、王宮の地下牢だった。
「エリシア様……」
オスカーが、不安そうに私を見る。
「大丈夫よ」
私は、微笑んだ。
本当は、不安だらけだけど。
牢獄の扉が開く。
冷たく、暗く、湿った空間。
「ここが、お前の部屋だ」
衛兵が、冷笑しながら言った。
「元・公爵令嬢には、お似合いだろう?」
私は、何も言わずに牢に入った。
扉が、ガシャンと閉まる。
鍵がかかる音。
一人きり。
「……さて」
私は、牢の中を見回した。
粗末な藁のベッド、小さな窓、そして錆びた鉄格子。
「前世なら、絶対に耐えられなかったでしょうね」
でも、今は違う。
ノルディアで、もっと過酷な環境を経験した。
「これくらい、何でもないわ」
私は、ルシアンがくれたペンダントを握った。
まだ、温かい。
「必ず、戻る」
その決意を、胸に刻む。
翌朝。
牢獄の扉が開いた。
「起きろ、囚人」
衛兵の声。
「尋問だ」
尋問室に連れて行かれる。
部屋の中央には、椅子が一つ。
そして、正面には――。
「久しぶりだな、エリシア」
冷たい声。
第一王子、アルベルト。
かつての婚約者。
「……殿下」
私は、感情を押し殺して答えた。
アルベルトは、椅子に座ったまま私を見下ろしている。
整った顔立ちは変わらない。でも、その目には――傲慢さと、わずかな焦りが混じっている。
「随分と、逞しくなったようだな」
「お褒めに預かり、光栄です」
私の皮肉に、アルベルトの眉が動いた。
「まだ、そんな口を利けるのか」
「どのような口を利くべきか、ご教示いただけますか?」
「黙れ」
アルベルトが、机を叩いた。
「お前は犯罪者だ。それを忘れるな」
「冤罪です」
私は、はっきりと言った。
「前回も、今回も」
「証拠がある」
アルベルトが、書類を投げてよこした。
「お前が、王国の許可なく魔鉱石を採掘し、密売していた証拠だ」
書類を見る。
確かに、私の署名がある。
でも――。
「これは偽造です」
「何?」
「筆跡は似ていますが、書き方の癖が違う」
私は、冷静に分析した。
「それに、この日付――私は、その日鉱山にいませんでした。複数の証人がいます」
アルベルトの顔が、わずかに歪んだ。
「お前……」
「殿下」
私は、彼の目を見た。
「なぜ、そこまでして私を陥れるのですか?」
「陥れる?」
アルベルトが、鼻で笑った。
「お前が勝手に罪を犯しただけだ」
「では、なぜ最初の追放の時、きちんとした調査をしなかったのですか?」
「それは――」
彼の言葉が詰まった。
「答えられないのですか?」
私は、一歩前に出た。
「それとも、答えたくないのですか?」
「黙れ!」
アルベルトが立ち上がった。
「お前など、もう――」
「アルベルト様」
扉が開き、女性の声が響いた。
クラリッサ。
侯爵令嬢で、今はアルベルトの婚約者。
私を陥れた、張本人。
「あら、エリシア」
彼女は、優雅に笑った。
「お久しぶりですわね」
「……クラリッサ様」
私は、冷静に彼女を見た。
美しい金髪、整った顔立ち。表面的には、完璧な貴族令嬢。
でも、その目の奥には――。
勝利の喜びと、わずかな不安が混じっている。
「随分と、お痩せになって」
クラリッサが、私の周りを回った。
「辺境での生活は、大変だったでしょう?」
「いいえ」
私は、微笑んだ。
「とても充実していました」
「まあ」
クラリッサの笑顔が、わずかに引きつった。
「強がりを。もう、終わりなのに」
「終わり、ですか?」
「ええ」
彼女は、私の耳元で囁いた。
「今度こそ、処刑ですもの」
その言葉に、背筋が凍った。
「ご安心なさい」
クラリッサが、楽しそうに笑った。
「苦しまないよう、毒を使いますから。三日後の朝、眠るように――」
「クラリッサ」
アルベルトが、彼女を止めた。
「もういい。戻れ」
「はい、アルベルト様」
クラリッサは、優雅に部屋を出ていった。
部屋に、再び二人きり。
「エリシア」
アルベルトが、低く言った。
「最後に、一つだけ言っておく」
「何ですか」
「お前は――」
彼は、私から目を逸らした。
「最初から、邪魔だったのだ」
「邪魔……」
「そうだ。お前は優秀すぎた。美しく、聡明で、完璧だった」
アルベルトの声が、わずかに震えた。
「王妃になれば、私より目立つだろう。民衆は、私ではなくお前を支持するだろう」
「それで、追放を?」
「そうだ」
彼は、開き直ったように言った。
「クラリッサは、扱いやすい。私に従順で、私を立ててくれる。彼女の方が、王妃に相応しい」
私は――。
笑いたくなった。
「殿下」
「何だ」
「あなたは、本当に愚かですね」
アルベルトの顔が、怒りで赤くなった。
「何だと!?」
「優秀な人材を排除して、何が残るのですか?」
私は、冷静に言った。
「従順な人間だけを集めて、国が良くなると思いますか?」
「黙れ――」
「これが、あなたの王としての器です」
アルベルトが、私に掴みかかろうとした。
その瞬間――。
「お兄様、やめて!」
扉が開き、少女が飛び込んできた。
「ラウラ!?」
私は、驚いた。
ラウラ。
私の妹。ハーランド家の三女。
「お姉様……」
ラウラが、私を見て涙を流した。
「お姉様……!」
彼女は、私に駆け寄ろうとした。
でも、衛兵に止められる。
「離せ! お姉様に会わせて!」
「ラウラ様、ここは――」
「お願い! お願いだから!」
ラウラの必死な叫びに、衛兵も困惑している。
「……いい」
アルベルトが、舌打ちをした。
「五分だけだ。それ以上は許さん」
衛兵が、ラウラを解放した。
彼女は、すぐに私に抱きついた。
「お姉様、お姉様……!」
「ラウラ……」
私は、妹を抱きしめた。
彼女の体は、震えている。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
ラウラが、泣きながら謝る。
「私、何もできなかった……お姉様が追放された時、何も言えなかった……」
「いいのよ」
私は、彼女の頭を撫でた。
「あなたは悪くない」
「でも……」
ラウラが、顔を上げた。
涙でぐしゃぐしゃの顔。
でも、その目には――強い決意が宿っていた。
「お姉様、聞いて」
「何?」
「お父様とお母様が――」
ラウラは、小さな声で囁いた。
「実は、地下牢に捕らわれているの」
「え……?」
「お姉様を庇おうとして、王妃様の怒りを買ったって……」
私の頭が、真っ白になった。
父と母が、捕らわれている?
「それに――」
ラウラが、さらに続けた。
「クラリッサ様が計画しているの。三日後の朝、お姉様に毒を――」
「時間だ」
アルベルトの声が、ラウラの言葉を遮った。
「ラウラ、戻れ」
「待って! まだ――」
「戻れと言っている!」
衛兵が、ラウラを引き離す。
「お姉様!」
ラウラが、叫んだ。
「諦めないで! 私、必ず――」
扉が閉まり、声が途切れた。
部屋に、再び静寂。
「……三日後か」
私は、小さく呟いた。
「三日で、全てを解決しなければ」
「無理だな」
アルベルトが、冷笑した。
「お前に、もう味方はいない」
「そうでしょうか」
私は、彼を見た。
「殿下は、本当に私の全てを知っていますか?」
「何?」
「ノルディアで、私が何をしたか。どれだけの人々と繋がったか」
私は、ペンダントを握った。
まだ、温かい。
「私は、もう一人じゃない」
牢獄に戻された。
一人になって、私は考えた。
三日。
三日で、この状況を打開しなければならない。
やるべきこと:
両親の救出
陰謀の証拠を集める
クラリッサとヴィクターの繋がりを証明する
自分の無実を証明する
「時間が足りない……」
でも、諦めるわけにはいかない。
コンコン。
牢の扉を、誰かが叩いた。
「誰?」
「……私です」
聞き覚えのある声。
扉の隙間から、小さな紙が差し込まれた。
拾い上げる。
そこには――。
『明日の深夜、救出に来る。準備を――ラウラ』
「ラウラ……」
妹が、動いてくれている。
そして――。
ペンダントが、わずかに光った。
温かい。
「ルシアン……」
遠く離れた辺境から、彼の想いが届いている。
「大丈夫」
私は、壁に背を預けた。
「私には、仲間がいる」
窓の外、月が昇り始めていた。
王都の夜。
かつては、華やかなパーティーで踊っていた場所。
でも今は、冷たい牢獄の中。
「でも――」
私は、微笑んだ。
「今の方が、ずっと生きている実感がある」
三日後の処刑。
でも、私は――。
「絶対に、負けない」
月明かりが、牢の中を照らしていた。
希望の光のように。
遠くで、誰かが歌っている。
民衆の歌。
自由を求める歌。
「そうね」
私は、立ち上がった。
「これは、私一人の戦いじゃない」
ノルディアの人々のため。
ラウラのため。
そして、この国の未来のため。
「戦うわ」
拳を握る。
前世で培った知識。
この世界で得た経験。
そして、何より――。
「諦めない心」
それが、私の最大の武器。
「さあ、クラリッサ。アルベルト」
私は、窓の外を見た。
「あなたたちの計画、全て暴いてあげる」
静かな夜が、更けていく。
でも、エリシアの戦いは――。
今、始まったばかりだった。
遠くのノルディアでは、ルシアンが月を見上げていた。
「エリシア……」
彼の拳も、固く握られている。
「待っていろ。必ず、助けに行く」
同じ月を見上げる、二人。
離れていても、心は繋がっている。
そして――。
運命の歯車が、再び動き始めた。
護送馬車の窓から見える街並み。きらびやかな店、美しい建物、優雅に歩く貴族たち。
三週間前、私はここから追放された。
そして今――。
「降りろ」
衛兵の声。
馬車が止まった場所は、王宮の地下牢だった。
「エリシア様……」
オスカーが、不安そうに私を見る。
「大丈夫よ」
私は、微笑んだ。
本当は、不安だらけだけど。
牢獄の扉が開く。
冷たく、暗く、湿った空間。
「ここが、お前の部屋だ」
衛兵が、冷笑しながら言った。
「元・公爵令嬢には、お似合いだろう?」
私は、何も言わずに牢に入った。
扉が、ガシャンと閉まる。
鍵がかかる音。
一人きり。
「……さて」
私は、牢の中を見回した。
粗末な藁のベッド、小さな窓、そして錆びた鉄格子。
「前世なら、絶対に耐えられなかったでしょうね」
でも、今は違う。
ノルディアで、もっと過酷な環境を経験した。
「これくらい、何でもないわ」
私は、ルシアンがくれたペンダントを握った。
まだ、温かい。
「必ず、戻る」
その決意を、胸に刻む。
翌朝。
牢獄の扉が開いた。
「起きろ、囚人」
衛兵の声。
「尋問だ」
尋問室に連れて行かれる。
部屋の中央には、椅子が一つ。
そして、正面には――。
「久しぶりだな、エリシア」
冷たい声。
第一王子、アルベルト。
かつての婚約者。
「……殿下」
私は、感情を押し殺して答えた。
アルベルトは、椅子に座ったまま私を見下ろしている。
整った顔立ちは変わらない。でも、その目には――傲慢さと、わずかな焦りが混じっている。
「随分と、逞しくなったようだな」
「お褒めに預かり、光栄です」
私の皮肉に、アルベルトの眉が動いた。
「まだ、そんな口を利けるのか」
「どのような口を利くべきか、ご教示いただけますか?」
「黙れ」
アルベルトが、机を叩いた。
「お前は犯罪者だ。それを忘れるな」
「冤罪です」
私は、はっきりと言った。
「前回も、今回も」
「証拠がある」
アルベルトが、書類を投げてよこした。
「お前が、王国の許可なく魔鉱石を採掘し、密売していた証拠だ」
書類を見る。
確かに、私の署名がある。
でも――。
「これは偽造です」
「何?」
「筆跡は似ていますが、書き方の癖が違う」
私は、冷静に分析した。
「それに、この日付――私は、その日鉱山にいませんでした。複数の証人がいます」
アルベルトの顔が、わずかに歪んだ。
「お前……」
「殿下」
私は、彼の目を見た。
「なぜ、そこまでして私を陥れるのですか?」
「陥れる?」
アルベルトが、鼻で笑った。
「お前が勝手に罪を犯しただけだ」
「では、なぜ最初の追放の時、きちんとした調査をしなかったのですか?」
「それは――」
彼の言葉が詰まった。
「答えられないのですか?」
私は、一歩前に出た。
「それとも、答えたくないのですか?」
「黙れ!」
アルベルトが立ち上がった。
「お前など、もう――」
「アルベルト様」
扉が開き、女性の声が響いた。
クラリッサ。
侯爵令嬢で、今はアルベルトの婚約者。
私を陥れた、張本人。
「あら、エリシア」
彼女は、優雅に笑った。
「お久しぶりですわね」
「……クラリッサ様」
私は、冷静に彼女を見た。
美しい金髪、整った顔立ち。表面的には、完璧な貴族令嬢。
でも、その目の奥には――。
勝利の喜びと、わずかな不安が混じっている。
「随分と、お痩せになって」
クラリッサが、私の周りを回った。
「辺境での生活は、大変だったでしょう?」
「いいえ」
私は、微笑んだ。
「とても充実していました」
「まあ」
クラリッサの笑顔が、わずかに引きつった。
「強がりを。もう、終わりなのに」
「終わり、ですか?」
「ええ」
彼女は、私の耳元で囁いた。
「今度こそ、処刑ですもの」
その言葉に、背筋が凍った。
「ご安心なさい」
クラリッサが、楽しそうに笑った。
「苦しまないよう、毒を使いますから。三日後の朝、眠るように――」
「クラリッサ」
アルベルトが、彼女を止めた。
「もういい。戻れ」
「はい、アルベルト様」
クラリッサは、優雅に部屋を出ていった。
部屋に、再び二人きり。
「エリシア」
アルベルトが、低く言った。
「最後に、一つだけ言っておく」
「何ですか」
「お前は――」
彼は、私から目を逸らした。
「最初から、邪魔だったのだ」
「邪魔……」
「そうだ。お前は優秀すぎた。美しく、聡明で、完璧だった」
アルベルトの声が、わずかに震えた。
「王妃になれば、私より目立つだろう。民衆は、私ではなくお前を支持するだろう」
「それで、追放を?」
「そうだ」
彼は、開き直ったように言った。
「クラリッサは、扱いやすい。私に従順で、私を立ててくれる。彼女の方が、王妃に相応しい」
私は――。
笑いたくなった。
「殿下」
「何だ」
「あなたは、本当に愚かですね」
アルベルトの顔が、怒りで赤くなった。
「何だと!?」
「優秀な人材を排除して、何が残るのですか?」
私は、冷静に言った。
「従順な人間だけを集めて、国が良くなると思いますか?」
「黙れ――」
「これが、あなたの王としての器です」
アルベルトが、私に掴みかかろうとした。
その瞬間――。
「お兄様、やめて!」
扉が開き、少女が飛び込んできた。
「ラウラ!?」
私は、驚いた。
ラウラ。
私の妹。ハーランド家の三女。
「お姉様……」
ラウラが、私を見て涙を流した。
「お姉様……!」
彼女は、私に駆け寄ろうとした。
でも、衛兵に止められる。
「離せ! お姉様に会わせて!」
「ラウラ様、ここは――」
「お願い! お願いだから!」
ラウラの必死な叫びに、衛兵も困惑している。
「……いい」
アルベルトが、舌打ちをした。
「五分だけだ。それ以上は許さん」
衛兵が、ラウラを解放した。
彼女は、すぐに私に抱きついた。
「お姉様、お姉様……!」
「ラウラ……」
私は、妹を抱きしめた。
彼女の体は、震えている。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
ラウラが、泣きながら謝る。
「私、何もできなかった……お姉様が追放された時、何も言えなかった……」
「いいのよ」
私は、彼女の頭を撫でた。
「あなたは悪くない」
「でも……」
ラウラが、顔を上げた。
涙でぐしゃぐしゃの顔。
でも、その目には――強い決意が宿っていた。
「お姉様、聞いて」
「何?」
「お父様とお母様が――」
ラウラは、小さな声で囁いた。
「実は、地下牢に捕らわれているの」
「え……?」
「お姉様を庇おうとして、王妃様の怒りを買ったって……」
私の頭が、真っ白になった。
父と母が、捕らわれている?
「それに――」
ラウラが、さらに続けた。
「クラリッサ様が計画しているの。三日後の朝、お姉様に毒を――」
「時間だ」
アルベルトの声が、ラウラの言葉を遮った。
「ラウラ、戻れ」
「待って! まだ――」
「戻れと言っている!」
衛兵が、ラウラを引き離す。
「お姉様!」
ラウラが、叫んだ。
「諦めないで! 私、必ず――」
扉が閉まり、声が途切れた。
部屋に、再び静寂。
「……三日後か」
私は、小さく呟いた。
「三日で、全てを解決しなければ」
「無理だな」
アルベルトが、冷笑した。
「お前に、もう味方はいない」
「そうでしょうか」
私は、彼を見た。
「殿下は、本当に私の全てを知っていますか?」
「何?」
「ノルディアで、私が何をしたか。どれだけの人々と繋がったか」
私は、ペンダントを握った。
まだ、温かい。
「私は、もう一人じゃない」
牢獄に戻された。
一人になって、私は考えた。
三日。
三日で、この状況を打開しなければならない。
やるべきこと:
両親の救出
陰謀の証拠を集める
クラリッサとヴィクターの繋がりを証明する
自分の無実を証明する
「時間が足りない……」
でも、諦めるわけにはいかない。
コンコン。
牢の扉を、誰かが叩いた。
「誰?」
「……私です」
聞き覚えのある声。
扉の隙間から、小さな紙が差し込まれた。
拾い上げる。
そこには――。
『明日の深夜、救出に来る。準備を――ラウラ』
「ラウラ……」
妹が、動いてくれている。
そして――。
ペンダントが、わずかに光った。
温かい。
「ルシアン……」
遠く離れた辺境から、彼の想いが届いている。
「大丈夫」
私は、壁に背を預けた。
「私には、仲間がいる」
窓の外、月が昇り始めていた。
王都の夜。
かつては、華やかなパーティーで踊っていた場所。
でも今は、冷たい牢獄の中。
「でも――」
私は、微笑んだ。
「今の方が、ずっと生きている実感がある」
三日後の処刑。
でも、私は――。
「絶対に、負けない」
月明かりが、牢の中を照らしていた。
希望の光のように。
遠くで、誰かが歌っている。
民衆の歌。
自由を求める歌。
「そうね」
私は、立ち上がった。
「これは、私一人の戦いじゃない」
ノルディアの人々のため。
ラウラのため。
そして、この国の未来のため。
「戦うわ」
拳を握る。
前世で培った知識。
この世界で得た経験。
そして、何より――。
「諦めない心」
それが、私の最大の武器。
「さあ、クラリッサ。アルベルト」
私は、窓の外を見た。
「あなたたちの計画、全て暴いてあげる」
静かな夜が、更けていく。
でも、エリシアの戦いは――。
今、始まったばかりだった。
遠くのノルディアでは、ルシアンが月を見上げていた。
「エリシア……」
彼の拳も、固く握られている。
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