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夕食にて 2/2
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現状の財政難。本来なら皇帝が褒章を渋ったことに不満を抱くものだが、帝国貴族として皇帝に異を唱えることは出来ない。周辺領主達の言葉にできない思いの吐け口になるものが、敗戦国アシュテネへの悪態であった。八つ当たりに過ぎなかったそれはいつしか本心へと、事実へと変わっていったのだ。
「アシュテネがさっさと降伏していれば、うちがお金に困ることなんてなかった。腹立たしいことこの上ないわ。アシュテネ王は剣で名を馳せたみたいだけど、為政者としては能がなかったみたいね」
「俺は一応アシュテネ出身なんだ。ちょっとは抑えてくれよ」
苦笑交じりにセスが言うが、シルキィはふんと鼻を鳴らしてそっぽを向くだけだ。
「関係ないわそんなこと。ラ・シエラは勝ったんだもの」
アシュテネが滅んだ背景には、なにかしらの陰謀があったというのが通説である。かの王は輝く虹の魔力を振るう大陸最強の剣士と呼ばれ、その武勇をもって国を興した。事実、帝国の本隊はいくら攻め入っても彼を討ち取れなかったのだ。ラ・シエラの参戦だけでそう簡単に戦況が覆るだろうか。
ラ・シエラがアシュテネ制覇を達成した理由については、帝国内でも様々な憶測が飛び交った。曰く、幾度となく繰り返した本隊との戦闘でアシュテネは疲弊していた。曰く、アシュテネ王が病に伏せた。曰く、トゥジクス・デ・ラ・シエラの武勇が常軌を逸していた。未だ明確な答えはない。
「お嬢様、過ぎた悪態は身を滅ぼします。お控え下さい」
「ふん」
ティアの諫言を、シルキィは渋々受け入れる。
食卓には沈黙が訪れ、不穏な雰囲気が漂っていた。セスは助けを求めて、ティアに視線を流す。
彼女はシルキィの後ろに控えていたが、セスの意を汲み取って口を開いた。
「セス様は、レイヴンズストーリーを読んだことがおありですか?」
「ああ。じっくりと読んだことはないけど、おおまかな流れは知ってるよ。地元でも大人気だからね。意識しなくても耳に入ってくる」
「でしたら、お気に入りの登場人物などはいるのでしょうか」
ふむ、とセスは考え込む。登場人物の全てを把握しているわけではないが、セスの頭にはある名前が浮かんでいた。
「エリーゼ、とか」
「なんですって」
反応したのはシルキィだ。
セスが口にしたのはレイヴンズストーリーのヒロインの名である。数奇な運命によって事件に巻き込まれる、否、自ら巻き込まれに行く平民の少女だ。
「エリーゼの、どこが好きなの?」
「改めて聞かれると答えづらいな。うーん……強いて言うなら、意志が固くて健気なところとか」
「へぇ。あなた、よくわかってるじゃない」
どうやらセスの答えは、シルキィのお気に召したらしい。打って変わって、彼女の顔に花の咲くような笑みが生まれた。
作品の主人公はレイヴンであるが、多くの女性読者が自己を投影する対象はやはり同性の登場人物である。シルキィはみるからに嬉しそうであった。
それからの会話はあまり弾まなかったが、シルキィの機嫌は直ったようだ。
ティアの振った話題のおかげである。彼女は相変わらず固い表情であったが、どことなく誇らしげな居様であった。
セスは心中、ティアに最敬礼をして感謝を捧げたのだった。
「アシュテネがさっさと降伏していれば、うちがお金に困ることなんてなかった。腹立たしいことこの上ないわ。アシュテネ王は剣で名を馳せたみたいだけど、為政者としては能がなかったみたいね」
「俺は一応アシュテネ出身なんだ。ちょっとは抑えてくれよ」
苦笑交じりにセスが言うが、シルキィはふんと鼻を鳴らしてそっぽを向くだけだ。
「関係ないわそんなこと。ラ・シエラは勝ったんだもの」
アシュテネが滅んだ背景には、なにかしらの陰謀があったというのが通説である。かの王は輝く虹の魔力を振るう大陸最強の剣士と呼ばれ、その武勇をもって国を興した。事実、帝国の本隊はいくら攻め入っても彼を討ち取れなかったのだ。ラ・シエラの参戦だけでそう簡単に戦況が覆るだろうか。
ラ・シエラがアシュテネ制覇を達成した理由については、帝国内でも様々な憶測が飛び交った。曰く、幾度となく繰り返した本隊との戦闘でアシュテネは疲弊していた。曰く、アシュテネ王が病に伏せた。曰く、トゥジクス・デ・ラ・シエラの武勇が常軌を逸していた。未だ明確な答えはない。
「お嬢様、過ぎた悪態は身を滅ぼします。お控え下さい」
「ふん」
ティアの諫言を、シルキィは渋々受け入れる。
食卓には沈黙が訪れ、不穏な雰囲気が漂っていた。セスは助けを求めて、ティアに視線を流す。
彼女はシルキィの後ろに控えていたが、セスの意を汲み取って口を開いた。
「セス様は、レイヴンズストーリーを読んだことがおありですか?」
「ああ。じっくりと読んだことはないけど、おおまかな流れは知ってるよ。地元でも大人気だからね。意識しなくても耳に入ってくる」
「でしたら、お気に入りの登場人物などはいるのでしょうか」
ふむ、とセスは考え込む。登場人物の全てを把握しているわけではないが、セスの頭にはある名前が浮かんでいた。
「エリーゼ、とか」
「なんですって」
反応したのはシルキィだ。
セスが口にしたのはレイヴンズストーリーのヒロインの名である。数奇な運命によって事件に巻き込まれる、否、自ら巻き込まれに行く平民の少女だ。
「エリーゼの、どこが好きなの?」
「改めて聞かれると答えづらいな。うーん……強いて言うなら、意志が固くて健気なところとか」
「へぇ。あなた、よくわかってるじゃない」
どうやらセスの答えは、シルキィのお気に召したらしい。打って変わって、彼女の顔に花の咲くような笑みが生まれた。
作品の主人公はレイヴンであるが、多くの女性読者が自己を投影する対象はやはり同性の登場人物である。シルキィはみるからに嬉しそうであった。
それからの会話はあまり弾まなかったが、シルキィの機嫌は直ったようだ。
ティアの振った話題のおかげである。彼女は相変わらず固い表情であったが、どことなく誇らしげな居様であった。
セスは心中、ティアに最敬礼をして感謝を捧げたのだった。
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