アルゴノートのおんがえし

朝食ダンゴ

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暗い地下牢にて

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 パマルティス大聖堂の地下に造られた頑丈な倉庫は、人質を収容する監獄として用いられていた。薄暗い倉庫の一つが、シルキィの独房である。施錠された鉄扉の小窓から見える燭台が唯一の光源だった。
 肌寒い地下で、シルキィはじっと膝を抱えていた。与えられた食事に手を付けないことを監視の兵に咎められたが、何も喉を通る気がしない。
 つい数日前までは順調な旅路にあったというのに、今ではこの有様だ。泣きたくなるのを堪える。堪えれば堪えるほど、思い浮かぶのは旅の仲間達の顔だった。

 二人は助けに来てくれるだろうか。
 期待する反面、ティアを危険に晒したくないという想いがあった。
 シルキィの脳裏をよぎるのはセスの姿だ。思えばエルンダで賊に襲撃された時、彼は確かに守ってくれた。無茶な命令も笑って承服してくれた。勇ましく剣を振る姿を、今になって思い返す。

 現金な話だ。散々馬鹿にして悪態を吐いてきたのに、今になって彼に期待している。必要ないなんて言っておいて、いざとなれば助けを求めている。
 自己中心的にも程がある。シルキィの唇から自嘲の溜息が漏れた。
 ふと、無音の牢獄に控えめなノックの音を聞いて、シルキィは顔を上げる。看守はノックなどしない。扉の小窓から、見知った少女が顔を覗かせていた。

「イライザ?」

「しっ」

 素っ頓狂な声を上げたシルキィに、人差し指を立てるイライザ。

「どうしてここに?」

 扉に手をつき、声を潜めて尋ねる。

「助けに来た。今は無理そうですが」

 シルキィは驚いた。まさか、イライザがやって来るとは思いもよらなかった。

「ごめんなさい。こんなことになったのは、私があなたを街の外に連れ出したせい」

 イライザは目を伏せる。衷心からの謝罪のように思えた。

「謝らないで。悪いのはアーリマンよ。あなたじゃない」

 シルキィの声にいつもの張りはなかった。暗く沈んだ表情をむりやり笑顔に変えて、自分の心を励ますのが精一杯だ。
 信頼していた者に裏切られるのが、こんなにも辛いとは思わなかった。
 今は、目の前に表れたイライザがなによりの支えになっている。

「あなたの護衛もここに向かってるはず。もうしばらくの辛抱です」

「セスに会ったの?」

「いいえ。でも、彼はきっと来る」

「どうしてそんなこと……やっぱり、セスを知ってるの?」

「お話はあと。今のところ見張りの目を誤魔化せていますが、長くは続かない。ここに忍び込むのだって一苦労だったんです」

 その通りだ。見つかれば、イライザの身は無事では済まないだろう。暢気に話をしている場合ではなかった。

「差し入れを持ってきました」

 小窓から渡されたのは、一冊の本。古びた表紙には見覚えがある。

「これって……」

「私の書斎にある大切な日記。あとでちゃんと返してください」

 イライザは早口で言い終えると、後ろを気にして振り返る。

「それじゃ、機を見計らってまた来ます」

 そう残して、姿を消した。
 シルキィは囚われの身ながら、イライザのことが心配になった。機を見計らうといっても、それまでどこに身を隠すのだろうか。そもそもどうやってこんなところまで忍び込んだのだろうか。
 受け取った日記に目を落とす。少なく見積もっても数十年以上も昔の年代物だろう。お世辞にも高級とは言えない装丁は、ところどころ色褪せていた。
 シルキィは、レイヴンズストーリーの物語を思い出す。小説の元となった薄い日記をじっと見つめてみた。題名はない。十三を意味する擦れた数字だけが表紙を飾っている。

 こんな状況でどうして日記など渡されたのか。暇つぶしというわけでもあるまい。けれど、今までもレイヴンの物語が励みになってきたのは事実だ。きっと何か意味がある。
 本を開こうとして、手が止まる。読みたいような読みたくないような。脚色を交えないレイヴンの姿を知ることが、少しだけ怖かった。

「よし」

 深呼吸を一つ。意を決して、日記を紐解いた。
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