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待ち伏せ
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どんな夢を聞かされようが決して驚くつもりはなかったが、実際セレンの言葉を聞いた俺はかなり意表を衝かれていた。
「それで冒険者クラブに入るってことか」
「そう。失望した?」
「するかよ」
せっかく高い志をもっているんだから、卑屈になっちゃだめだよな。
「自分で決めた目標なんだから、堂々と言えばいい。笑われたくなけりゃ胸を張ってろ」
「胸を張る……」
セレンは自分の胸をぺたぺたと触る。
あんまりないけど、そこも自信持てよ。おっぱい星人の俺が言うのもなんだが、大きけりゃいいってもんじゃない。
「ありがとう」
ここで感謝されるとは意外である。
「頑張る。胸を張って、堂々と。パパとママが果たせなかった夢だから」
「よし、その意気だ」
両親の夢を受け継ぐなんて、なんて健気な子なんだ。
「班もパーティも同じだからな。俺にできることなら手伝わせてくれ。目立たない範囲でなら、なんでもやるさ」
セレンの肩をぽんと叩く。うーん、華奢だ。
「優しい言葉と一緒にさりげなくボディタッチ……ご主人様、やっぱり手が早い」
サラがなんか言ってるが無視だ無視。
「ありがとう」
「いいってことよ」
二度目の感謝の言葉に、俺はひらひらと手を振る。
どことなくセレンが嬉しそうに見えるのは、俺の気のせいではないだろう。
それから、俺は何度かクラスメイトに班のお誘いを受けたが、すでに班を登録したことを告げると、誰もが大人しく引っ込んでいった。
俺がなまじ優秀だと思われているせいで、クラスメイト達も俺と険悪にはなりたくないんだろう。
『無職』と知れたら、こんなこともなくなるだろうな。それはそれで悪目立ちするから、あえて教えるようなことはしないけども。
閑話休題。
この日の授業は、つつがなく終わりを告げた。
一般教養ばかりだから、特筆すべき内容でもなかった。まあ、大体中学生レベルくらいの語学や算術だった。薬草学などは多少興味もわいたが、よく考えると理科の授業とそんな変わらなかった。
「部活、行く?」
「ああ。そうだな」
教材の片づけを終え、俺達は学園本棟へ向かう。大半のクラブの部室はあの建物内にあるようだ。
道中、セレンに話しかけてみる。
「ギルドの依頼って、すぐにでも受けられるのか?」
「今日入部すれば、明日には」
「明日か……」
それじゃ遅いんだよな。
とにかくまず金を稼がないといけない。今日のランチで、正真正銘の一文無しになってしまった。いま財布の中には、7エーンしかない。
「ご主人様、計画性なさすぎませんか……お金に関してはもっとシビアにならないと」
「いいんだよ適当で。行き当たりばったりの方がドラマが生まれるだろ」
「そんなことないと思いますけど」
サラが言うことは正しい。
だが、セレンの手前それを素直に認められない自分がいた。
やがて冒険者クラブの部室前に到着した俺は、そこに形作られた長蛇の行列に目を見開いていた。どうやら面接待ちの列らしい。
「すごい人だな。これ、全部入部希望者か?」
「たぶん」
「冒険者って下賤だと見下されているって話を聞いたけど、そんなこともないのかもしれないな」
「冒険者を見下しているのは一部の貴族だけ。多くの人は、様々な依頼を引き受けてくれる冒険者に感謝してる」
「イキールのやつは、まさに典型的な傲慢貴族ってわけか」
「そういうこと」
まぁ、職業に貴賤はないとも言うし。
この世界はスキル至上主義だから、冒険者でもスキルに恵まれていたら下手な貴族より価値があるとみなされる。それを貴族たちは恐れているのだろう。だから冒険者全体をこきおろして、優秀な人材を埋もれさせようとしているのか。
列に並ぶこと一時間。ようやく俺達の番が回ってきた。
「ようこそ。ロートスさん、セレンちゃん」
面接室に入った俺達を待っていたのは、なんとアデライト先生であった。
「……よく会いますね、先生」
俺はほとんど呆れていた。まさかここにも先回りしてきたのではあるまいな。
「なんですかその顔は。私は赴任した時から冒険者クラブの顧問をやっているんですよ。今回ばかりは偶然です」
「今回ばかりは、ね。クラス担任の件はそうじゃないと?」
アデライト先生はお茶目な感じで舌を見せる。
「よいのです。私にはその権限がありますから」
「職権乱用ですよそれ」
「やむを得ずです」
そんなことはないだろう、まったく。
気付けば、隣でセレンがじっと俺を見上げている。
「なんだ?」
「アデライト先生と親しい?」
「ああ。まあ、色々と縁があってな……」
「ふふ。先生とロートスさんは、いわゆる禁断の関係というやつですよ。わかりますか? セレンちゃん」
いらんことを言うな。ウソだし。
セレンは俺と先生を何度も交互に見て、すっと俯いてしまった。
「あらあら。何を想像してしまったのでしょう? 気になりますねぇ」
アデライト先生はいたずらっぽい笑みで、楽しそうにしていた。
あーもう。
「それで冒険者クラブに入るってことか」
「そう。失望した?」
「するかよ」
せっかく高い志をもっているんだから、卑屈になっちゃだめだよな。
「自分で決めた目標なんだから、堂々と言えばいい。笑われたくなけりゃ胸を張ってろ」
「胸を張る……」
セレンは自分の胸をぺたぺたと触る。
あんまりないけど、そこも自信持てよ。おっぱい星人の俺が言うのもなんだが、大きけりゃいいってもんじゃない。
「ありがとう」
ここで感謝されるとは意外である。
「頑張る。胸を張って、堂々と。パパとママが果たせなかった夢だから」
「よし、その意気だ」
両親の夢を受け継ぐなんて、なんて健気な子なんだ。
「班もパーティも同じだからな。俺にできることなら手伝わせてくれ。目立たない範囲でなら、なんでもやるさ」
セレンの肩をぽんと叩く。うーん、華奢だ。
「優しい言葉と一緒にさりげなくボディタッチ……ご主人様、やっぱり手が早い」
サラがなんか言ってるが無視だ無視。
「ありがとう」
「いいってことよ」
二度目の感謝の言葉に、俺はひらひらと手を振る。
どことなくセレンが嬉しそうに見えるのは、俺の気のせいではないだろう。
それから、俺は何度かクラスメイトに班のお誘いを受けたが、すでに班を登録したことを告げると、誰もが大人しく引っ込んでいった。
俺がなまじ優秀だと思われているせいで、クラスメイト達も俺と険悪にはなりたくないんだろう。
『無職』と知れたら、こんなこともなくなるだろうな。それはそれで悪目立ちするから、あえて教えるようなことはしないけども。
閑話休題。
この日の授業は、つつがなく終わりを告げた。
一般教養ばかりだから、特筆すべき内容でもなかった。まあ、大体中学生レベルくらいの語学や算術だった。薬草学などは多少興味もわいたが、よく考えると理科の授業とそんな変わらなかった。
「部活、行く?」
「ああ。そうだな」
教材の片づけを終え、俺達は学園本棟へ向かう。大半のクラブの部室はあの建物内にあるようだ。
道中、セレンに話しかけてみる。
「ギルドの依頼って、すぐにでも受けられるのか?」
「今日入部すれば、明日には」
「明日か……」
それじゃ遅いんだよな。
とにかくまず金を稼がないといけない。今日のランチで、正真正銘の一文無しになってしまった。いま財布の中には、7エーンしかない。
「ご主人様、計画性なさすぎませんか……お金に関してはもっとシビアにならないと」
「いいんだよ適当で。行き当たりばったりの方がドラマが生まれるだろ」
「そんなことないと思いますけど」
サラが言うことは正しい。
だが、セレンの手前それを素直に認められない自分がいた。
やがて冒険者クラブの部室前に到着した俺は、そこに形作られた長蛇の行列に目を見開いていた。どうやら面接待ちの列らしい。
「すごい人だな。これ、全部入部希望者か?」
「たぶん」
「冒険者って下賤だと見下されているって話を聞いたけど、そんなこともないのかもしれないな」
「冒険者を見下しているのは一部の貴族だけ。多くの人は、様々な依頼を引き受けてくれる冒険者に感謝してる」
「イキールのやつは、まさに典型的な傲慢貴族ってわけか」
「そういうこと」
まぁ、職業に貴賤はないとも言うし。
この世界はスキル至上主義だから、冒険者でもスキルに恵まれていたら下手な貴族より価値があるとみなされる。それを貴族たちは恐れているのだろう。だから冒険者全体をこきおろして、優秀な人材を埋もれさせようとしているのか。
列に並ぶこと一時間。ようやく俺達の番が回ってきた。
「ようこそ。ロートスさん、セレンちゃん」
面接室に入った俺達を待っていたのは、なんとアデライト先生であった。
「……よく会いますね、先生」
俺はほとんど呆れていた。まさかここにも先回りしてきたのではあるまいな。
「なんですかその顔は。私は赴任した時から冒険者クラブの顧問をやっているんですよ。今回ばかりは偶然です」
「今回ばかりは、ね。クラス担任の件はそうじゃないと?」
アデライト先生はお茶目な感じで舌を見せる。
「よいのです。私にはその権限がありますから」
「職権乱用ですよそれ」
「やむを得ずです」
そんなことはないだろう、まったく。
気付けば、隣でセレンがじっと俺を見上げている。
「なんだ?」
「アデライト先生と親しい?」
「ああ。まあ、色々と縁があってな……」
「ふふ。先生とロートスさんは、いわゆる禁断の関係というやつですよ。わかりますか? セレンちゃん」
いらんことを言うな。ウソだし。
セレンは俺と先生を何度も交互に見て、すっと俯いてしまった。
「あらあら。何を想像してしまったのでしょう? 気になりますねぇ」
アデライト先生はいたずらっぽい笑みで、楽しそうにしていた。
あーもう。
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