捨て犬侯爵と拾われ令嬢~捨てたはずの推しキャラに溺愛されてます!~

望月雪乃

文字の大きさ
31 / 31
7歳

30

しおりを挟む


 あれから数日が経った。

 私は今――初めて来た庭の草むらにしゃがみこみ、気配を隠している。


(私は無、私は空気、私は透明)


 心の中で何度も自分に繰り返し言い聞かせて、物音が聞こえるか耳を澄ます。
 遠くで自分を呼ぶ声が聞こえるも反応は見せたりしない。

 時計がなくてどれくらい経ったかまでは分からないけど、少なくとも日は明るい。このまま時間が過ぎるのを待とうとした時だった。


「ねえさま、みーっけ!」
「……あーあ。見つかっちゃったか」


 自分の頭上から聞こえた声に溜息をつきつつ笑顔で顔を出した。
 目の前には私を呼んだルーカスと彼を肩車しているクイナの姿があった。


 そう、私達は今かくれんぼをしていたのだ。


「すごいね、クイナ!ねえさまがどこに隠れてもちゃんと見つけるんだもん!」
「そうね。ここは意外と隠れる穴場だから見つからないと思ってたのに」
「どんな場所に居ても私はちゃんとお嬢様を見つけることが出来ますから」


 クイナの言葉に私は嬉しくなればいいのか困ればいいのか分からずに思わず苦笑いをする。

 私達は今、グラシア家が所有している別荘に遊びに来ていた。
 馬車に半日程乗ってたどり着く、いわゆる避暑地だ。

 母やルーカスと語り合ったあの日から、様々な出来事が私を襲った。
 見てわかる通り私とルーカスの他にクイナも共に遊ぶ事が多くなってよく三人で共に過ごしている。
 
 怪我をさせる程クイナを嫌がっていたルーカスだけど同年代で同性の子供は新鮮だったのか今では私から見ると仲良くしてるように見える。


 そして、今回の旅行は私達の他にも来ている。


「リリィ、ルーカス……!」


 三人で手を繋ぎ別荘に戻ろうと歩いてると私達を呼ぶ声が聞こえる。
 その方向を見ると誰かが大きく手を振り私達を呼んでいた。


「かあさま!」


 呼ばれたルーカスが私達から手を離すと一目散に駆けていく。
 走って行った先には私達を呼んだお母様、そしてお母様の傍に寄り添うように立つお父様が居た。

 一番私達の中で変化があったのは両親だ。
 子供達に反抗されたあの後、落ち込むお母様の元にお父様が慰めに行った。

 そして、二人が話し合った結果お互いの気持ちがすれ違っていた事が発覚。
 元々父は言葉にすることが苦手で、政略結婚だと思われてた結婚も実は父が学生時代から母に片思いをしていて、母の実家にお願いして婚姻した。
 
 そして、私が生まれた時も嬉しさが込み上げて上手く言葉に出来ず、娘を生んでくれてありがとうの一言が言えなくてあの言葉だけが出てきたのだった。
 
 母も政略結婚だから愛情もなく義務として妻に迎えられたと思っていたのに、父から愛されていたと聞いて今まで抱えていた苦しかったことや悲しかったことをぶつけるように伝えたらしい。
 その後、二人で私の部屋に来た両親はこれまで冷たく育ててきたことを謝り、これからは姉弟それぞれを力いっぱい愛すると二人に抱きしめられながら言われた。

 そして、今……娘の私が見ても分かるくらいに二人の愛情は再燃したようだ。


 


 ルーカスが走り去ってクイナと二人きりになり、私は先程までルーカスと繋いでいた手を今度はクイナと繋げた。
 こんな時じゃないと最近はクイナを独り占め出来なくて、今のうちとばかりにクイナを堪能する。

 私からいきなり手を握られたクイナは驚く反応を見せることなく微笑んでくれた。


「どうかしましたか?」
「……べつにー」


 クイナに素直に淋しいと言えなくて素っ気なく返してしまう。
 繋がっていた手がリードのようになっていたためか、突然クイナが足を止まると前に進もうとしていた私も動けなくなってしまった。

 何故か、私の手を握るクイナの力が強くなったように感じる。


「リーンお嬢様、今は誰もいません。ちゃんと言ってくれなければ私は分かりません。だから……何故お嬢様は素っ気ないのか……教えてくれませんか?」


 いつもは立ってる犬耳が垂れて、子犬のような瞳で私を見ている、だと!?
 何この可愛くて尊い子は……っ! 推しキャラのクイナですね、知ってました!
 しっぽも淋しそうに揺れてるし、こんなの見てるだけなんて我慢できませんよね、私はできません。

 目の前の愛しい存在の可愛い姿を見て我慢できずクイナに勢いよく抱きつく。
 そして顔をクイナの胸に押し付けて甘えるように頬擦りまで堪能してしまった。


「お嬢様?」
「だって、最近クーがルーカスと一緒に遊んでるから……独り占めできないんだもん。私のクーなのに」


 はい、小さな弟にヤキモチ妬いてました。
 両親も弟もクイナを奴隷としてではなくきちんと一人の従者として扱ってくれるようになったけど、その分私以外の人とも過ごすのは当たり前になっていた。
 喜ばしいことなのに、独り占めできない淋しさからいじけてしまったのだ。

 私は淋しいんだぞ!と頬を膨らませながらクイナの胸に頭をグリグリと押し付けると私の行動を見たクイナが耐えきれないように笑いだした。


「本当に、リーンお嬢様は……っ……はは」
「な、なによ。文句でもある?」
「いいえ」


 膨らませていた頬に繋がっていなかったクイナの少し冷たい手が触れる。
 クイナのまつ毛って長いなーと思ってしまうほど顔が近付いてきたことに気付いた時はクイナの口は耳元に近付いて、そして囁いた。


「いじけなくても大丈夫ですよ。オレの全てはリーンのものだから。これからもずっと……ね?」


 あ、あ、あまーーい!
 推しからこんなに胸きゅんセリフを耳元で囁かれてドキドキしないなんて無理!
 自分の顔が熱いと感じる程だ、鏡を見なくても顔がゆでダコのように顔が真っ赤になってると理解出来る。


 私の反応を見て満足したのかクイナが私を引っ張っていくように歩き始める。

 ああ、神様。どうか別荘までの道が少しでも遠くなりますように……と、繋ぐ手を握り返しながら私は願ったのだった。



≪7歳編 完≫


しおりを挟む
感想 3

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(3件)

ごまだんご
2024.10.25 ごまだんご

とても好きです!!

解除
ちね
2021.07.14 ちね

肉食系、草食系は反日ヘイト日本人差別語です

ウンコを食べる某整形民族が作った日本人差別語

解除
陰東 紅祢
2021.02.07 陰東 紅祢

拝見しました!

悪徳令嬢ものですね! 大好物です(* >ω<)
出だしからめちゃくちゃ気になるじゃないですかー!!
読んだ瞬間から「ヒャ~Σ(*゚Д゚*)! イイ!!」と我ながら声をあげてしまいました(1人で良かった(笑))

また拝見しに参りますね!

2021.02.08 望月雪乃

読んで頂きありがとうございました!
出だしはとても大事だと思い一番書きたいシーンを書いてみました!
もちろんこの場面に至るまでの二人の様々な出来事をこれからも書いていきますので是非これからもお楽しみにしていてください!

解除

あなたにおすすめの小説

公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています

六花心碧
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった! 『推しのバッドエンドを阻止したい』 そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。 推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?! ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱ ◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!  皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*) (外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

【完結】ハメられて追放された悪役令嬢ですが、爬虫類好きな私はドラゴンだってサイコーです。

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
 やってもいない罪を被せられ、公爵令嬢だったルナティアは断罪される。  王太子であった婚約者も親友であったサーシャに盗られ、家族からも見捨てられてしまった。  教会に生涯幽閉となる手前で、幼馴染である宰相の手腕により獣人の王であるドラゴンの元へ嫁がされることに。  惨めだとあざ笑うサーシャたちを無視し、悲嘆にくれるように見えたルナティアだが、実は大の爬虫類好きだった。  簡単に裏切る人になんてもう未練はない。  むしろ自分の好きなモノたちに囲まれている方が幸せデス。

無表情な黒豹騎士に懐かれたら、元の世界に戻れなくなった私の話を切実に聞いて欲しい!

カントリー
恋愛
「懐かれた時はネコちゃんみたいで可愛いなと思った時期がありました。」 でも懐かれたのは、獲物を狙う肉食獣そのものでした。by大空都子。 大空都子(おおぞら みやこ)。食べる事や料理をする事が大好きな小太した女子高校生。 今日も施設の仲間に料理を振るうため、買い出しに外を歩いていた所、暴走車両により交通事故に遭い異世界へ転移してしまう。 ダーク 「…美味そうだな…」ジュル… 都子「あっ…ありがとうございます!」 (えっ…作った料理の事だよね…) 元の世界に戻るまで、都子こと「ヨーグル・オオゾラ」はクモード城で料理人として働く事になるが… これは大空都子が黒豹騎士ダーク・スカイに懐かれ、最終的には逃げられなくなるお話。 小説の「異世界でお菓子屋さんを始めました!」から20年前の物語となります。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

【完結】転生したら悪役令嬢だった腐女子、推し課金金策してたら無双でざまぁで愛されキャラ?いえいえ私は見守りたいだけですわ

鏑木 うりこ
恋愛
 毒親から逃げ出してブラック企業で働いていた私の箱推し乙女ゲーム「トランプる!」超重課金兵だった私はどうやらその世界に転生してしまったらしい。  圧倒的ご褒美かつ感謝なのだが、如何せん推しに課金するお金がない!推しがいるのに課金が出来ないなんてトラ畜(トランプる重課金者の総称)として失格も良い所だわ!  なりふり構わず、我が道を邁進していると……おや?キング達の様子が?……おや?クイーン達も??  「クラブ・クイーン」マリエル・クラブの廃オタク課金生活が始まったのですわ。 *ハイパーご都合主義&ネット用語、オタ用語が飛び交う大変に頭の悪い作品となっております。 *ご照覧いただけたら幸いです。 *深く考えないでいただけるともっと幸いです。 *作者阿呆やな~楽しいだけで書いとるやろ、しょーがねーなーと思っていただけるともっと幸いです。 *あと、なんだろう……怒らないでね……(*‘ω‘ *)えへへ……。  マリエルが腐女子ですが、腐女子っぽい発言はあまりしないようにしています。BLは起こりません(笑)  2022年1月2日から公開して3月16日で本編が終了致しました。長い間たくさん見ていただいて本当にありがとうございました(*‘ω‘ *)  恋愛大賞は35位と健闘させて頂きました!応援、感想、お気に入りなどたくさんありがとうございました!

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。