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二章
24 垂直落下
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まだ戦っている戦士たちは、一部の化け物じみた猛者を除いて皆満身創痍の様相だ。
タフというか手足がちぎれても意識が切れるまで戦っている、といった風だ。
それはそれで精神が驚異的すぎるが、もう長くはしのげまい。
おそらく指揮官は、狙ってこの状況を作り出している。
加えて、ダッタの相手をしている聖刻騎士団の男が、なりふり構わず戦場内の空間をかき乱している。
男の脛当て型法具が大きく踊るたびに、戦士たちが巻き込まれそうになっているのだ。
ダッタを相手にしながらわざと周囲に被害が及ぶように暴れているように見える。騎士の男はまだ全然余裕がありそうだ。
全体は拮抗しているように見えて、流れは、確実に敵側が掴んでいる。
「まっ、まずはあの騎士を押さえるんだ! ダッタ一人で戦わせずに複数でかかろう!」
俺は叫ぶが、
「お前がやれ!」
「こっちはこっちで手いっぱいだ!」
「死ね!」
周囲からは肯定的な意見が返ってこない。
もたもたしているうちに、ダッタの足元に二体のフレイバグが駆け寄る。
一体は俺が盾で防ぐも、もう一体のブレードがふくらはぎをかすめる。
「!」
傷は深くはないようだが、ふらつくダッタ。
「もらった!」
それを騎士の男は見逃さない。
俺は巻き込まれる危険を承知で飛び出し、間一髪、騎士の前に盾を出現させる。
「来やがったな!」
ダッタの前で盾に阻まれて止まった足を不思議に思わない様子で、騎士の男は振り向いた。
流れのまま、ダッタは俺の背後で、襲ってきたフレイバグを相手する。
「待ちくたびれてたぜ! お前が出てくるのを!」
「…………」
試すように刃付きの蹴り。
フェイントじゃない。
まっすぐな蹴りだ。
ダッタの前に出していた盾を消して、新たに俺の眼前に盾を出現させる。
一撃でも当たれば命に関わる蹴りが、盾に阻まれて止まる。
「ふん」
と鼻を鳴らす騎士の男。
「近くでも見えねえな。盾っぽいってことくらいしかわからねえし、手応えがねえ。ぶっ壊せる気がしねえな」
横から、ダッタが槍を突き出す。
それを避けつつ、
「だが、その防御方法には弱点があるなあ! そうだろ!」
騎士の男は低く跳び、俺の方へ回り込むようにせまる。
「見えねえ盾みてえなのは、人形の法具のように自律してねえ。てめえで操作しないとだめなんだ。そうだろ!? だがお前は致命的なまでに戦い慣れてねえ! 動きがぎこちないからすぐわかったぜ! だから、こうやってよお、速く動きながら隙を狙っていけば態勢は崩れるよなあ!」
盾で防御しようとするも、ダッタがやったように、こいつにも素早く回り込まれる。
こいつの言うとおりだ。
相手がどう動くのか、俺には予想が難しい。
敵の速い動きに対応できない。
俺は後退するが、
「捉えたぜ!」
腕と胸ぐらを押さえられた。
「くっ!」
やはり、俺なんかじゃまともに戦えないか……!
「掴めはする、ならよかったぜ。いくら硬い盾があろうと、どう防いでいるかわかるまいと――」
そして俺を押さえたまま、騎士の男は真上へ跳ぶ。
力強く、飛翔していく。
「エン様!」
脛当て型法具――飛躍の法具が、勢いよく空気を吹き出している。
あっという間に上空――アギ族の家や木々よりもずっと高く飛び上がった。
「――おい、まさか」
探りを入れながら戦っているらしいおかげで、いきなり蹴り殺されることはなかったのはよかった。
よかったが、しかし、相手はそれよりもずっと確実な方法を選択した。
「いくら防御ができても、この高さから落ちりゃあひとたまりもないよなあ!」
ダッタたちが豆粒のようになってしまうほど跳び上がると、今度は法具を上方向へ向けて空気を噴出。
地上へ向けて一気に落下する。
……けど、
「こんな事態、俺が心配してないとでも思ったのか?」
さきほどこの男は俺のことを見ていると言っていたが、それは俺も同じだ。
どのように戦うのか、性質はどういったものか、俺はフレイバグたちの攻撃を防ぎながら、ダッタと戦っているところを横目でつぶさに観察していた。
こうして高くまでぶち上げて落とすという攻撃方法も、できるんじゃないかと思った。
「お前の法具は、こうして移動目的で空気を噴射している間は、その足を攻撃には使えない!」
彼は移動の軌道を乱さないために、移動の噴射と蹴りの噴射を使い分けており、同時には使っていない。
蹴りを出すのは移動の噴射が終わったあとだ。
こうして移動に法具の力すべてを使っている状態では、蹴りの噴射は使えない。
「だからどうした!?」
男の問に答えるように、俺は空中で盾を形成し、その場に固定。
そこに片腕を伸ばす。
「それが俺が動ける隙になる! 空中でも俺の盾は出せる。お前だけ落ちろ……!」
盾を掴んで俺の落下を止めて、こいつを振り払う!
「甘めえ!」
俺が盾をつかもうとした直前、男は落下の軌道を変えて盾をかわした。
なんて反射神経。瞬時に、しかもスピードが落ちるのを承知で、無理やり軌道を曲げた。
「!」
振り回されて、指が、ギリギリ盾まで届かず――
「なんのために一緒に落下してると思ってるんだ間抜けが! ノロマが何しようが後出しでいくらでも対処できるわ!」
地上がすでに、すぐそこまで迫っていた。
タフというか手足がちぎれても意識が切れるまで戦っている、といった風だ。
それはそれで精神が驚異的すぎるが、もう長くはしのげまい。
おそらく指揮官は、狙ってこの状況を作り出している。
加えて、ダッタの相手をしている聖刻騎士団の男が、なりふり構わず戦場内の空間をかき乱している。
男の脛当て型法具が大きく踊るたびに、戦士たちが巻き込まれそうになっているのだ。
ダッタを相手にしながらわざと周囲に被害が及ぶように暴れているように見える。騎士の男はまだ全然余裕がありそうだ。
全体は拮抗しているように見えて、流れは、確実に敵側が掴んでいる。
「まっ、まずはあの騎士を押さえるんだ! ダッタ一人で戦わせずに複数でかかろう!」
俺は叫ぶが、
「お前がやれ!」
「こっちはこっちで手いっぱいだ!」
「死ね!」
周囲からは肯定的な意見が返ってこない。
もたもたしているうちに、ダッタの足元に二体のフレイバグが駆け寄る。
一体は俺が盾で防ぐも、もう一体のブレードがふくらはぎをかすめる。
「!」
傷は深くはないようだが、ふらつくダッタ。
「もらった!」
それを騎士の男は見逃さない。
俺は巻き込まれる危険を承知で飛び出し、間一髪、騎士の前に盾を出現させる。
「来やがったな!」
ダッタの前で盾に阻まれて止まった足を不思議に思わない様子で、騎士の男は振り向いた。
流れのまま、ダッタは俺の背後で、襲ってきたフレイバグを相手する。
「待ちくたびれてたぜ! お前が出てくるのを!」
「…………」
試すように刃付きの蹴り。
フェイントじゃない。
まっすぐな蹴りだ。
ダッタの前に出していた盾を消して、新たに俺の眼前に盾を出現させる。
一撃でも当たれば命に関わる蹴りが、盾に阻まれて止まる。
「ふん」
と鼻を鳴らす騎士の男。
「近くでも見えねえな。盾っぽいってことくらいしかわからねえし、手応えがねえ。ぶっ壊せる気がしねえな」
横から、ダッタが槍を突き出す。
それを避けつつ、
「だが、その防御方法には弱点があるなあ! そうだろ!」
騎士の男は低く跳び、俺の方へ回り込むようにせまる。
「見えねえ盾みてえなのは、人形の法具のように自律してねえ。てめえで操作しないとだめなんだ。そうだろ!? だがお前は致命的なまでに戦い慣れてねえ! 動きがぎこちないからすぐわかったぜ! だから、こうやってよお、速く動きながら隙を狙っていけば態勢は崩れるよなあ!」
盾で防御しようとするも、ダッタがやったように、こいつにも素早く回り込まれる。
こいつの言うとおりだ。
相手がどう動くのか、俺には予想が難しい。
敵の速い動きに対応できない。
俺は後退するが、
「捉えたぜ!」
腕と胸ぐらを押さえられた。
「くっ!」
やはり、俺なんかじゃまともに戦えないか……!
「掴めはする、ならよかったぜ。いくら硬い盾があろうと、どう防いでいるかわかるまいと――」
そして俺を押さえたまま、騎士の男は真上へ跳ぶ。
力強く、飛翔していく。
「エン様!」
脛当て型法具――飛躍の法具が、勢いよく空気を吹き出している。
あっという間に上空――アギ族の家や木々よりもずっと高く飛び上がった。
「――おい、まさか」
探りを入れながら戦っているらしいおかげで、いきなり蹴り殺されることはなかったのはよかった。
よかったが、しかし、相手はそれよりもずっと確実な方法を選択した。
「いくら防御ができても、この高さから落ちりゃあひとたまりもないよなあ!」
ダッタたちが豆粒のようになってしまうほど跳び上がると、今度は法具を上方向へ向けて空気を噴出。
地上へ向けて一気に落下する。
……けど、
「こんな事態、俺が心配してないとでも思ったのか?」
さきほどこの男は俺のことを見ていると言っていたが、それは俺も同じだ。
どのように戦うのか、性質はどういったものか、俺はフレイバグたちの攻撃を防ぎながら、ダッタと戦っているところを横目でつぶさに観察していた。
こうして高くまでぶち上げて落とすという攻撃方法も、できるんじゃないかと思った。
「お前の法具は、こうして移動目的で空気を噴射している間は、その足を攻撃には使えない!」
彼は移動の軌道を乱さないために、移動の噴射と蹴りの噴射を使い分けており、同時には使っていない。
蹴りを出すのは移動の噴射が終わったあとだ。
こうして移動に法具の力すべてを使っている状態では、蹴りの噴射は使えない。
「だからどうした!?」
男の問に答えるように、俺は空中で盾を形成し、その場に固定。
そこに片腕を伸ばす。
「それが俺が動ける隙になる! 空中でも俺の盾は出せる。お前だけ落ちろ……!」
盾を掴んで俺の落下を止めて、こいつを振り払う!
「甘めえ!」
俺が盾をつかもうとした直前、男は落下の軌道を変えて盾をかわした。
なんて反射神経。瞬時に、しかもスピードが落ちるのを承知で、無理やり軌道を曲げた。
「!」
振り回されて、指が、ギリギリ盾まで届かず――
「なんのために一緒に落下してると思ってるんだ間抜けが! ノロマが何しようが後出しでいくらでも対処できるわ!」
地上がすでに、すぐそこまで迫っていた。
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