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二章
25 亡失の真価
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あっという間に地上が目の前に来る。
加速された落下スピードに加え、頭が下になるように固定されている。
このまま地上に激突して助かる生物なんていない。
「死ね!」
騎士の男が俺から手を離し、地上に向けて空気を逆噴射させる。
緩やかに減速しながら落下する騎士の男。
対して俺は、地面に後頭部を激突させた。
…………。
俺に衝撃はない。
「――!?」
勝利を確信して笑っていた騎士の男の表情が、しかし次の瞬間には驚愕に染まる。
俺は出現させ直した盾を下敷きに地上に落下していた。
盾の上に、俺は激突したのだ。
「やっぱりか。この盾、ただ攻撃を防いでいたわけじゃない……」
俺は無傷だった。
この盾の性質に賭けたのだった。
こっちのパターンも予想はしていたが、無傷でいく確信がなかった。
でも、うまくいってよかった。
「俺のプロヴィデンスも、ちゃんと失わせる力だった……そういうことか」
盾を消して、起き上がる。
「ちっ、どうなってんだよ、その力は」
一歩遅れて、騎士の男が柔らかく着地した。
「マジで法具じゃねえのか?」
騎士の男は動こうとした。が――
「?」
すぐに違和感に気づいた。
自分が動けなくなっていることに。
「なんだ、これ、動けねえ!? 地を蹴る手応えがねえ!」
騎士の男はうろたえながら、しかしどこにも移動できずにその場にとどまっている。
俺は持っているゲッカレイメイを、男の足元に向けた。
知覚できている。盾は、今ゲッカレイメイの指し示す場所にあった。
「今、お前が着地する時に、地面とお前の間に盾を滑り込ませた」
やはりこの盾は、そういうことだったんだ。
亡失の悪魔・ミナナゴの力。
「飛んできたナイフがこの盾に当たると、跳ね返らずにその場に落ちるんだ」
「あぁ!?」
「全力でナイフがぶつかったんなら、刺さらなかった場合衝撃でナイフは跳ね返るはずだ。でも、その場に落ちた。アギ族の槍を防いだときも、はじかれずに盾に接触する形でピタリと止まった。同じ理屈だ。お前の地面を蹴ろうとする力は、俺のプロヴィデンスで消失した」
――『前に進む力を失わせる』。
俺のプロヴィデンスには、そういう能力が込められていたんだ。
もっとも、毒の進行さえ失わせるなんて、思いもしなかったが。
「その盾に触れている限りは、前に進む力はなくなっていくみたいだな」
「足がだめでも、空気の噴出で!」
空気を噴き出すも、推進がうまくできずにバランスを崩し、騎士の男は膝と手をついてしまう。
騎士の男から、舌打ちが聞こえた。
「くそが、ますます動けなく――」
「脛当ての外側に神聖文字がついているな。人形の法具は内側に付いていたのに。触りやすくなっているのは、何か意味があるな」
「何言ってやがる!」
「法具の発動条件みたいなのがあるとしたら、文字を触らなきゃいけないとか、そういうのがあるんじゃないかって思ったんだ。……あとは、狙いやすくていいなってことだ」
ダッタが後ろから、騎士の男を拘束する。
「やめろ、はなせ!」
「ダッタ、脛当てを外してくれ」
うなずいたダッタは、脛当てのベルトを手際よく外す。さすが早い。
「そしてこの盾、前に進む力を失わせているのは外側だけらしい」
盾を自分のところに引き戻し、盾の内側を叩いてみると、普通に反動が返ってくる。
フレイバグを破壊できたのは、亡失の力がない裏側で攻撃したからだ。
「な、何をしやがる!」
飛躍の法具を放り投げるダッタ。
放物線を描きながらこちらに来るそれに狙いを定める。
「見えないだろうが、すぐにわかる。俺のプロヴィデンスが何をどうしようとしているのか」
俺は盾の花びらのような部分を折りたたみ、亡失能力のない裏側を表にして、ランスのように太く、針のように鋭く尖らせていく。
俺はそれを――騎士の脛当てに向けて放つ。
「やめろおおおおっ!」
守るためのプロヴィデンスの理を曲げて放つ一撃。
飛躍の法具が粉砕され、盾と、持っているゲッカレイメイが霧散した。
加速された落下スピードに加え、頭が下になるように固定されている。
このまま地上に激突して助かる生物なんていない。
「死ね!」
騎士の男が俺から手を離し、地上に向けて空気を逆噴射させる。
緩やかに減速しながら落下する騎士の男。
対して俺は、地面に後頭部を激突させた。
…………。
俺に衝撃はない。
「――!?」
勝利を確信して笑っていた騎士の男の表情が、しかし次の瞬間には驚愕に染まる。
俺は出現させ直した盾を下敷きに地上に落下していた。
盾の上に、俺は激突したのだ。
「やっぱりか。この盾、ただ攻撃を防いでいたわけじゃない……」
俺は無傷だった。
この盾の性質に賭けたのだった。
こっちのパターンも予想はしていたが、無傷でいく確信がなかった。
でも、うまくいってよかった。
「俺のプロヴィデンスも、ちゃんと失わせる力だった……そういうことか」
盾を消して、起き上がる。
「ちっ、どうなってんだよ、その力は」
一歩遅れて、騎士の男が柔らかく着地した。
「マジで法具じゃねえのか?」
騎士の男は動こうとした。が――
「?」
すぐに違和感に気づいた。
自分が動けなくなっていることに。
「なんだ、これ、動けねえ!? 地を蹴る手応えがねえ!」
騎士の男はうろたえながら、しかしどこにも移動できずにその場にとどまっている。
俺は持っているゲッカレイメイを、男の足元に向けた。
知覚できている。盾は、今ゲッカレイメイの指し示す場所にあった。
「今、お前が着地する時に、地面とお前の間に盾を滑り込ませた」
やはりこの盾は、そういうことだったんだ。
亡失の悪魔・ミナナゴの力。
「飛んできたナイフがこの盾に当たると、跳ね返らずにその場に落ちるんだ」
「あぁ!?」
「全力でナイフがぶつかったんなら、刺さらなかった場合衝撃でナイフは跳ね返るはずだ。でも、その場に落ちた。アギ族の槍を防いだときも、はじかれずに盾に接触する形でピタリと止まった。同じ理屈だ。お前の地面を蹴ろうとする力は、俺のプロヴィデンスで消失した」
――『前に進む力を失わせる』。
俺のプロヴィデンスには、そういう能力が込められていたんだ。
もっとも、毒の進行さえ失わせるなんて、思いもしなかったが。
「その盾に触れている限りは、前に進む力はなくなっていくみたいだな」
「足がだめでも、空気の噴出で!」
空気を噴き出すも、推進がうまくできずにバランスを崩し、騎士の男は膝と手をついてしまう。
騎士の男から、舌打ちが聞こえた。
「くそが、ますます動けなく――」
「脛当ての外側に神聖文字がついているな。人形の法具は内側に付いていたのに。触りやすくなっているのは、何か意味があるな」
「何言ってやがる!」
「法具の発動条件みたいなのがあるとしたら、文字を触らなきゃいけないとか、そういうのがあるんじゃないかって思ったんだ。……あとは、狙いやすくていいなってことだ」
ダッタが後ろから、騎士の男を拘束する。
「やめろ、はなせ!」
「ダッタ、脛当てを外してくれ」
うなずいたダッタは、脛当てのベルトを手際よく外す。さすが早い。
「そしてこの盾、前に進む力を失わせているのは外側だけらしい」
盾を自分のところに引き戻し、盾の内側を叩いてみると、普通に反動が返ってくる。
フレイバグを破壊できたのは、亡失の力がない裏側で攻撃したからだ。
「な、何をしやがる!」
飛躍の法具を放り投げるダッタ。
放物線を描きながらこちらに来るそれに狙いを定める。
「見えないだろうが、すぐにわかる。俺のプロヴィデンスが何をどうしようとしているのか」
俺は盾の花びらのような部分を折りたたみ、亡失能力のない裏側を表にして、ランスのように太く、針のように鋭く尖らせていく。
俺はそれを――騎士の脛当てに向けて放つ。
「やめろおおおおっ!」
守るためのプロヴィデンスの理を曲げて放つ一撃。
飛躍の法具が粉砕され、盾と、持っているゲッカレイメイが霧散した。
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