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二章
26 勝利と引き際
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……やっぱり攻撃に使うと消えるってのは心もとないな。
攻撃することで命を守れることもあるっていうのに。
「ぐっ、てめえら、くそっ」
ダッタに拘束されながら、騎士の男は脱力した。
「!」
男を見て、俺は言葉を失う。
無骨な脛当てをしていたはずのその足は、普段移動で使っているとは思えないほどやせ細っていた。
そこには骨と皮だけしかなく、ずっと動かしていないことは明白だった。
「おい、その足……」
騎士の男はそれを俺に見つけられると、バツが悪そうに舌打ちした。
「昔ついた傷のせいで、法具の補助がねえとまともに歩けねえ。だがそれがどうした?」
敵ながら少し気にしてしまったが、しかし今はどうでもいい。
とにかく、目の上のたんこぶは取れた。
「動ける奴らは集まってくれ! 密集して戦う! 凌ぐにはこれしかない!」
俺は森の中から飛来する矢をしのいでいたモルガに目配せをすると、皆に叫んだ。
モルガはすぐさま俺の言いたいことを理解し、
「密集だ! 四角い形を作るように寄り集まって整列しろ!」
叫ぶ。
俺と怪我をしている戦士は一列目でフレイバグの残骸を盾にして、矢や人形の法具の攻撃を防ぐ。
二列目にまだ戦える戦士を置いて盾の隙間から応戦する。
これなら二対一になって潰されることはない。
整列すればお互いの側面を守れるし、四角形を作るようにすればお互いの背後を守れ、正面からの攻撃だけ注意すればいい。
悪霊の小屋を背にすれば四角い陣形の一面は人を割かずに済む。
むしろ向かってきた人形の法具たちを複数人で迎え撃つことができる。
彼らの槍とも相性がいいし、少数だからフットワークも軽くて済む。
「こいつ、どうすればよかった?」
遅れてダッタが騎士の男を拘束しながら尋ねる。
「人質にする。陣の中に引き入れてくれ」
俺が言うと、ダッタはうなずいた。
その時、
「――もういい」
森の中から、鎧姿の男が姿を現した。
俺と同じような歳だろうか。銀髪の、長い髪の男だった。
「こちらの負けだ。被害が大きすぎる」
アギの戦士たちと戦っていた人形の法具たちが、俺たちには脇目も振らず一斉にダッタを取り囲んでいた。
「アマジスを――その男を離してくれたら、おとなしく撤退する。アケアロス神に誓って嘘はつかない」
さすがのダッタも俺に目配せをする。
このままだとダッタが食い殺されそうだな。問答無用で食い殺さないところを見るとちゃんと取引をしようとしてくれているみたいだ。
「そいつを離してやってくれ、ダッタ」
すぐさま、ダッタはフレイバグの背中を足蹴にして跳び、俺の元へと戻ってくる。
銀髪の男は、その場に尻もちをついていた騎士の男を抱えあげた。
「おい、離せスレム! マジでこれで戦いをやめる気か!?」
文句を言われるも、銀髪の男は聞かない。
そして俺に向き直る。
ダッタが槍を構えたが、俺はそれを制した。
人形の法具は動きを止めている。
騎士の男を助けるだけなら人形の法具にやってもらえればいい。
あえて顔を出して自ら騎士の男を助けたのは、こちらとコミュニケーションを取りたいからだ。
出方をうかがっていると、銀髪の男が、
「きみは、何者だ?」
俺と目を合わせてゆっくりと口を開いた。
銀髪――レーニャも銀髪だったな。
このへんでは見ない髪の色だ。少なくとも、皇国内では珍しい方だろう。
俺は憮然として答える。
「聖刻騎士団の騎士に……一星宗の犬に名乗る名はないな」
「そういうふうに言わないでもらいたい。とても失礼だ」
正直な感想だった。
挑発するようにあえて口を悪くしたが、乗るつもりはないらしい。
「……私は聖刻騎士団のスレムだ。最近、皇国本国からここアルトゥーサへ赴任して来た」
言いながら、銀髪の騎士――スレムは俺たちに背を向け、人形の法具たちを連れながら森の中へ戻ろうとする。
「こいつが指揮官か!」
「隙だらけじゃねえか!」
「殺せ!」
血気さかんなアギ族の戦士が三人、その背中に飛びかかった。
なにか、まずい。嫌な予感がする。
ここまで戦況を見てきて引き際まで見極めているやつが、不意打ちを予期してないはずがない。
「おい――」
止めようと口を開いた一瞬、スレムの腰に提げていた剣が光った。
ほんの一瞬だ。
光が収まると、いつの間にか斬られた三人がその場に転がった。
「!」
「もしきみたちが一星宗に迎合しないというのなら、また攻めざるをえない。どうか、改めてくれ。今度は命を奪わなければならないかもしれない」
顔だけ俺たちの方へくれると、銀髪の隙間から固い意志の瞳が覗いた。
剣を抜いたようには見えなかった。
しかし一瞬にして三人が斬られていた。
傷は浅いようだが、簡単に動けないように手足を主に切られている。
……あれも法具か。
俺たちが見送るようにして、人形の法具や聖刻騎士団は撤退していく。
これで、終わったか。
思ったら、手足に力が入らなかった。
能力を使いすぎて、憔悴したらしい。
俺は吸い込まれるように地面へ倒れ、意識を失った。
攻撃することで命を守れることもあるっていうのに。
「ぐっ、てめえら、くそっ」
ダッタに拘束されながら、騎士の男は脱力した。
「!」
男を見て、俺は言葉を失う。
無骨な脛当てをしていたはずのその足は、普段移動で使っているとは思えないほどやせ細っていた。
そこには骨と皮だけしかなく、ずっと動かしていないことは明白だった。
「おい、その足……」
騎士の男はそれを俺に見つけられると、バツが悪そうに舌打ちした。
「昔ついた傷のせいで、法具の補助がねえとまともに歩けねえ。だがそれがどうした?」
敵ながら少し気にしてしまったが、しかし今はどうでもいい。
とにかく、目の上のたんこぶは取れた。
「動ける奴らは集まってくれ! 密集して戦う! 凌ぐにはこれしかない!」
俺は森の中から飛来する矢をしのいでいたモルガに目配せをすると、皆に叫んだ。
モルガはすぐさま俺の言いたいことを理解し、
「密集だ! 四角い形を作るように寄り集まって整列しろ!」
叫ぶ。
俺と怪我をしている戦士は一列目でフレイバグの残骸を盾にして、矢や人形の法具の攻撃を防ぐ。
二列目にまだ戦える戦士を置いて盾の隙間から応戦する。
これなら二対一になって潰されることはない。
整列すればお互いの側面を守れるし、四角形を作るようにすればお互いの背後を守れ、正面からの攻撃だけ注意すればいい。
悪霊の小屋を背にすれば四角い陣形の一面は人を割かずに済む。
むしろ向かってきた人形の法具たちを複数人で迎え撃つことができる。
彼らの槍とも相性がいいし、少数だからフットワークも軽くて済む。
「こいつ、どうすればよかった?」
遅れてダッタが騎士の男を拘束しながら尋ねる。
「人質にする。陣の中に引き入れてくれ」
俺が言うと、ダッタはうなずいた。
その時、
「――もういい」
森の中から、鎧姿の男が姿を現した。
俺と同じような歳だろうか。銀髪の、長い髪の男だった。
「こちらの負けだ。被害が大きすぎる」
アギの戦士たちと戦っていた人形の法具たちが、俺たちには脇目も振らず一斉にダッタを取り囲んでいた。
「アマジスを――その男を離してくれたら、おとなしく撤退する。アケアロス神に誓って嘘はつかない」
さすがのダッタも俺に目配せをする。
このままだとダッタが食い殺されそうだな。問答無用で食い殺さないところを見るとちゃんと取引をしようとしてくれているみたいだ。
「そいつを離してやってくれ、ダッタ」
すぐさま、ダッタはフレイバグの背中を足蹴にして跳び、俺の元へと戻ってくる。
銀髪の男は、その場に尻もちをついていた騎士の男を抱えあげた。
「おい、離せスレム! マジでこれで戦いをやめる気か!?」
文句を言われるも、銀髪の男は聞かない。
そして俺に向き直る。
ダッタが槍を構えたが、俺はそれを制した。
人形の法具は動きを止めている。
騎士の男を助けるだけなら人形の法具にやってもらえればいい。
あえて顔を出して自ら騎士の男を助けたのは、こちらとコミュニケーションを取りたいからだ。
出方をうかがっていると、銀髪の男が、
「きみは、何者だ?」
俺と目を合わせてゆっくりと口を開いた。
銀髪――レーニャも銀髪だったな。
このへんでは見ない髪の色だ。少なくとも、皇国内では珍しい方だろう。
俺は憮然として答える。
「聖刻騎士団の騎士に……一星宗の犬に名乗る名はないな」
「そういうふうに言わないでもらいたい。とても失礼だ」
正直な感想だった。
挑発するようにあえて口を悪くしたが、乗るつもりはないらしい。
「……私は聖刻騎士団のスレムだ。最近、皇国本国からここアルトゥーサへ赴任して来た」
言いながら、銀髪の騎士――スレムは俺たちに背を向け、人形の法具たちを連れながら森の中へ戻ろうとする。
「こいつが指揮官か!」
「隙だらけじゃねえか!」
「殺せ!」
血気さかんなアギ族の戦士が三人、その背中に飛びかかった。
なにか、まずい。嫌な予感がする。
ここまで戦況を見てきて引き際まで見極めているやつが、不意打ちを予期してないはずがない。
「おい――」
止めようと口を開いた一瞬、スレムの腰に提げていた剣が光った。
ほんの一瞬だ。
光が収まると、いつの間にか斬られた三人がその場に転がった。
「!」
「もしきみたちが一星宗に迎合しないというのなら、また攻めざるをえない。どうか、改めてくれ。今度は命を奪わなければならないかもしれない」
顔だけ俺たちの方へくれると、銀髪の隙間から固い意志の瞳が覗いた。
剣を抜いたようには見えなかった。
しかし一瞬にして三人が斬られていた。
傷は浅いようだが、簡単に動けないように手足を主に切られている。
……あれも法具か。
俺たちが見送るようにして、人形の法具や聖刻騎士団は撤退していく。
これで、終わったか。
思ったら、手足に力が入らなかった。
能力を使いすぎて、憔悴したらしい。
俺は吸い込まれるように地面へ倒れ、意識を失った。
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