邪教団の教祖になろう!

うどんり

文字の大きさ
28 / 63
二章

28 モルガ族長は再会を果たす

しおりを挟む
 エンとダッタが出て行って少ししてから、《悪霊の小屋》のドアを叩く音があった。

 ミラソルはびくりとなって身構えるも、入ってきた人物を見て胸をなでおろす。

 族長のモルガだった。
 モルガが、彼の身体には合わない小さいドアをくぐるようにして入ってきた。

「お父さん……っ」

 ミラソルは、モルガに駆け寄って抱きついた。

 モルガはミラソルを強く抱きしめ返すと、

「お前……夜、ちらと見たときはまさかと思ったが、よくなったのか?」

 信じられない様子で問いかけた。

「エンくんが助けてくれたんだよ」

 モルガの瞳に、涙が溜まっていた。

「おお、おおっ、そうか……!」

 感極まって、さらにミラソルを強く抱きしめるモルガ。

 同じ室内にいたファガラは、所在悪そうに頭をかいた。
 二人に見られていないことを確認して、横になって寝たふりをすることにする。

「不安だった。本当は、あのまま死んでほしくなかった。……しかし俺は族長だから、皆のことを優先せざるを得なかった。許してくれ……!」

 モルガから大粒の涙がこぼれ落ちていた。

 ミラソルはモルガの胸に顔をうずめながら微笑した。

「べつに気にしてないよ」

 男でも女でも、弱いものは見捨てる。
 それがアギ族の掟だ。
 族長がそれを曲げるわけにはいかないことは、ミラソルもわかっていた。

「彼は?」

 モルガはエンの姿を探していた。

「エンくんなら、もう行っちゃったよ」

「そうか……一足遅かったか。今度来たときは、ちゃんと礼をしないとな」

「そうだよ。私だけじゃなくて部族みんなを救ってくれたんだから。悪霊憑きとそうでない人とにかかわらず、全員を」

「ああ」

 モルガは生まれたときから強者だった。
 十代の半ばほどにもなれば敵うものはいなかったし、以降ずっと族長としての地位は揺るがなかった。

 だから弱者は容赦なく見捨ててきた。

 それが掟であり、伝統だったからだ。

 そしてそれを今まで何の疑いもなく信じ、実行してきた。

 怪我や病気に打ち勝てぬ弱者は死んで当然だった。

 しかしそれがエンというよそからきた若者に覆された。
 いや、最愛の娘がそうなってから、考えが覆るだけの理由をずっと探していたように思う。
 それがエンという若者によって成されたのだった。

「……今まで、苦しんでいるものは見捨ててきた」

 と、モルガは流れる涙を拭いもせずに言った。

「だが、苦しんでいたのは、死という名の悪霊と戦っている最中だったのだな。全力で、戦おうとしていたのだな。俺には、お前たちの戦っている姿が見えていなかった。全力で戦わせてやれず、本当にすまない」

「しょうがないよ。だって、今までずっとそうしてきたんだもん」

「……彼は、あの男は、エンという名前だったんだな」

 今更ながら、モルガはつぶやいた。

「あ、ただのエンじゃなくって」

「?」

「ミナナゴの子、エンって言ってたよ」

 ミラソルに言われて、モルガはうなずいた。

「覚えておこう。俺たちの恩人の名だ。皆にも誤解なきよう伝えよう」

「アギ族は、受けた恩は決して忘れない」

「そういうことだ」

 昇る朝日が部屋の中に差してきた。

 横になっていたファガラは、寝返りを打つふりをして、その朝日を気持ちよさそうに浴びている。
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

天城の夢幻ダンジョン攻略と無限の神空間で超絶レベリング ~ガチャスキルに目覚めた俺は無職だけどダンジョンを攻略してトップの探索士を目指す~

仮実谷 望
ファンタジー
無職になってしまった摩廻天重郎はある日ガチャを引くスキルを得る。ガチャで得た鍛錬の神鍵で無限の神空間にたどり着く。そこで色々な異世界の住人との出会いもある。神空間で色んなユニットを配置できるようになり自分自身だけレベリングが可能になりどんどんレベルが上がっていく。可愛いヒロイン多数登場予定です。ガチャから出てくるユニットも可愛くて強いキャラが出てくる中、300年の時を生きる謎の少女が暗躍していた。ダンジョンが一般に知られるようになり動き出す政府の動向を観察しつつ我先へとダンジョンに入りたいと願う一般人たちを跳ね除けて天重郎はトップの探索士を目指して生きていく。次々と美少女の探索士が天重郎のところに集まってくる。天重郎は最強の探索士を目指していく。他の雑草のような奴らを跳ね除けて天重郎は最強への道を歩み続ける。

処理中です...