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三章
50 実験
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「これさ、剣の法具を使ってるって思ってるかもだけど、ちょっと違うんだ」
足をもつれさせながら惨めそうに逃げ出すニクネーヴィンの背中を見届けながら、少年は言った。
「剣の法具は範囲内に剣を出すだけ。それにもう一つ神聖文字を重ねている」
「どういうことだ!?」
無数の剣の攻撃を防ぎながら、俺は問いかける。会話することで勢いが弱くなると期待したのだが、そんなことはなかった。
「最近ね、新しい文字が『神聖奥義書』に浮かんできてて、それの実験してるんだ。毒の法具になると思うんだけど」
「まだ能力が強くなってるっていうのかよ」
さすがの一星宗。
現在も信者を増やし続けているおかげか。
範囲内に刃を出現させる剣の法具に、毒の法具を上乗せした感じだろうか。切ったものに毒を与える剣、といった感じだろうか。
「いろんな毒が生まれてくるから片っ端から試してたけど、とある毒で面白い作用が見つかった」
「?」
「熱が出て、だんだん身体が動かなくなる毒で即効性は低いんだけど、人形の法具がその出ている熱と汗を判別できるようになったんだ。面白いでしょ? ぼくさ、こういう研究大好きなんだよね。発見がいろいろあるから」
「つまりどういうことなんだよ!」
「つまり、人形の法具が、その毒に侵されている人間を感知して追跡できるってこと」
「――!」
アギ族の『悪霊の小屋』で寝たきりになっていたミラソルを思い出した。あの子も、熱が出て身体の自由が効かなくなる毒に侵されていたはずだ。
「アギ族の潜伏場所がわかったのは……」
「そういうこと。部族のちょうどよさそうな女を一人、わざと致命傷を避けて切って中毒にして、フレイバグがどこまでその行方を追えるか実験してたわけ」
「実験……そんな理由で、あの子が」
「どうでもいいでしょ、第六位階なんて」
いろんな毒を試した、とも言っていた。
つまり以前から毒の実験をし続けていたことになる。
試されたのは、おそらく第六位階の異端者たちだろう。こいつは今までもそうやって、新しい文字が出現するたびに第六位階を使って力を試していたんじゃないか。
「こんな辺鄙の町になぜ一星宗の中心人物がって思ったでしょ? こういう辺境なら第六位階の連中が多いからさ、いろいろ試せるんだよね。新しい能力とかさ。本国の教皇をべつのやつにして、自分は陰でそういうやりたいことずっとやってきたわけ。アギ族も生きたまま捕まえたかったからナタロン神父に命じたんだけど、失敗しちゃった」
「…………」
こいつが、アギ族襲撃の黒幕だったのか。
「あ、そうだ」
少年は突然しゃがみこんだ。それから足元にあった、乱れてしわくちゃになっていた絨毯を掴んだ。
絨毯に、光る文字が書かれていた。
「さっききみがぶちまけたこのガラス片ね。弓の神聖文字で動かせるんだ」
手に持っている絨毯を、さっき俺がしたように翻す。
弓の法具――その応用だ。
絨毯から離れて飛んでくるガラス片は軌道を変化させながら俺に迫る。
「ぐううっ!」
盾を置く。ほとんど防げるも、横から抜けてきたガラス片が、俺の脇腹を串刺しにした。
「ごめん、痛かった? たぶん死ぬような傷じゃないと思うんだけど」
たしかに傷は浅かったが、傷口から血が流れ出しているのがわかった。
「でも、その盾壊せないね。強度はすごいね、強度は。でもなんかその形、引っかかるんだよね」
剣の法具の神聖文字が周囲で光る。
空中から、床から、幾本もの刃がほとばしる。
「今度は全部同じ場所を狙って、一点突破でいってみようかな。ワンチャン壊れるかも」
この少年は、俺のプロヴィデンスを試すために限りなく手を抜いている。プロヴィデンスを壊すためのゲームでもしているようだ。
対して、俺は腹の怪我もあって限界がきている。
どこまで防げるか。プロヴィデンスをいつまで維持できるか。全然未知数だ。
「じゃあいくよ!」
無数の剣が、一点――俺の頭部を狙って一斉に迫る。
足をもつれさせながら惨めそうに逃げ出すニクネーヴィンの背中を見届けながら、少年は言った。
「剣の法具は範囲内に剣を出すだけ。それにもう一つ神聖文字を重ねている」
「どういうことだ!?」
無数の剣の攻撃を防ぎながら、俺は問いかける。会話することで勢いが弱くなると期待したのだが、そんなことはなかった。
「最近ね、新しい文字が『神聖奥義書』に浮かんできてて、それの実験してるんだ。毒の法具になると思うんだけど」
「まだ能力が強くなってるっていうのかよ」
さすがの一星宗。
現在も信者を増やし続けているおかげか。
範囲内に刃を出現させる剣の法具に、毒の法具を上乗せした感じだろうか。切ったものに毒を与える剣、といった感じだろうか。
「いろんな毒が生まれてくるから片っ端から試してたけど、とある毒で面白い作用が見つかった」
「?」
「熱が出て、だんだん身体が動かなくなる毒で即効性は低いんだけど、人形の法具がその出ている熱と汗を判別できるようになったんだ。面白いでしょ? ぼくさ、こういう研究大好きなんだよね。発見がいろいろあるから」
「つまりどういうことなんだよ!」
「つまり、人形の法具が、その毒に侵されている人間を感知して追跡できるってこと」
「――!」
アギ族の『悪霊の小屋』で寝たきりになっていたミラソルを思い出した。あの子も、熱が出て身体の自由が効かなくなる毒に侵されていたはずだ。
「アギ族の潜伏場所がわかったのは……」
「そういうこと。部族のちょうどよさそうな女を一人、わざと致命傷を避けて切って中毒にして、フレイバグがどこまでその行方を追えるか実験してたわけ」
「実験……そんな理由で、あの子が」
「どうでもいいでしょ、第六位階なんて」
いろんな毒を試した、とも言っていた。
つまり以前から毒の実験をし続けていたことになる。
試されたのは、おそらく第六位階の異端者たちだろう。こいつは今までもそうやって、新しい文字が出現するたびに第六位階を使って力を試していたんじゃないか。
「こんな辺鄙の町になぜ一星宗の中心人物がって思ったでしょ? こういう辺境なら第六位階の連中が多いからさ、いろいろ試せるんだよね。新しい能力とかさ。本国の教皇をべつのやつにして、自分は陰でそういうやりたいことずっとやってきたわけ。アギ族も生きたまま捕まえたかったからナタロン神父に命じたんだけど、失敗しちゃった」
「…………」
こいつが、アギ族襲撃の黒幕だったのか。
「あ、そうだ」
少年は突然しゃがみこんだ。それから足元にあった、乱れてしわくちゃになっていた絨毯を掴んだ。
絨毯に、光る文字が書かれていた。
「さっききみがぶちまけたこのガラス片ね。弓の神聖文字で動かせるんだ」
手に持っている絨毯を、さっき俺がしたように翻す。
弓の法具――その応用だ。
絨毯から離れて飛んでくるガラス片は軌道を変化させながら俺に迫る。
「ぐううっ!」
盾を置く。ほとんど防げるも、横から抜けてきたガラス片が、俺の脇腹を串刺しにした。
「ごめん、痛かった? たぶん死ぬような傷じゃないと思うんだけど」
たしかに傷は浅かったが、傷口から血が流れ出しているのがわかった。
「でも、その盾壊せないね。強度はすごいね、強度は。でもなんかその形、引っかかるんだよね」
剣の法具の神聖文字が周囲で光る。
空中から、床から、幾本もの刃がほとばしる。
「今度は全部同じ場所を狙って、一点突破でいってみようかな。ワンチャン壊れるかも」
この少年は、俺のプロヴィデンスを試すために限りなく手を抜いている。プロヴィデンスを壊すためのゲームでもしているようだ。
対して、俺は腹の怪我もあって限界がきている。
どこまで防げるか。プロヴィデンスをいつまで維持できるか。全然未知数だ。
「じゃあいくよ!」
無数の剣が、一点――俺の頭部を狙って一斉に迫る。
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