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四章
56 尋問
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聖刻騎士団の騎士――ニクスから聞いた名前は、イレイルといった。
彼は毒で寝込んでいたアギ族の女性と同じ症状の毒に侵されていた。
ゲッカレイメイを持たせて毒を抜いていたのだ。
ニクスの信者たちが警戒する前に、俺はイレイルに近づいた。
「……なぜ助けた」
イレイルは俺をにらみながらつぶやいた。
「刺された傷はそのままだ。助けたとはいえない。あとは自分でどうにかしろ」
「そういうことじゃない!」
「お前の中にあった毒を抜いた理由なら、なんとなくだ。このまま見殺しにするのもどうかと思っただけだ」
「僕は一星宗だぞ」
「一星宗が敵ってわけじゃない。それに、いいやつはいるだろ」
エフィのことだった。一星宗でいいやつといったらエフィしかいないのだが。
ちなみに彼女はこの場にはいない。屋敷の空いている部屋でおとなしくしてもらっている。何も知らないまま襲撃に巻き込まれたのだ。このまま何も知らないほうがいい。
疑いの眼差しをやめないイレイルに、
「まあ、私がいろいろ話を聞きたかったのもありますがね」
ニクスが説明を加える。
「なぜ私と私の家に攻撃を仕掛けたのですか。話が違いますよ」
「話が違う?」
首をかしげるイレイルの反応を見て、ニクスは納得したように一瞬表情をなくして、
「……なるほど」
小さくつぶやいた。
「神父に自分の訴えを止められましたよね? だから独断で攻めてきた」
「なっ! ――なぜそれを!?」
ハッタリだろうが、当たったらしい。
このへんの、憶測で答えを導き出す能力は本当に頼りになるな。
「なあニクス、あんたと神父は――」
俺がスレムたちに絡まれた時、ニクスがナタロン神父に賄賂を渡していたのを思い出して言った。
「ええ。毎月ナタロン神父に賄賂を渡して、私の活動を見逃してもらっていました」
「やっぱり日常的にそんなことをしていたのか」
ずっと癒着していたのなら、あのときのナタロン神父の物分りの良さにも納得がいく。
「神父様がそんなことをするはずない! 嘘だ!」
イレイルは激高した。
「ではナタロン神父があなたを止めようとしたのはなぜです。説明がつきませんよ」
「それは……」
「もう一星宗には帰れないのではないですか? 自分より位階が上の者に逆らったのだから」
イレイルは、やや優しげに話しかけるニクスの意図を理解してか、ベッドを拳で叩いて威嚇する。
「ふざけるな! そんな言葉じゃぼくは絆されないからな! 邪教徒が、必ず天罰を下してやる!」
周囲から敵意の眼差しが伸びるのもはばからず、イレイルは声を荒げる。
「事実は事実です」
「……なにか理由があったかも知れない。そのせいでぼくが処罰を受けるなら、仕方がないことだ」
「どうするっていうんです?」
「直接神父様に確かめに行く」
イレイルはうめきながら上体を起こす。
「逃げられるとでも?」
と、ニクスはメイドからショートソードを受け取ると、鞘から抜いてイレイルに突きつけた。
装飾をあしらい、ニクスの名前が刻まれた観賞用のような豪奢なショートソードだ。
しかし手入れが行き届いているのか錆びついてはいない。むしろ殺傷力は高そうに見える。
だが、突然すぎる。
「お、おい……」
武器で脅して、無理やりここに拘束するつもりなのか。
「いいだろべつに、帰しても。ここに置いておいてもしょうがないんじゃないか?」
「いいえ、逃がすわけにはいきませんよ。だったらここで口を封じたほうがいい」
マジで言ってるのか。
「……一つ訊きたいんだけど」
イレイルは俺に向けて口を開く。
「あのとき襲ってきたやつは何者なんだ。法具の力をいくつも使いこなしているように見えた」
「……何も知らないのか?」
一緒に行動しているわけじゃなかったのか。
いや、たしかにイムセティも神官以上しか自分の存在を知らないと言っていたが。
「お前らが法具といっている能力の生みの親だ。俺は見たことがないけど、トップの第零位階とは違うのか?」
アケアロスのプロヴィデンス所持者というと、一番位階の高い地位にいる人物だと思っていたが……イレイルは首を左右に振った。
「第零位階は教皇様だけだ。現教皇様がこんなところにおられるはずはない。ぼくは見たことがあるが、老齢の方だった。あんなのは知らない」
「教皇じゃなくても、同等の地位にいるやつなんじゃないか?」
「教皇様と同等の地位なんて聞いたことがない。たった一人しかいない第零位階だぞ。いや、でも、それも……」
イレイルはぶつぶつと呟くと、
「それも神父様に確かめる必要がある――な!」
剣を構えるニクスに向けてシーツを投げつけた。
「!」
シーツをかぶっている隙に、イレイルはニクスの手を蹴り上げ、衝撃で落ちたショートソードを奪い立ち上がる。
「来るな! 来たら本当に刺し殺すからな!」
「なんということを……!」
ニクスがシーツを取ったときには、イレイルはショートソードで周囲を牽制しながら後退していた。
それから部屋を出て行って、持ち前の身軽さがあるのかあっという間に走り去る。
「ふむ……」
それを見て、ニクスはシーツを剥がしながら満足気にうなずいた。
彼は毒で寝込んでいたアギ族の女性と同じ症状の毒に侵されていた。
ゲッカレイメイを持たせて毒を抜いていたのだ。
ニクスの信者たちが警戒する前に、俺はイレイルに近づいた。
「……なぜ助けた」
イレイルは俺をにらみながらつぶやいた。
「刺された傷はそのままだ。助けたとはいえない。あとは自分でどうにかしろ」
「そういうことじゃない!」
「お前の中にあった毒を抜いた理由なら、なんとなくだ。このまま見殺しにするのもどうかと思っただけだ」
「僕は一星宗だぞ」
「一星宗が敵ってわけじゃない。それに、いいやつはいるだろ」
エフィのことだった。一星宗でいいやつといったらエフィしかいないのだが。
ちなみに彼女はこの場にはいない。屋敷の空いている部屋でおとなしくしてもらっている。何も知らないまま襲撃に巻き込まれたのだ。このまま何も知らないほうがいい。
疑いの眼差しをやめないイレイルに、
「まあ、私がいろいろ話を聞きたかったのもありますがね」
ニクスが説明を加える。
「なぜ私と私の家に攻撃を仕掛けたのですか。話が違いますよ」
「話が違う?」
首をかしげるイレイルの反応を見て、ニクスは納得したように一瞬表情をなくして、
「……なるほど」
小さくつぶやいた。
「神父に自分の訴えを止められましたよね? だから独断で攻めてきた」
「なっ! ――なぜそれを!?」
ハッタリだろうが、当たったらしい。
このへんの、憶測で答えを導き出す能力は本当に頼りになるな。
「なあニクス、あんたと神父は――」
俺がスレムたちに絡まれた時、ニクスがナタロン神父に賄賂を渡していたのを思い出して言った。
「ええ。毎月ナタロン神父に賄賂を渡して、私の活動を見逃してもらっていました」
「やっぱり日常的にそんなことをしていたのか」
ずっと癒着していたのなら、あのときのナタロン神父の物分りの良さにも納得がいく。
「神父様がそんなことをするはずない! 嘘だ!」
イレイルは激高した。
「ではナタロン神父があなたを止めようとしたのはなぜです。説明がつきませんよ」
「それは……」
「もう一星宗には帰れないのではないですか? 自分より位階が上の者に逆らったのだから」
イレイルは、やや優しげに話しかけるニクスの意図を理解してか、ベッドを拳で叩いて威嚇する。
「ふざけるな! そんな言葉じゃぼくは絆されないからな! 邪教徒が、必ず天罰を下してやる!」
周囲から敵意の眼差しが伸びるのもはばからず、イレイルは声を荒げる。
「事実は事実です」
「……なにか理由があったかも知れない。そのせいでぼくが処罰を受けるなら、仕方がないことだ」
「どうするっていうんです?」
「直接神父様に確かめに行く」
イレイルはうめきながら上体を起こす。
「逃げられるとでも?」
と、ニクスはメイドからショートソードを受け取ると、鞘から抜いてイレイルに突きつけた。
装飾をあしらい、ニクスの名前が刻まれた観賞用のような豪奢なショートソードだ。
しかし手入れが行き届いているのか錆びついてはいない。むしろ殺傷力は高そうに見える。
だが、突然すぎる。
「お、おい……」
武器で脅して、無理やりここに拘束するつもりなのか。
「いいだろべつに、帰しても。ここに置いておいてもしょうがないんじゃないか?」
「いいえ、逃がすわけにはいきませんよ。だったらここで口を封じたほうがいい」
マジで言ってるのか。
「……一つ訊きたいんだけど」
イレイルは俺に向けて口を開く。
「あのとき襲ってきたやつは何者なんだ。法具の力をいくつも使いこなしているように見えた」
「……何も知らないのか?」
一緒に行動しているわけじゃなかったのか。
いや、たしかにイムセティも神官以上しか自分の存在を知らないと言っていたが。
「お前らが法具といっている能力の生みの親だ。俺は見たことがないけど、トップの第零位階とは違うのか?」
アケアロスのプロヴィデンス所持者というと、一番位階の高い地位にいる人物だと思っていたが……イレイルは首を左右に振った。
「第零位階は教皇様だけだ。現教皇様がこんなところにおられるはずはない。ぼくは見たことがあるが、老齢の方だった。あんなのは知らない」
「教皇じゃなくても、同等の地位にいるやつなんじゃないか?」
「教皇様と同等の地位なんて聞いたことがない。たった一人しかいない第零位階だぞ。いや、でも、それも……」
イレイルはぶつぶつと呟くと、
「それも神父様に確かめる必要がある――な!」
剣を構えるニクスに向けてシーツを投げつけた。
「!」
シーツをかぶっている隙に、イレイルはニクスの手を蹴り上げ、衝撃で落ちたショートソードを奪い立ち上がる。
「来るな! 来たら本当に刺し殺すからな!」
「なんということを……!」
ニクスがシーツを取ったときには、イレイルはショートソードで周囲を牽制しながら後退していた。
それから部屋を出て行って、持ち前の身軽さがあるのかあっという間に走り去る。
「ふむ……」
それを見て、ニクスはシーツを剥がしながら満足気にうなずいた。
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