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四章
57 波風立ててけ
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俺はプロヴィデンスを使ってイレイルを止めようと思ったが、二クスの反応を見て直前でやめた。
「まさか、これを狙っていたのか? あえて逃したってことか?」
ニクスはうなずく。
「あれがあれば波風が立ちますよ。法具ではない普通の剣を、私から奪った戦利品として持っていけばね。イレイルさんが私と会い、話を聞いた間接的な証拠になります」
言動でイレイルが逃げるように誘導したのか。
最初から逃がして神父にぶつけるつもりで。
「やめろと抑圧されるものほど、やってみたくなるものですから」
「それもコズミックのあれか」
「どれだけ内部でほころびが生まれてくるか楽しみではないですか」
「せっかく今まで見逃してもらっていたのに、イレイルにそんなこと吹き込んだらお前とナタロン神父との仲が悪くならないか」
「何をおっしゃいます。ここに攻め込まれた時点で、もう関係は終りですよ。むしろ、これからはナタロンの顔色を伺わなくていいと思うと清々します」
ああ、そういうことか。
こいつは、立った波風をさらに大きくしようとしている。この事件を材料に、ナタロン神父たちと対等に取引をするつもりなのか。
イレイルの証言があれば、ナタロン神父の立場は危うくなる。
そこに漬け込もうっていうのか。
「内部が混乱すれば介入できる余地が生まれます。ナタロン神父も不祥事を発覚することを恐れて、本国には報告しないでしょうしね」
「実際賄賂を受け取っていたわけだしな。今後自分たちを脅かせば、今回のような手法を使っていくらでも内部をボロボロにできると持ちかけるのか」
「それをきっかけに、一星宗とより良い関係を築くための相談ができるかと」
二クスは神父を失脚させるのではなく、さらに堕落させたうえで対等な取引をさせようとしている。
異端の存在を黙認させるのを取引の着地点に設定して。
戦力的に、一星宗と大々的に事を構えるのは得策ではない。
ならばどうするか――すでにニクスの中では答えが出ていたらしい。そして持ち前の言葉でイレイルを操った。
「勝手なことをして申し訳ないですが」
「いや、助かる」
「心配なのは……イレギュラーの存在ですね」
「ああ、あいつか」
イムセティと名乗っていた少年。
一星宗が存在を知らされていない、唯一神アケアロスのプロヴィデンス所持者。
たしかに何を目的に動いているのか、現時点ではまったくわからない。
「現時点でいえるのが、一星宗寄りの第三勢力というだけです。まあ、その想定なら丸め込めるとは思いますが」
「…………」
丸め込める相手かどうかは疑問がある。
相手は位階などという身分ではくくられていない、本国の教皇よりも神に近い位置にいる化け物だ。
戦闘した時だって、本気を出せばおそらく俺たちを皆殺しにできたはずだ。
それをしなかったのも、謎だけどなにか理由はあるはずなのだ。
自分の意志だけで相手の話を聞かない。
そんな相手に、口先の言葉は差し込めるのだろうか。
窓から朝日がさしてくる。
もう夜が明けていたらしい。
俺は心配そうな目で遠巻きにこちらを見ているニクスの信者たちを一瞥して言った。
「――とりあえず全裸のやつには服を着せよう」
「ええ、まあ……そうですね」
なんでこいつら恥ずかしげもなく全裸でこっち見たり祈ったりしてるんだよ。慣れなのか? 怖すぎる。
「そういやシスターの組み合わせがもう一組いないか? たしか失踪したシスターは四人だったはずだ」
メルヴィと、その相方の女で二人。
あと二人は、どこかにいるのだろうか?
そんなに頻繁にシスター同士が駆け落ちするかって問題はあるが。
「いえ、存じ上げませんが」
「知らないのか……?」
残りの二人は、この件と無関係ということか?
「じゃあ、残りの二人はいったいどこに消えたんだ――?」
朝焼け。
エフィの目的は、いまだ果たされていないことに、俺は胸騒ぎを覚える。
「まさか、これを狙っていたのか? あえて逃したってことか?」
ニクスはうなずく。
「あれがあれば波風が立ちますよ。法具ではない普通の剣を、私から奪った戦利品として持っていけばね。イレイルさんが私と会い、話を聞いた間接的な証拠になります」
言動でイレイルが逃げるように誘導したのか。
最初から逃がして神父にぶつけるつもりで。
「やめろと抑圧されるものほど、やってみたくなるものですから」
「それもコズミックのあれか」
「どれだけ内部でほころびが生まれてくるか楽しみではないですか」
「せっかく今まで見逃してもらっていたのに、イレイルにそんなこと吹き込んだらお前とナタロン神父との仲が悪くならないか」
「何をおっしゃいます。ここに攻め込まれた時点で、もう関係は終りですよ。むしろ、これからはナタロンの顔色を伺わなくていいと思うと清々します」
ああ、そういうことか。
こいつは、立った波風をさらに大きくしようとしている。この事件を材料に、ナタロン神父たちと対等に取引をするつもりなのか。
イレイルの証言があれば、ナタロン神父の立場は危うくなる。
そこに漬け込もうっていうのか。
「内部が混乱すれば介入できる余地が生まれます。ナタロン神父も不祥事を発覚することを恐れて、本国には報告しないでしょうしね」
「実際賄賂を受け取っていたわけだしな。今後自分たちを脅かせば、今回のような手法を使っていくらでも内部をボロボロにできると持ちかけるのか」
「それをきっかけに、一星宗とより良い関係を築くための相談ができるかと」
二クスは神父を失脚させるのではなく、さらに堕落させたうえで対等な取引をさせようとしている。
異端の存在を黙認させるのを取引の着地点に設定して。
戦力的に、一星宗と大々的に事を構えるのは得策ではない。
ならばどうするか――すでにニクスの中では答えが出ていたらしい。そして持ち前の言葉でイレイルを操った。
「勝手なことをして申し訳ないですが」
「いや、助かる」
「心配なのは……イレギュラーの存在ですね」
「ああ、あいつか」
イムセティと名乗っていた少年。
一星宗が存在を知らされていない、唯一神アケアロスのプロヴィデンス所持者。
たしかに何を目的に動いているのか、現時点ではまったくわからない。
「現時点でいえるのが、一星宗寄りの第三勢力というだけです。まあ、その想定なら丸め込めるとは思いますが」
「…………」
丸め込める相手かどうかは疑問がある。
相手は位階などという身分ではくくられていない、本国の教皇よりも神に近い位置にいる化け物だ。
戦闘した時だって、本気を出せばおそらく俺たちを皆殺しにできたはずだ。
それをしなかったのも、謎だけどなにか理由はあるはずなのだ。
自分の意志だけで相手の話を聞かない。
そんな相手に、口先の言葉は差し込めるのだろうか。
窓から朝日がさしてくる。
もう夜が明けていたらしい。
俺は心配そうな目で遠巻きにこちらを見ているニクスの信者たちを一瞥して言った。
「――とりあえず全裸のやつには服を着せよう」
「ええ、まあ……そうですね」
なんでこいつら恥ずかしげもなく全裸でこっち見たり祈ったりしてるんだよ。慣れなのか? 怖すぎる。
「そういやシスターの組み合わせがもう一組いないか? たしか失踪したシスターは四人だったはずだ」
メルヴィと、その相方の女で二人。
あと二人は、どこかにいるのだろうか?
そんなに頻繁にシスター同士が駆け落ちするかって問題はあるが。
「いえ、存じ上げませんが」
「知らないのか……?」
残りの二人は、この件と無関係ということか?
「じゃあ、残りの二人はいったいどこに消えたんだ――?」
朝焼け。
エフィの目的は、いまだ果たされていないことに、俺は胸騒ぎを覚える。
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