元魔王おじさん

うどんり

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二章

第58話 少女を連れてズリへ行く

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俺たちは鉱山の採掘場前へやってきた。

シオンとウォフナーは置いてきた。
昼メシの下ごしらえをしたいというので残してきたのだ。
どうやらこの前獲った黒猪の塩漬け肉を使うらしい。

代わりではないが、マヤとサリヴィアを誘ったら嬉しそうに了承してくれたので、連れてきた。

「わあ、なんですか?山の中に……遺跡?」

マヤは軽やかな足取りで、周りを見渡した。

整備されていない道に、石造りの簡素な建物がいくつかあった。

俺たち以外に人はいない。
石造りの建物などはところどころ欠けて寂れてきている。
道のところどころには雑草が生い茂っていた。

「遺跡ではないようだな」

とサリヴィアはマヤに言った。

「少し前まで鉄や銀や銅が取れていた鉱山じゃ」

ツエニリニの説明通り、ここは廃坑になった鉱山の採掘場跡だ。

見えないが、おそらく奥には坑道もあるはずである。

採掘された鉄などの鉱石を割って取り分け、溶かし固める一連の作業をこの場所で行っていたのだ。

「鉱山は気になっていたのでいつか来たいと思っていたのだが……礼を言うぞツエニリニ」

「今は坑道は閉鎖されているが、採掘場内には入れるぞい」

「立ち入りを禁ずる札や立て看板などもないな。よしよし」

廃坑になった後でも鉱山主が立ち入りを禁じている場合があるからな。
これならば入ってもよさそうだ。

「でもせっかくのピクニックなのに私たちまでお邪魔しちゃっていいんですか?」

「むしろ手伝ってくれて礼を言う。人数は多い方がいいからな。あとピクニックではない」

「ああっ、あと、いきなりのお誘いだったのでお昼ごはんとかも用意してないですけど、お昼はどうするんです?」

「ああ、それも大丈夫だ。帰ったらみんなで毒キノコ食おう」

「はい!?」

マヤは目を丸くした。

「ははあ、また何かおもしろいことを考えているとみえるな、コーラルどのは」

サリヴィアは腕を組み、探るような瞳を向けて微笑した。

俺は笑い返す。

「そういうことだ」

まあ、そのまんまの意味なんだがな。

話しつつ、俺たちは場内に入る。

道には砂利や小石が多い。

砂利のほかには、ゴロゴロした黒い歪な塊も落ちている。
鉄や銀を溶かし固める過程で生まれる《カラミ》と呼ばれる燃えカスのような不純物の塊である。
砂利やカラミで黒っぽく染まった道を俺たちは歩いていく。

「目的は、ズリに紛れているエーテル結晶とかいうものの回収でいいのか?」

「ああ、その通りだ」

サリヴィアの問いに、俺はうなずいた。

「ズリってなんなんです?」

マヤは歩きにくそうなおぼつかない足取りで言った。

「ズリというのはな、鉱石を採掘する過程で不要な石を捨てる場所だ。ズリ捨て場、ズリ山ともいう」

「ゴミ置き場みたいなものですか?」

「ああ。廃坑になった場所では、ズリに捨ててある石はそのまま残されていることが多いのだ。――このようにな」

到着したのは、急な高低差のある場所だった。

崖のような下り坂の下には、大小さまざまな石が山になっている。
たぶん花崗岩がほとんどだろう。

「採掘の際に出た余計なゴミを頂戴しようということだ。いや、まさかエーテル結晶が捨てられているとは、半信半疑ではあるがな」

「宝探しですね!楽しそう!」

宝探しという単語に、黙ってついてきていたラミナがぴくりと反応した。
頬を上気させて、にわかに瞳がきらめきだす。

「ではズリ山に下りるぞ!」

「えっ、ちょっ、この崖みたいなところをですか?」

奥には回り込むようにゆっくり下りられる道はあるが、ここから降りた方が早いからな。

まあ転がりながら落ちても死にはしない高さだが――俺はしり込みするマヤをお姫様抱っこで抱え上げる。

「こ、ここ、コーラルさん!?」

「少しの間掴まっていろ」

そして崖のような急こう配をすべるように下りていく。
ざざざざと音を立てながら砂ぼこりが上がる。

ラミナとツエニリニもそれに続いた。

「ひえっ、ひええ!」

俺の首にすがりつきながらマヤが悲鳴を上げているうちに、ズリ山へ下り立つ。

「着いたが、大丈夫か?」

「あ、えへへ……ちょっとうれしいような、怖かったような……です」

マヤは少し顔を赤らめながら笑った。

なんじゃそりゃ。

俺は上を見上げると、いまだに下りてきていないサリヴィアに目を向けた。

なんだかわくわくした目でこちらを見ているのだが……。

「あの、コーラルどの、私も、私もっ」

「いやお前は一人で下りられるんじゃないか?」


仕方なくサリヴィアも連れて下りてきた。

「ん?」

下りてきてすぐ、俺は足元に光る石を見つけて拾い上げた。

「うおおっ!?なんじゃこれ!?」

俺はその石を見て驚愕した。

「嘘だろう。大きさは小粒程度ではあるが……」

――見つけた石は、親指の爪ほどの小さな結晶だった。
アクアマリンのような薄い青色で、驚くほどに透き通っている。

魔界のものとは色合いが違うが、まさかと思って手に取ってみてわかった。
これは、エーテル結晶だ。

「し、信じられん……!」

俺はそのエーテル結晶をまじまじと見つめる。

魔界で採れるエーテル結晶は濁ったような橙色の結晶である。
質がよくなればよくなるほど、透明度が増し形もよくなっていく。

「この質の良さ――俺の故郷でとれる最上級の結晶と同じか、それ以上ではないか!?」

偶然か?こんなすぐに、こんないいものが見つかっていいのか。

ツエニリニはうなずいた。

「うむ。こちら側では結晶中の成分などに若干の違いがあるようなのじゃ。そのせいで色が違っているが、質はおそらくこちらのほうがいいぞい」

「段違いだ。世界が清浄な分あまり不純物が混じらないのだろうか……?というか、これが不要な石とかおかしいだろ」

「そんないいものなのか?」

サリヴィアが俺の手にある結晶を覗き込んだ。

「ああ、すごい。いきなりこんないいものを見つけられるとは幸先がいいぞ」

魔界で取引すれば、下手をしたらこれ一つでそれなりの家が建つぞ。

こんな雑に捨ててあっていいものじゃないんだが。

「いや、ちょっと待て。エーテル結晶だけじゃない……!」

水晶、紫水晶アメジスト黄鉄鉱パイライト孔雀石マラカイト、閃亜鉛鉱――どれも魔界じゃほとんど採れない珍しい石たちがゴロゴロと転がっている。

「なんだこれ……宝の山じゃねえか!」

俺は次々気になる石たちを手に取って確認していく。

全部ズリで手に入るとか盲点すぎるだろ……。
こんなことならもっと早く訪れればよかった。

これ全部こっちじゃ捨てるほどありふれているのか……魔界のコレクターに高値で売れるビジネスができてしまうぞ。やらないが。

「たしかに色とりどりの石があってきれいですね!」

「ああ、来てよかった……!」

石を胸に抱いてしみじみとマヤに返答した。

これ全部家に持って帰って飾ろう。
ダストにも土産にあげよう。

「……で、探しているエーテル結晶なるものは、その青っぽい水晶みたいな石でいいのだな?」

サリヴィアはエーテル結晶を指差して確認する。

「ああ、この宝の山から探すのは少々骨が折れるかもしれんが、頼めるか?」

俺はうなずいて言った。

「任せろ!」

「がんばります!」


…………。


気が付けば夢中になって探していた。
ひとりひとり散らばって、しゃがんで石をどかしながら、しばらく探していく。

――と、また見つけた。

結晶が合わさったような見た目で、花のような形をなしているものだ。

「うおっ!これ輪座双晶か!?マジでか!?」

めちゃくちゃ珍しい形。

しかもこれも最上級の純度だ。

「いや、ちょっと待て。最初に拾った結晶が特に純度のいいものってわけではなく、まさかこれが標準の純度なのか!?」

よもや、こっちの世界ではこの質が普通なのか?

「そのようじゃ。その代わり数は少ないし小粒じゃがな」

「いや、たかっ、宝の山じゃねえか!」

「そのセリフさっきも聞いたぞい」

まさか、ズリ全体を見ればさらにいいものも?

にわかにテンションが上がってきた。

……しかし毒耐性強化に使うにはもったいなさすぎる。
質のいいエーテル結晶は強力な魔法石に加工できるし、よく効く魔法薬の原料にもなったりする。

こんな希少なものを毒キノコ食うためだけに使ってもいいものか?

「ううむ」

……まあ、いいか!
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