元魔王おじさん

うどんり

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二章

第60話 昼食前に運動を

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仮住まいから煙が上がってはいるが、火の手は上がっていない。

そして仮住まいの前で、ウォフナーが仁王立ちしてそれを見ていた。

状況を見て、

「ああ、シオンがやってくれたようだな」

俺はマヤに言った。

「シ、シオンくんが不良になっちゃったんですか!?」

「いや、そうではない」

俺は混乱しているマヤに言った。

「以前ダストと話していてな。こっちの土産を送ることになっていたのだ」

「お土産?」

「ああ、燻製だ」

 保存がきく燻製肉が妥当だと思い、少し前にシオンに相談していたのだ。

「燻製って……まさか小屋ごとなんですか!?」

「ああ、燻している」

「ええっ!?」

「二部屋あるうちの一部屋を使って、床ぶち抜いて、残りの塊肉すべて天井から吊るしてな」

「またそんな、むちゃなことやってるんですか……」

今日これをするということは、余りの燻製肉と毒キノコで何か作ってくれるということか。

「いいんじゃが、室内が臭くなるぞい」

「しかし一気に燻せるだろ? それに煙臭さくらい浄化の魔法石で打ち消せるだろう」

小屋に近寄ると、

「お前が庭を畑にしたせいでシオンが稽古するスペースが減ったぞ」

ウォフナーが最初から気づいていたかのように、小屋に向いたまま水を差してきた。

「ああ、でもちゃんと小屋の前に場所は残していたじゃないか。それで、シオンはどこだ?」

訊くと、俺たちが帰ってきたのを察知したらしいシオンが、小屋の裏手から出てきた。
手には木の棒を持っている。

「先生、お帰りなさい」

「正しい構えと振り方を教えて、家の裏の木で打ち込みをさせていた」

ウォフナーは言った。

「基本は大事だ。身体を痛めることなく効率よく剣を振るうにはな」

「おお、そうだったか。それは助かったぞ」

「貴様らのやり方だと実戦寄りにすぎるからな」

では俺たちは魔法石の加工に取り掛かろう。

「種類が違う石も中にはあるようだが……? あとなぜか虫の死骸も」

「それは飾っておく用だ!」

堂々と言い放つと、ウォフナーは理解できないような顔を向けた。

ちなみに輪座双晶も飾っておく用にしてある。
さすがに毒耐性強化に使うのはもったいないような気がしたのだ。
マヤたちも拾ってくれていたおかげで、それでも結晶は少し余る。ストックが増えるのはいいことである。

「ラミナ、頼んだぞ」

「わかった」

魔法石はエーテル結晶の形を整え、表面に魔法印を直接刃物で刻んでいくことで完成する。

俺がやってもいいが、ラミナの方がこういった作業に向いているし早い。

ラミナが、自分のナイフで空間ごとエーテル結晶の表面を削り、あっという間に面を均一にしていく。

ラミナにナイフを貸してもらい、俺はナイフの先端で結晶に直接魔法印を刻んでいく。

「細かい作業ですね……」

とマヤは横で見ていてつぶやいた。

「うむ。こっちのは小さいからやりにくい」

結晶を人数分削っていく。

これで魔力を流せば、毒耐性強化の魔法石の完成である。

「しかし、本当に食うのか、あれを」

ウォフナーが気乗りしない様子でベニテングダケを見つめた。

「当たり前だ! ……それでシオン、燻製はどんな調子だ?」

シオンは「はいっ」と言って調子よくうなずいた。

「もう少しでできるかと思います」

「……練習の成果をみてみる時間はありそうだな?」

俺は木の棒を二本拾って魔法で強化し、一本をシオンに渡して、構える。

「……はいっ」

シオンも同じく構えた。

「いつも通りだ。あらゆる手を使ってもいいから、打ち込んで来い」

「わかりました」

最近は、シオンも俺の殺気に気圧されないようになってきた。

さあ来いと言われれば自分で打ち込んで来るようになってきている。

順調である。

……だが。

「…………」

今回は、シオンは構えたまま動かない。

だが、物怖じしている風でもないようだ。

両手に持った木の棒を正眼に構えたままで、ただじっとしている。
フォームはウォフナーから教えてもらったおかげか、前よりずっときれいだ。

「どうした? またこちらから行くことになるぞ」

殺気を込めてにらみつけると、

「では……!」

シオンは背を向けて走り出した。

「ん?」

そしてそのまま小屋の裏手へと消えていく。

「逃げただと……?せっかく剣を振るう練習をしたのにか?」

ウォフナーも疑問そうだ。

小屋の裏手には木立がある。雑草も伸びきっていて、やや薄暗い。

「……ははあ、なるほど」

俺は得心がいった。

考えたな、シオンのやつ。

では……あえてシオンの作戦に乗ることにしよう。

俺は後を追うようにシオンの行った方へ進んでいく。

裏手に行くと――誰もいない。

シオンはどこかに隠れているらしい。

「…………」

まだ気配の消し方が甘い。
ということはシオンにもわかっているはずだ。

すぐに仕掛けてくるはず。

思っていると、さっそく、がさり、と草むらから音がした。

俺は音のする方を向く。

そのとき――。

――足を踏み込む音が、音がした草むらの逆方向から聞こえた。

ガッ!

後ろを見ずに、背後からやってきた攻撃を木の棒で受ける。

「!」

渾身の一撃を防がれたシオンは目を見開いた。

「べつの方角に石を投げて相手の注意をそらしてからの奇襲。よくぞ思いついたな」

ウォフナーに小屋の裏で練習をさせられて気づいたのだろう。

こちらの環境の方が、自分が戦うには適しているのではないかと。

俺は普段「打ち込んで来い」としか言っていない。
どこをフィールドにするかも、どんな攻撃方法にするかも自由だ。
そこにしっかり頭が回るようになったというのは……

ちょっと感動していた。
こんな早くに、こんな成長を見られるとは。

「加えて言うならば、突っ込んでくる体勢はもう少し低い方がいい。そっちの方が大人は対応しづらいだろうからな」

「は、はいっ」

シオンは嬉しそうにうなずいた。

「……で、でも、今回は先生もお疲れなんですか? いつもよりはやさしいような……」

「ああ、うん、まあ、まあな。もうすぐメシだしな!」

……怪我させたら今日はマヤに怒られそうだからな。激しいようなのはやめとこう。

「そろそろ時間か? 毒キノコの調理は頼んだぞシオン」

「わかりました」
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