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第2章 皇太子との婚約
しおりを挟む「でか……」
ベルツェ帝国皇宮だと思われる城を前にして、言えることはそれだけだった。
「城門を開けろ」
サリスがそう言うと、兵がお帰りなさいませと言って城門を開けた。
兵とサリスが皇宮の中に入っていく。
「ここがベルツェの皇宮ですか?」
「ここは正式には王太子宮だな。この兵たちも王太子の私が指揮する大一軍だ。」
「へぇ……。」
これだけの大きな宮、兵を任されるということは、国王の信頼と評価が高い証。
さすがは時期皇帝、皇太子ってわけか。
「皆ご苦労だった。しっかり休んでくれ。お前はこっちに来い」
兵にそう呼びかけ、サリスは私の手を引いた。
「どこに行くんですか」
「自室だ。」
「何をしに?」
「色々。」
……、怖いんですけど。さっきから表情が全く読めない。冷めた瞳は氷の様。
ホントにこんな人の妻になって大丈夫だったのか、私。
しばらく歩いて、大きな一室に入った。
「ここが俺の部屋だ。場所を覚えておけ。」
部屋に入る。
たくさんの本が入った本棚がいくつかと、ソファーが2つと、机と椅子が1つずつ、
それとベッドが置いてある。
えらくシンプルな部屋だった。
「なんというか、何もない部屋ですね。」
「うるさい。さっさと座れ。」
「はぁい」
ソファーでいいかな?ソファーに腰を下ろした。
「じゃあ、俺の質問に答えてもらおうかな。」
「答えれる範囲であれば答えますよ。あ、私も質問よろしいですか」
「いいよ」
「私を使って何かするご予定は?」
これだけは聞いておきたかった。何かがあるなら、覚悟を決めておきたかった。
なんという返答が帰ってくるのか、少し怖くて、冷や汗が頬をつたった。
「いや。特にない」
「えっ?」
拍子抜け、だった。何もするつもりがない?
そんなはずない……。
「俺がお前を妃にしたいと言ったのは、確実に皇帝になるための手段だ。
俺は皇太子で、時期皇帝に近い存在であるが、優秀な弟がいるからまだ正式な時期皇帝ではない。だが今回お前を手に入れた。
妻の力も時期皇帝になるためには必須。だから戦争をしてまで手に入れた。」
この男は自分の力を大きくするためにわざわざ家まで来たのか。
「お前の質問の答えになっていたか?」
「いいでしょう。ありがとうございます。」
「お前、第1王子の婚約者だったらしいな。
俺を恨まないのか?」
「要求を断ったにも関わらず、使用人の命を救ってくれたこと感謝しています。
まぁ……、負けてしまったこちらの落ち度です。強い者が勝ち、弱いものが負ける。それが戦の掟。そこは理解しているつもりです。」
大人ぶって、落ち着いている発言をしたが、
恨んでいるかは、正直分からなかった。
実感がわかないのだ。ここは異国で、私はグレイシアの婚約者ではなくなりセレーヌの時期皇后でもない、敵国の皇太子の妻になろうとしている。時間がたてば、私はこの男を恨むのだろうか。
こういう時に平然を保てる自分はあまり好きではないな……。
「家族は?」
「消えたことろで気にしないんじゃないですか?妾の子ですし。」
実際私は妾の子だったし、花嫁修業以外は放置されていた。兄弟だっているし、家の跡継ぎには困らない。会話もろくになかったから、家族に関しては思い入れがなかった。
「婚約者のことは愛しているか?」
「愛しています。」
「なのに恨まないのか。」
「恨んでもどうしようもないですから。」
「年はいくつだ?」
「15になります。あなたは?」
「19だ。15の女子はそんなに大人っぽかったかな。」
と、私をじーっと見つめた。
「で、質問とは?」
見つめられるのが気恥ずかしくて話を戻した。
「そうだった。話がそれていったみたいで悪いな。で、神の加護はいつからだ?」
「生まれた時からです。」
「自分が何故力を宿しているかは?」
「存じません。」
「謎が多い力なのだな。なるほど……。」
「他には?」
「いや、もういい。」
「そうですか。」
「それと、どこのやつらか分からない人間に何かされそうになったら、全力で抵抗すること。魔法は使えるようだしな。」
「分かりました。」
でも、できれば私は魔法を使いたくなかった。何故なら、死神の加護を受けて使うことができる「毒花の香り」は、攻撃魔法ではなく、人を殺すための魔法だからだ。
自分を殺そうとしたり、連れ去ろうとする人間を殺したことがあるが、殺した後、自分は化け物なのだと認識するのが、怖い。
「入浴を済ませたらここで休むといい。」
「あなたは?」
「ソファーで十分だ。」
「それでは腰を痛めます。」
「誘ってるのか?」
「は!?」
爆弾発言に思わず大きな声が出てしまった。
「別にいいけど、新婚初夜だしね。」
「そんなわけないでしょうがっ!!」
「残念だ。」
「あなたにとって私はお飾りでしょう!?
いずれ正妻を娶ることに……」
「何言ってるんだ。正妻は君だよ」
「え?」
「妻は1人と決めているからな。」
「そういう訳にもいかないでしょう。
あなた皇太子だし」
「お前が俺の子を成してくれれば良い話だ。」
確かに、夫婦になるってことは、そういうことになるのか。
「今は深く考えなくてもいい。お前が俺の手を取る日まで待とう。あと、あなたではなく、サリスと呼べ。」
「では私のこともイヴと。」
「それと堅苦しい口調もなしでかまわない。出会った時の様に堂々としていてくれ。」
「お気遣いありがとうございます。」
「入浴の準備が整った様だ。入ってくるといい。」
「わかったわ。」
部屋の外に出ると、1人のメイドがこちらに微笑んだ。
「お初目にお目にかかります、奥様。
私今日からお仕えするとこになった侍女のアンジュ・マーティと申します。」
「初めまして、イヴ・ザラキエル・フィーネよ。よろしくね、アンジュ。」
「はい!入浴の準備が整っておりますので、どうぞこちらに。」
部屋に案内され、湯船に浸かった。
「お上がりになりましたらお声がけくださいませ。」
「ありがとう。」
いい香り……。ふぅと息をついた。
「大変なことになっちまったな、イヴ。」
「……、出てこないでちょうだい。私はあなたが大嫌いなのよ。しかも入浴中なのに」
「お前みたいなガキの体にキョーミねぇんだよ。」
私に憑いてる死神、リコリス。
姿は20代くらいの男性の姿をしていて、黒いローブを羽織っている。
時々こうやって、私にしか見えないが実体としてあらわれるのだ。
「冷静なフリしやがって。グレイシアと離れて寂しくねぇのかのよ。」
「……負けたのだからしょうがないわ」
「そうやって、昔から目を背けたいことには言い訳つけてフタをするよな」
「あなたには関係なくってよ。」
「まぁ口出しはしないけど、自分を押さえつけすぎるなよ。」
「言われなくてもわかってるわ」
「ならいいけどさ」
そう言って、リコリスは姿を消した。
私に取り憑く神だからなのか、リコリスは心にしまいこむ気持ちを、かき乱してくる。
だこら彼のことが嫌いだ。心配してくれているのかもしれないが、どうも心が乱れるのだ。
「意味わかんなくなってきたな…。」
ため息をこぼして、皇太子との婚約の1日が終わったのだった。
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