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第3章 ジギタリス
しおりを挟む「え、本当に同じベッドで寝るのか。」
「お仕事があるでしょうから、風邪を引いたり、腰を痛めてはいけないと思うわ。あ、誘ってないから。」
「さすが元時期皇后だ。そういう体調管理も重要だと分かっているな。」
「今はあなたの婚約者ですわ」
「なのに誘ってる訳ではないのか。」
「しつこくてよ。」
と、そっぽを向いてベッドに寝転んだ。
「おやすみなさいませ。」
「おやすみ。」
サリスが同じベッドで寝たのを確認して、眠りについた。
いや、つけなかった。隣にさっきまで戦をしていた皇太子が寝てるんだよ……。落ち着かない。
話すのと隣で寝てるのとは話が違うな、まったく。
それから1時間かけて、なんとかして眠りについた。
「おはようございます。奥様」
「ん……」
「朝でございますよ」
「わわっ」
アンジュの顔との距離が近くて、ガバッとはね起きた。
「あれ?」
サリスが、いない。
「皇太子殿下ならもうお仕事に向かわれましたよ。」
「そうなの。」
「所で奥様」
「何?」
「同じベッドで寝たということは、昨夜はもしかして……」
「してない!何もなかったわよ!!」
「あら、そうなのですね」
絶対この子にからかわれてるでしょ、私。
「あとそれから、殿下から伝言がございまして」
「何て言ってた?」
「昨晩言ったことを忘れるなよ、とだけ。」
……、昨晩。あれかな、抵抗することを忘れるなよって言ってたことか。
「そう。ありがとう」
「何のお話なのですか?」
「内緒よ。」
「えぇー。では、お着替えの準備をいたしましょうか」
「お願い。」
「今日のドレスは皇太子殿下がお選びになったのですよ。」
「絶対嘘だ。そんなのに興味ないでしょ、あの人」
「そうでしょうか。お選びになる際少し笑っておられましたよ。」
「へぇ……」
意外だ。というか、ちゃんと笑う人なんだ。
「どんなドレス?」
「こちらでございま……、えっ」
「アンジュ?」
「お、奥様。申し訳ないのですが、これはオススメできないかと……」
アンジュの顔がかなりひきつっている。
「え?」
用意されたと思われるドレスを見た。
「……」
ドレスを見て絶句した。
あきらかに用意されたドレスは50代か60代の女性が着るようなデザインのドレスだったからだ。……嫌がらせじゃない、これ?
ドレス選びで笑ってたってそういうことか!!おっかしいと思った。
「アンジュ」
「は、はい」
「サリスって、こういうのが趣味なの?」
「いえ、ただのイタズラだと思います……」
やることが子供なのよあいつ!!幼児か!
「……別のを用意してくれるかしら」
「かしこまりました……」
しばらくすると新しいドレスが用意された。
よかった。今度は普通だ。
ドレスを着せてもらって、朝食を済ませた。
「今からどうなさいますか?」
「本でも読もうかしら。」
「では書籍庫へ参りましょう。」
「ええ。」
皇太子宮の最上階が丸ごと書籍になっているらしい。全部でかいな、ベルツェは。
「こちらでございますよ。」
「入っていいの?」
「大丈夫ですよ。」
書籍庫に足を踏み入れた。
「……すごい」
広いし、3階まである。本を読むのが大好きだからここがたまり場になりそうだな……。
「おや、皇太子妃。ご機嫌麗しゅう」
「ご機嫌よう。あなたは?」
「書籍庫司書のオルゴット・マーティでございます。」
眼鏡をかけた落ち着いた見た目の男性。
年は20代半ばくらいかな……。
というか、マーティって、アンジュと同じ姓だな。偶然か?
「妻がお世話になっております。」
「あら、アンジュの旦那様でしたか。」
どうやらオルゴットはアンジュの夫の様だ。
「そういうこと奥様に言わないでよ、恥ずかしいわ」
「僕は挨拶しただけだよ?」
「それが恥ずかしいって言ってるのよ!」
なんていいつつもアンジュの表情は柔らかい。なんだかんだ言って仲が良さそうだ。
「何をお借りになりますか?」
「じゃあ、これをお願い。」
セレーヌにいた時から読んでいた本のシリーズを手に取った。
「かしこまりました。」
手続きをしてもらって、書籍庫を出た。
「良い旦那様ね。」
「は、はい。」
アンジュが頬を赤らめた。
「じゃあ戻りましょう。」
元いた部屋に戻ろうとした時だった。
歩いていた廊下のテラスが派手な音をたてて割れた。
「パリイィンッ!!」
「!!奥様、お下がり下さいっ!」
アンジュがバッと私の前に出た。
「……、皇太子妃発見。」
黒いマントを着た集団が目の前に立ち塞がった。
「あなた達、このお方が誰が心得ての行動なの!?
こんなことしてただで済むとお思いですか!!」
アンジュが私を守るように前に出て、集団に叫んだ。
「アンジュ、この人達は?」
「おそらく、いいえ……、100パーセント第二皇子殿下の命で動いている連中です。」
第二皇子……、サリスが昨日言ってた優秀な、皇帝候補のことだろうか。
「そもそも、この間のセレーヌとの戦争は皇太子殿下と第二皇子殿下がどちらがはやく奥様を手に入れるかの競走のようなものでした。先に着いたのが皇太子殿下だったようなので奥様はサリス様の妃になられましたが、第二皇子殿下が先に着かれていれば、奥様は第二皇子殿下の妻となられ、あちらがが時期皇帝になっていたでしょう。」
「!!」
新事実だ。だからサリスがフィーネ邸に来た時、
"俺が1番のようだ"って言ったのはそういうことなの……!?
「アンジュ」
「はい」
「これ、捕まったらどうなる?」
「殺される、又は皇太子殿下に皇位継承権を辞退するようにする人質にとられます。」
……、どちらも選択したくないな。
私をセレーヌとグレイシアとを引き離した本人でも、あの男は私の夫。足を引っ張る真似だけはしたくない。
「じゃあ、ケガしないように私の後ろにいてね。」
「お、お待ちください奥様!!まさか大人しく捕まるおつもりですか!?」
「大丈夫。サリスの足だけはひっぱらないよ」
「え……?」
抵抗しろって、言われてるもんね。妻なんだから、夫の言いつけは、ちゃんと守る。
本当は、こんなおぞましい力、使いたくないけれど、あの人が不利になる原因にだけは、なりたくないの。
「リコリス!」
私に憑いてる神の名を呼んだ。
「どうした?お前が俺を呼び出すなんて」
「うるさいわね。力を貸しなさい。」
「へぇ、珍しい。いいぜ、了解だ。」
リコリスが私に手をかざすと、身体を黒い物が纏い始めた。
「うぐっ……、うぁあっ」
何かが身体の中を暴れまくって、這っている。
そして、血が沸騰するみたいに、暑くて痛い。
……いつになっても慣れないな、、この感じ。
ほんっとうに、気持ち悪い。
「さぁ、派手に暴れろよ、イヴ。」
「っ……、ええ。」
「……、なんだ?」
「様子おかしくないか?」
集団がどよめき始めた。
そして、ガクンっと、地面に膝をつく。
「奥様!!」
「来ないで!!」
「!」
私に駆け寄ろうとしたアンジュに叫んだ。
「今から何があっても近寄ってはダメよ、アンジュ。絶対よ。」
「お、奥様……」
地面に手をつけ、叫んだ。
「ジギタリス!!」
地に大きな魔法陣が浮かび上がる。
ジギタリスは実際に毒のある花の名前で、死神の加護を受ける者が使える魔法、「毒花の香り」の中の魔法の一つ。だが、力が強力な代わりに、理性が保てなくなるかもしれない危険な魔法だ。この集団を殺すまで、理性を保てるか、どうか。
「始まった。こりゃ暴走コースかもな。」
上からリコリスの笑う声がした。
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