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第4章 化け物の本懐
しおりを挟む「な、なんだ。この感じ……」
「凄い、嫌な予感がする。」
「もちろんですわ。だって、あなた達私に殺されるんですもの。」
「奥様……?」
地に発動した魔法陣から、黒いドロドロとしたものがゴポリゴポリと溢れ出てきた。
その液体のような物は、集団のすぐ前まで流れ込むと、ピタリと止まった。
「……なんだこれ」
「なにも、起きないな。」
「驚かせやがって!!皇太子妃を取り押さえろ!!」
「おい待っ……!!」
剣を振りさがし、走ってきた男の首が、一瞬で宙に舞った。液体が男に絡みつき、一瞬で人体をバラバラにしたのだ。
「なっ……!!」
「バラバラになりたいお方はどうぞ前に。
神に愛された者の魔法は危険な物ですわ。覚えておくとよろしいかと。あぁでも、ここにいる人間は生きて返しませんので必要のない知識ですね。」
堂々と、堂々としていないと、この魔法に全て乗っ取られてしまいそう。少しでも弱気になったら、負けだ。
「……どうやら、舐めてかかってどうにかなる相手ではないらしい。」
「気がつくのが遅くてよ。」
まだ、まだ大丈夫。もっと、もっと気を確かに。
気が確かにあるうちに全員殺さないと、後ろにいるアンジュが危ない。
暴走して家の侍女を殺しかけたことだってある。
本当に気をつけないと……。
どんどん集団をばらばらにしていく。次から次へと出てきて、キリがない。何人いるのよこれ……!!
そんなに皇太子を不利な状況にしたいの……。
「待て皇太子妃!!いったん話を……!!」
「した所で何になるのですか。
あなた達が皇太子派の人間に害をなす以上、手を抜くつもりはございません。」
叫んだ1人を殺した後、耳の音で、ゴーンと鐘が鳴った気がした。
「残念。時間切れだ。」
リコリスの声がした直後、自分の中の何かが、プツンと切れた。
「あ……、うあっ、」
「な、何だ」
「今のうちにやれっ!!」
ハッとして、とっさに避けるが頬を少し斬られた。
「うっ」
しまった、流血なんてしたら……!!
「……てめぇら、誰の主人にケガさせてんだ」
昔からそうだ。リコリスは私がケガをすることに過剰になる。
「ダメよリコリス!!!!」
「ぎゃあああっ!!」
リコリスが秒単位で人を殺していく。ダメだ、聞こえてない……。
それに、私も正気を保てない。もう、もうだめ。
止めなきゃ、いけないのに。
「……大丈夫よ、イヴ。あなたなら出来る。」
「え……?」
何、今の声。もしかして……
「ほら、息を吸って吐いて。ゆっくり深呼吸するの。」
「だ、誰なの」
「そんなことより、今はこれに集中。あなたなら出来るわ。私の愛しい子」
そう言って、声は消えてしまったけれど、精神は落ち着いていた。声の通り、ちゃんとやらなきゃ。
「やめなさいリコリス。あなたの主人は誰?」
「!!」
低く冷たい声を出した。その声に驚いたのか、リコリスの手はピタっと止まった。
「……悪かった。」
残りの人間はリコリスが全部殺した後だった。
「……よく暴走しなかったな。何かあったか?」
「……」
今の声は、いったい何だったのだろう。
ただ一つだけ分かるのは、気配がリコリスと同じだったこと。
私はリコリスの力を使役出来るけれど、女神の加護力は使ったことがない。そもそも、女神に会ったことがないのだ。
今の声は、もしかしたら……。
「ううっ……」
「!」
しまった、まだ1人生きてる……。でも致命傷を負っているからもうじき死ぬだろう。
「……この、死神が」
「!!」
ああ、また同じ呼び方をされてしまった。
倒れる男に近づき、スパンと首をはねた。
「ふっ……、あははは」
「イヴ……?」
「あははははっ……!どうしようリコリス、
私何にも変わってないや。結局は私、どこでも化け物扱いだ。変わってなさすぎて、笑えてきちゃう」
涙が零れてきているのに、私は笑った。
笑わないと、おかしくなりそうだった。
やっぱり、私は一生化け物って言われ続けるんだろうな。
「すまない、イヴ。」
「え?」
フワリと、包み込まれた。
「無事で、良かった。」
「サリス……」
気がつくと、血まみれの私をサリスが抱きしめていた。
「……いいか、イヴ。
昨日言ったことは忘れてくれ。この力は、もう二度と使うな。」
「え……?」
「お前にこんな顔をさせてしまうなど、夫失格だ。次は必ず、俺が守ろう。
イヴのそんな顔を見ると、心が締めつけられてたまらない、そんな顔も絶対させたくない。だから、新しい約束をしよう。イヴが、この力を二度と使うことのないように、君を守ると誓う。」
「……サリス」
グレイシアが、この力を見た時は、腰を抜かしてしばらく避けられたりしたのに、この人は、こんな化け物の私と真っ直ぐに向き合おうとしてくれている。これが、ずっと欲しかった声だ。ずっと誰かにそう言われたかった。
何も変わってないこと、なかったね。
「だけど、俺のために動いてれたこと、感謝する。すごく嬉しいよ。」
「ほんとに、本当にもう使わなくていい?私の事、本当に守ってくださいますか?」
「ああ。」
「嬉しい……」
「!!ケガしてるじゃないか!!」
「こんなの平気です。……ねぇサリス。」
「ん?」
「1番欲しい言葉を1番に言ってくれて、ありがとう。そんなあなたが私の1番。私も、あなたの一生の伴侶になることを、ここに誓います。」
「そんなに早くにきめなくてもいいんだぞ」
「いいえ、今までの中で1番最高の瞬間に誓いたいのです。許してくださいませ。」
「後で後悔しても知らんからな」
「しませんわ、そんなこと。」
きっと今日が、私の本懐がとげられた日になる。
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