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初期設定

5. 蜻蛉玉

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「 新ちゃん、また怒られてる♪ 」

新が、
アロマドリップコーヒーメーカーで
コーヒーを淹れていると、

空気中に漂う
コーヒーの香りを嗅ぎながら、
背後からエリーが話しかけてきた。


「 毎朝、怒られてから1日が始まる 」

あっけらかんと笑いながら、
数分前に叩かれた頭を思い出し、
新は 自分の頭を撫でた。

「 社長のデスク汚しちゃダメでしょ 」

エリーが話す度に、
ふんわりとした
花の香りがするような、
優しい気持ちを 新は感じていた。


「 社長と副社長って付き合ってんの? 」

ずっと気になっていた事を、
新は サムライに指差し、
ためらわずに エリーに聞く。

新の突拍子ない質問に、
エリーは一瞬 困った顔をする。


「 知らなーい。

まぁ、でも… 仲はいいよね。

2人は同じ年齢だし。 」

グリーンカラーのコーヒーメーカーを、
エリーは無意味に撫でたりする。


「 社長、いくつ? 」

新の新たなる質問に、エリーは笑った。

「 知らなーい。知らなくていいでしょ 」

そう言って、
エリーは新の肩に手をのせて、

「 今日も、いい仕事しようね♪ 」

と微笑み、自分のデスクへと戻った。

そんな彼女の後ろ姿を眺めながら、

「 綺麗な子だなぁ~ 」と、

新は満足げに微笑んでいた。


「 レント! こっち来て。出来たよー 」

遠くから、
社長が 金髪少年の名前を呼んでいる。

金髪少年は、
よく見ると青年だったけど、
浮かれている様子が
弾む肩の揺れからも解るように、
スキップ調で
社長のデスクに向かっている。


何が、そんなに嬉しいんだろう… ?

何が、『 出来た 』??


新は、呼ばれてもいないのに、

レントの後に続いて、
ゆっくりと社長のデスクに向かい歩く。

片手には、コーヒーを持ちながら。


「 わぁーい♪ 待ってました!

ありがとうございます! 」

元気いっぱいに喜びを表す、
レントの背後から、

新は 顔を覗かせて、
2人のやりとりを興味深く眺めた。


社長と 目が合う。


「 … ? 新、何? 」

社長が不思議そうな顔で、
レントから目線を外し、
新の顔をしっかりと捕らえた。


レントは小さく驚き、
振り返り 新の顔を見る。


「 あ、いや~、あっ! はい、これ 」


さっきまで、時間をかけて淹れた
自分の為のコーヒーを、
社長に微笑みかけながら、
丁寧にデスクの端に置いた。


「 あっ、ありがとう。

淹れてきてくれたの?」

社長も、新につられて微笑み返す。


「 はい。 さっきは、すみませんでした 」

新は、
そんな事など1mmも思っていない。

だけど、
レントと社長の会話を早く知りたかった。


「 何が、出来たんですか? 」

単刀直入に、新はレントに聞いた。


レントの代わりに、社長が答えた。

自分の為に淹れてくれた
コーヒーではないと、
解っていながら。そこには触れずに。





     「 蜻蛉玉 ( とんぼだま ) だよ。」










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