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アウトライン
7. 輪廓
しおりを挟む目の前にある、小さな工房から
目に見えない何かを 感じていた。
上手く、言葉には出来ない。
ただ、" 行かないといけない " という、
強く引き寄せられる 何かを感じていた。
黒い瓦の屋根。
木造の外壁は、
雨や日光の影響で変色されていて、
地面に近い場所は 腐りかけて黒くなり、
所々に苔が生えていた。
壁一面に貼られた窓ガラスからは、
内装が チラリと見える。
白い壁に 木製の棚が取り付けられ、
その棚の上には、
小さな硝子のグラスが
幾つも並べられていた。
看板の無い、硝子工房。
そんな建物が、
世間から 弾かれたように、
もしくは、
自ら 世間から離れてしまったように、
生い茂る木々たちに囲まれて、
守られているように 佇んでいる。
「 こんにちはぁ~ 」
サムライが、声を掛けながら
細い造りの入り口に立つ。
扉は、開放されたままだった。
「 誰もおらんな 」
彼は振り返り、残念そうに私の顔を見た。
私も、サムライの背中越しに、
店内を少しだけ覗いてみる。
外観は古く、傷んではいるけれど、
店内は、綺麗に整理されていた。
まるで、サムライが住む
ほうれん荘 みたいだ。
「 よく見つけたわね 」
掠れた女性の声が、
私の すぐ背後から聞こえてきた。
「 わっ! 」 私の悲鳴に驚き、
「 わぁ! 何や?!」
サムライも、つられて大声を出す。
私達が、声のする背後を振り返ると、
小柄で細い 金髪の女性が立っていた。
振り返った瞬間に、
長めな突風が 吹き抜けていく。
その金髪女性が、
風を操っているように思えた。
柔らかいけど 厚みを感じる風が、
女性の金髪ショートヘアをなびかせる。
耳の上が、刈り上がっていた。
白い肌に、
両目の眼球が 色違いな女性。
片眼が水色で、
もう片方の眼は、オレンジ色をしていた。
オッド・アイ。
猫では見かけた事はあったけれど、
人間で見かけたのは、初めてだった。
「 こんにちは。営業してますか?」
私が、その女性の瞳に
吸い込まれそうになっていると、
サムライは 女性に、
人懐こい口調で声を掛けた。
サムライの声で、私は 我に返る。
危なかった… 。
何故だか解らないけれど、
自分を 見失いそうになっていた。
「 営業? … 営業ねぇ。 気まぐれよ 」
女性は そう言って、
サムライの横を通り過ぎ、
店内に入っていく。
サムライは 私の顔を見て、
" ? " な表情を作ってきた。
私も困惑し、苦笑いを浮かべる。
「 入るの?」 女性は振り返り、
私達に声を掛けてくる。
「 いいんですか?」
サムライが 少し嬉しそうに聞くと、
「 しょうがないから、入りなさい 」
と、女性は静かに微笑んだ。
硝子職人 、粋さんとの出逢いは、
後に、
私とサムライの人生を 大きく変えた
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