上 下
48 / 105
アウトライン

7. 輪廓

しおりを挟む

目の前にある、小さな工房から
目に見えない何かを 感じていた。
上手く、言葉には出来ない。

ただ、" 行かないといけない " という、
強く引き寄せられる 何かを感じていた。


黒い瓦の屋根。

木造の外壁は、
雨や日光の影響で変色されていて、
地面に近い場所は 腐りかけて黒くなり、
所々にこけが生えていた。

壁一面に貼られた窓ガラスからは、
内装が チラリと見える。
白い壁に 木製の棚が取り付けられ、
その棚の上には、
小さな硝子のグラスが
幾つも並べられていた。

看板の無い、硝子工房。

そんな建物が、
世間から 弾かれたように、
もしくは、
自ら 世間から離れてしまったように、

生い茂る木々たちに囲まれて、
守られているように たたずんでいる。


「 こんにちはぁ~ 」

サムライが、声を掛けながら
細い造りの入り口に立つ。
扉は、開放されたままだった。

「 誰もおらんな 」

彼は振り返り、残念そうに私の顔を見た。

私も、サムライの背中越しに、
店内を少しだけ覗いてみる。

外観は古く、傷んではいるけれど、
店内は、綺麗に整理されていた。

まるで、サムライが住む
ほうれん荘 みたいだ。


「 よく見つけたわね 」

かすれた女性の声が、
私の すぐ背後から聞こえてきた。

「  わっ! 」 私の悲鳴に驚き、

「 わぁ! 何や?!」

サムライも、つられて大声を出す。


私達が、声のする背後を振り返ると、
小柄で細い 金髪の女性が立っていた。

振り返った瞬間に、
長めな突風が 吹き抜けていく。

その金髪女性が、
風を操っているように思えた。

柔らかいけど 厚みを感じる風が、
女性の金髪ショートヘアをなびかせる。
耳の上が、刈り上がっていた。

白い肌に、
両目の眼球が 色違いな女性。
片眼が水色で、
もう片方の眼は、オレンジ色をしていた。

オッド・アイ。
猫では見かけた事はあったけれど、
人間で見かけたのは、初めてだった。

「 こんにちは。営業してますか?」

私が、その女性の瞳に
吸い込まれそうになっていると、
サムライは 女性に、
人懐こい口調で声を掛けた。

サムライの声で、私は 我に返る。

危なかった… 。
何故だか解らないけれど、
自分を 見失いそうになっていた。


「 営業? … 営業ねぇ。 気まぐれよ 」

女性は そう言って、
サムライの横を通り過ぎ、
店内に入っていく。

サムライは 私の顔を見て、
" ? " な表情を作ってきた。

私も困惑し、苦笑いを浮かべる。


「 入るの?」 女性は振り返り、

私達に声を掛けてくる。

「 いいんですか?」

サムライが 少し嬉しそうに聞くと、

「 しょうがないから、入りなさい 」

と、女性は静かに微笑んだ。


硝子職人 、すいさんとの出逢いは、

後に、
私とサムライの人生を 大きく変えた




しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

俺の友達

BL / 連載中 24h.ポイント:697pt お気に入り:2

ゲーム転生者は白の魔王に溺愛される

BL / 完結 24h.ポイント:944pt お気に入り:115

図書室の名前

青春 / 完結 24h.ポイント:1,675pt お気に入り:0

少し冷めた村人少年の冒険記

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:418pt お気に入り:2,186

ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,153pt お気に入り:1,768

灼魂戦線

SF / 連載中 24h.ポイント:370pt お気に入り:1

下級巫女、行き遅れたら能力上がって聖女並みになりました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,817pt お気に入り:5,695

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,661pt お気に入り:233

処理中です...