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かたちないもの
7. 空
しおりを挟む唯音が 口にする " 生き死に " は、
新に 重くのしかかり、
歩むべきはずの選択を、鈍らせる。
「 学校は? どうすんの?」
新が聞くと、
唯音は、
あらかじめ用意していたかの様に、
「 辞めるよ。卒業できそうにないから 」
と、新の目を真っ直ぐに見て 伝えた。
「 辞めんのかよ?!」
新は 思わず、声を荒げてしまう。
「 うん。パパとママにも 話した。
だから今、すごく怒ってるんだと思う 」
笑いながら話す彼女を見て、
新は、
緊張感が増していく中に、
ほんの少しの苛立ちが滲んでいった。
「 そうじゃねーだろ?
怒ってる理由は。そこじゃねーだろ?」
新が、急に荒い口調になっても、
彼女は、
そうなる事すら 予想していたみたいに、
柔らかな笑顔で、新を見ていた。
「 新。大きい声出したら、
お腹の赤ちゃんが ビックリしちゃうよ 」
「 あっ … 、 」
どうしてなんだろう。
ずっと、ずっと今まで、こうだった。
俺は、彼女が言う言葉 全てに、
きちんと 反応してしまう。
きちんと、応えようとしてる自分がいる。
彼女もまた、同じだった。
こんなに、ずっと 長く一緒にいるのに。
居心地の良さも、苛立ちも、
いろんなものを経ても 尚、
" 彼女だから " ずっと やってこれた。
それって、すごい事なんじゃないのか?
当たり前な生活は、
決して 当たり前なんかじゃなくて… …
「 よく、
妊娠5ヶ月近くも隠し通せたな!
って、思わない?」
彼女は いつだって、
俺が 困惑した時に、
俺の顔を見て 話しかけてきてくれる。
明るい笑顔を、俺だけに振り撒いて。
「 うん 」 新は、唯音の手を握った。
そして、
その 隠し通してきた話を、
彼女が 話し出す前に、
新は、先に 口を開いた。
「 … 大変 だったろう? 大丈夫か?」
新が、唯音に そう伝えた瞬間 、
彼女の笑顔は 一瞬で崩れ落ちて、
声を上げて 彼女は 泣いた。
唯音は、妊娠5ヶ月手前まで、
ずっと、1人で考えて生きてきたんだ。
親にも、俺にも バレないように。
" バレないように " する理由は、
妊娠初期で 話してしまったら、
" 中絶 " を 容易く勧められるから。
それが、嫌だったからだ。
だから、中絶手術が出来ないくらい、
お腹の子供が大きくなるのを、
彼女は 静かに待っていた。
出産に向けて、強行突破をする為に。
自分を愛してくれている 両親や、
そして、今 目の前にいる 俺を、
諦めるくらい、納得させる為に。
その間、唯音は
どんな気持ちで
毎日をやり過ごしてたんだろう… ?
" 出産したら、死ぬ " を、
常に 頭に入れながら。…
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