上 下
92 / 105
単純明快

10. 心変わり

しおりを挟む


サムライから 紫空に電話がきた時 、

彼が 無事である事を
事前に知っていたけど、
彼女は、すごく 嬉しくなった。


いつもの 彼の声、

いつもの 彼の話し方、

その両方が絡み合い、

紫空の中の 黒い雨雲みたいなものが、
一気に 消えてなくなるのを、
彼女は、心底 実感できた。


恋や、愛とかいうものに、
翻弄ほんろうされるのも悪くない、と
紫空は 素直に そう思えた。

彼が、相手なら 。…… …




喫茶店で、元極道 の女に
威嚇いかくと警告をした、
その 4時間後。

懐かしさを感じたくもなかった、
元旦那から

紫空のスマホへ 連絡が入った。


『 久しぶりだなぁ~、元気にしてたか 』

電話が掛かってくる事を、
事前に予知できていた紫空は、
会社 ではなく、
一旦 自宅へと戻っていた。


「 お久しぶりです 」


窓際にある 一人掛けのソファに座り、
スリッパを脱いで、
オットマンに足をのせる。

サイドテーブルに置いてある煙草を、
片手で拾い上げ、
苛立つ気持ちを抑えようと、
紫空は、
唇にくわえた煙草に 火をつけた。


『 伝言、聞いたぞ 』

「 はい 」

だから、電話してきたんだろ?と、
ツッコミそうになったけれど、
敢えて 言わなかった。


『 おまえの望みは、聞いた。

昔のよしみ として、だ。

今回だけだぞ。』


「 はい。解ってます 」


『 今日来た男は、何だ?

おまえの男か?』


「 ………… 」 紫空は、黙り 様子をみた。


『 大丈夫だ。

もう、おまえに未練は無い。安心しろ 』

そう言って、男は 電話越しで 笑った。

「 良かった… 」

紫空は、
一瞬の気の緩みを 言葉にしてしまう。

『 相変わらずだなぁ 』

それを聞いて、男は また笑った。


本当に、紫空への愛情が 既に無い事を、

男の笑い声を聞いて、
彼女はまた 確認できた。


『 あの男は、あれだな… 。

うちの組に、スカウトしたい男だな。

もう、俺の組ではないが。

今の若い世代には無い、
俺の若い頃の… 』



            「 Keyキー 」



男が話している最中に、
紫空は声を掛け 言葉を挟んだ。


『 … その、呼び方。

それも、懐かしいなぁ。

俺を そう呼ぶ人間は、

おまえしかいないからな 』


昔と違い、年齢を重ねて丸くなったのか、
男は よく笑うようになっていた。


「 私に、

用がある訳では無いんでしょ?

うちの会社が欲しいの… ?

それも違うよね?

Keyにとっては、小さな会社だから 」


『 … うーん、そうだなぁ。

確かに、おまえが言う通り、

今 俺が欲しいものは、

その2つでは ないな 』


「 じゃあ、何? … 何の為に、」

うちの会社を 嗅ぎ回っているの…? と、
聞く前に、

今度は 男の方から、
彼女の言葉をさえぎった。


『 何にせよ、私は

欲しいものは 必ず、手に入れてきた 』


「 ………… 」


『 邪魔する奴は、始末する。

そのやり方も、変わってはいない 』


「 何が、欲しいの… ?」


『 おまえには、関係ない。私の趣味だ 』


「 … 趣味を邪魔されただけで、

人を殺せるの?」

1度しか吸っていなかった、
1本の煙草が、
長い灰に変わり 垂れ下がっていた。

紫空は それに気付き、
床に灰が落ちないよう気をつけながら、
ゆっくりと 灰皿に すり潰した。


『 人聞きの悪い事を言うな。

わざわざ 私が手を汚して、

始末する訳じゃない 』


男の言葉を聞いて、紫空は 目を閉じた。


"「 情報屋が、

行方不明になっとんねや 」"  …


サムライから聞いた言葉を、
思い出して しまった。


「 あぁ、そうか。そういう事か … 」


『 人を殺した事がある おまえに、

言われるとはなぁ~ 』

男はまた、不敵な笑いをこぼした。


「 ………… 」


『 今日、ここに来た男は

知ってるのか? おまえの、その過去を 』


「 いや、知らないよ。

知らせる必要がないから。」


紫空は また、煙草に火をつけた。
指先が、小刻みに 震えていた。


『 まぁ、そうだな。言わない方がいい。

それを受け入れられるのは、

俺ぐらいだからなぁ。』


「 私が、Keyに 話した訳じゃない。

Keyが昔、勝手に私を調べて

知っただけの事でしょ?

私は わざわざ、
誰にも話すつもりはない 」


『 まぁ、そう怒るな。昔の話だ 』




私は どうして昔 、こんな男を

一瞬でも 愛せたんだろうか … ?




しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

俺の友達

BL / 連載中 24h.ポイント:789pt お気に入り:2

ゲーム転生者は白の魔王に溺愛される

BL / 完結 24h.ポイント:915pt お気に入り:115

図書室の名前

青春 / 完結 24h.ポイント:1,647pt お気に入り:0

少し冷めた村人少年の冒険記

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:397pt お気に入り:2,186

ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,054pt お気に入り:1,769

灼魂戦線

SF / 連載中 24h.ポイント:498pt お気に入り:1

下級巫女、行き遅れたら能力上がって聖女並みになりました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,824pt お気に入り:5,695

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,647pt お気に入り:233

処理中です...