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単純明快
10. 心変わり
しおりを挟むサムライから 紫空に電話がきた時 、
彼が 無事である事を
事前に知っていたけど、
彼女は、すごく 嬉しくなった。
いつもの 彼の声、
いつもの 彼の話し方、
その両方が絡み合い、
紫空の中の 黒い雨雲みたいなものが、
一気に 消えてなくなるのを、
彼女は、心底 実感できた。
恋や、愛とかいうものに、
翻弄されるのも悪くない、と
紫空は 素直に そう思えた。
彼が、相手なら 。…… …
喫茶店で、元極道 の女に
威嚇と警告をした、
その 4時間後。
懐かしさを感じたくもなかった、
元旦那から
紫空のスマホへ 連絡が入った。
『 久しぶりだなぁ~、元気にしてたか 』
電話が掛かってくる事を、
事前に予知できていた紫空は、
会社 ではなく、
一旦 自宅へと戻っていた。
「 お久しぶりです 」
窓際にある 一人掛けのソファに座り、
スリッパを脱いで、
オットマンに足をのせる。
サイドテーブルに置いてある煙草を、
片手で拾い上げ、
苛立つ気持ちを抑えようと、
紫空は、
唇にくわえた煙草に 火をつけた。
『 伝言、聞いたぞ 』
「 はい 」
だから、電話してきたんだろ?と、
ツッコミそうになったけれど、
敢えて 言わなかった。
『 おまえの望みは、聞いた。
昔のよしみ として、だ。
今回だけだぞ。』
「 はい。解ってます 」
『 今日来た男は、何だ?
おまえの男か?』
「 ………… 」 紫空は、黙り 様子をみた。
『 大丈夫だ。
もう、おまえに未練は無い。安心しろ 』
そう言って、男は 電話越しで 笑った。
「 良かった… 」
紫空は、
一瞬の気の緩みを 言葉にしてしまう。
『 相変わらずだなぁ 』
それを聞いて、男は また笑った。
本当に、紫空への愛情が 既に無い事を、
男の笑い声を聞いて、
彼女はまた 確認できた。
『 あの男は、あれだな… 。
うちの組に、スカウトしたい男だな。
もう、俺の組ではないが。
今の若い世代には無い、
俺の若い頃の… 』
「 Key 」
男が話している最中に、
紫空は声を掛け 言葉を挟んだ。
『 … その、呼び方。
それも、懐かしいなぁ。
俺を そう呼ぶ人間は、
おまえしかいないからな 』
昔と違い、年齢を重ねて丸くなったのか、
男は よく笑うようになっていた。
「 私に、
用がある訳では無いんでしょ?
うちの会社が欲しいの… ?
それも違うよね?
Keyにとっては、小さな会社だから 」
『 … うーん、そうだなぁ。
確かに、おまえが言う通り、
今 俺が欲しいものは、
その2つでは ないな 』
「 じゃあ、何? … 何の為に、」
うちの会社を 嗅ぎ回っているの…? と、
聞く前に、
今度は 男の方から、
彼女の言葉を遮った。
『 何にせよ、私は
欲しいものは 必ず、手に入れてきた 』
「 ………… 」
『 邪魔する奴は、始末する。
そのやり方も、変わってはいない 』
「 何が、欲しいの… ?」
『 おまえには、関係ない。私の趣味だ 』
「 … 趣味を邪魔されただけで、
人を殺せるの?」
1度しか吸っていなかった、
1本の煙草が、
長い灰に変わり 垂れ下がっていた。
紫空は それに気付き、
床に灰が落ちないよう気をつけながら、
ゆっくりと 灰皿に すり潰した。
『 人聞きの悪い事を言うな。
わざわざ 私が手を汚して、
始末する訳じゃない 』
男の言葉を聞いて、紫空は 目を閉じた。
"「 情報屋が、
行方不明になっとんねや 」" …
サムライから聞いた言葉を、
思い出して しまった。
「 あぁ、そうか。そういう事か … 」
『 人を殺した事がある おまえに、
言われるとはなぁ~ 』
男はまた、不敵な笑いをこぼした。
「 ………… 」
『 今日、ここに来た男は
知ってるのか? おまえの、その過去を 』
「 いや、知らないよ。
知らせる必要がないから。」
紫空は また、煙草に火をつけた。
指先が、小刻みに 震えていた。
『 まぁ、そうだな。言わない方がいい。
それを受け入れられるのは、
俺ぐらいだからなぁ。』
「 私が、Keyに 話した訳じゃない。
Keyが昔、勝手に私を調べて
知っただけの事でしょ?
私は わざわざ、
誰にも話すつもりはない 」
『 まぁ、そう怒るな。昔の話だ 』
私は どうして昔 、こんな男を
一瞬でも 愛せたんだろうか … ?
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