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第67話現実問題~監視人side~
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アダマント王国最後の国王、ユリウス陛下の存在は複雑だ。
王国でなくなったからという訳ではない。
彼は退位後、『男爵』となり辺境の領地を譲り受けた。
異例の措置だった。
それというのも、彼の母親。つまり、シュゼット側妃が国王の子供と偽って産んだ存在であったからだ。いや、本人は偽るつもりはなかったのだろう。当時、側妃には相思相愛の恋人がいたそうだからな。その恋人との結婚も間近に迫った頃、国王に見初められたそうだ。
今後の事もあり、帝国はユリウス元国王を『側妃の不義の子』と公式発表した。
そうしなければならなかった。
今後、ユリウス元国王を担ぎ出す者が出ないようにするために。また、ユリウス元国王の子孫が後の世で王家の復権を言い出さないとも限らない。災いの種は、早めに潰すのが基本なのだ。王家の血を引いていなければ神輿として担ぐことも出来ないだろうしな。
ユリウス元国王は、『辺境の貴族』として余生を過ごす事になった。
本来なら王家簒奪者という大罪を背負って母親共々処刑されるはずだった。
それが処刑を免れ、一代限りとはいえ爵位を貰い貴族として生活している。
正に異例中の異例。
他では無理だろうし、そんな事はしない。
だが、既に王家は滅んでいる事と、ユリウス元国王の出生の秘密は長らく噂になっていたらしい。特に高位貴族の間では公然の秘密と化していた。
実際、ユリウス元国王が王の血を引かない不義の子だと公表されて動揺したのは国民と下位貴族のみで、高位貴族は一切動じなかった。まぁ、そういうことなんだろう。
だからこそ、ユリウス元国王が辺境とはいえ、一代限りであっても爵位を得る事が出来た理由だった。
「それで、ユリウス様はお元気にしておいででしたか?」
「えぇ……まぁ……」
元気すぎるくらいに、な。
『男爵』になったとはいえ、元々王族として贅沢に育てられたユリウス元国王だ。辺境の地でさぞかし苦労している事だろうと思っていたが、母親と元護衛のお陰か直ぐに慣れたようだ。これは本当に意外だった。
元側妃とはいえ、贅沢を好む質ではなかったのだろう。
今まで暮らしていた後宮よりもずっと狭い田舎の館で、それでも楽しそうにしていた。ただ、辺境は田舎だけに治安も悪くなると懸念されていたので、元護衛が目を光らせていた。
「近々、自警団を立ち上げるそうですよ」
「…………自警団を、ユリウス様が……ですか? いやはや、それは……大丈夫でしょうか?」
「大丈夫ですよ。自警団と言ってもお目付きの『私兵集団』のようなものでしょう」
「あ、そうか。それなら……ですが、何故、そんな組織を立ち上げたのでしょうか?」
「治安維持の手段を増やすとか、何とか」
「そうですか。因みにどのような人物を組織に入れる気でしょうか……あまり血の気の多い方ばかりですと……」
あぁ、心配なんだな。
「そこは、大丈夫だと思います。入団審査はこちらで行いますので」
当然、身辺調査は念入りにする。何かあると不味いからな。変な人間は入らないだろう。
もっとも騎士崩れは論外だがな。あいつらは仕事らしい仕事をしない連中が多い。腕が悪い訳じゃないが、私利私欲に走りすぎるケースが多いので結局使い物にならない。それなら傭兵崩れの方がまだマシだろう。彼らは給料分の仕事をキッチリこなすからな。
王国でなくなったからという訳ではない。
彼は退位後、『男爵』となり辺境の領地を譲り受けた。
異例の措置だった。
それというのも、彼の母親。つまり、シュゼット側妃が国王の子供と偽って産んだ存在であったからだ。いや、本人は偽るつもりはなかったのだろう。当時、側妃には相思相愛の恋人がいたそうだからな。その恋人との結婚も間近に迫った頃、国王に見初められたそうだ。
今後の事もあり、帝国はユリウス元国王を『側妃の不義の子』と公式発表した。
そうしなければならなかった。
今後、ユリウス元国王を担ぎ出す者が出ないようにするために。また、ユリウス元国王の子孫が後の世で王家の復権を言い出さないとも限らない。災いの種は、早めに潰すのが基本なのだ。王家の血を引いていなければ神輿として担ぐことも出来ないだろうしな。
ユリウス元国王は、『辺境の貴族』として余生を過ごす事になった。
本来なら王家簒奪者という大罪を背負って母親共々処刑されるはずだった。
それが処刑を免れ、一代限りとはいえ爵位を貰い貴族として生活している。
正に異例中の異例。
他では無理だろうし、そんな事はしない。
だが、既に王家は滅んでいる事と、ユリウス元国王の出生の秘密は長らく噂になっていたらしい。特に高位貴族の間では公然の秘密と化していた。
実際、ユリウス元国王が王の血を引かない不義の子だと公表されて動揺したのは国民と下位貴族のみで、高位貴族は一切動じなかった。まぁ、そういうことなんだろう。
だからこそ、ユリウス元国王が辺境とはいえ、一代限りであっても爵位を得る事が出来た理由だった。
「それで、ユリウス様はお元気にしておいででしたか?」
「えぇ……まぁ……」
元気すぎるくらいに、な。
『男爵』になったとはいえ、元々王族として贅沢に育てられたユリウス元国王だ。辺境の地でさぞかし苦労している事だろうと思っていたが、母親と元護衛のお陰か直ぐに慣れたようだ。これは本当に意外だった。
元側妃とはいえ、贅沢を好む質ではなかったのだろう。
今まで暮らしていた後宮よりもずっと狭い田舎の館で、それでも楽しそうにしていた。ただ、辺境は田舎だけに治安も悪くなると懸念されていたので、元護衛が目を光らせていた。
「近々、自警団を立ち上げるそうですよ」
「…………自警団を、ユリウス様が……ですか? いやはや、それは……大丈夫でしょうか?」
「大丈夫ですよ。自警団と言ってもお目付きの『私兵集団』のようなものでしょう」
「あ、そうか。それなら……ですが、何故、そんな組織を立ち上げたのでしょうか?」
「治安維持の手段を増やすとか、何とか」
「そうですか。因みにどのような人物を組織に入れる気でしょうか……あまり血の気の多い方ばかりですと……」
あぁ、心配なんだな。
「そこは、大丈夫だと思います。入団審査はこちらで行いますので」
当然、身辺調査は念入りにする。何かあると不味いからな。変な人間は入らないだろう。
もっとも騎士崩れは論外だがな。あいつらは仕事らしい仕事をしない連中が多い。腕が悪い訳じゃないが、私利私欲に走りすぎるケースが多いので結局使い物にならない。それなら傭兵崩れの方がまだマシだろう。彼らは給料分の仕事をキッチリこなすからな。
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