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110.内乱の終わり
しおりを挟む正規軍が降伏宣言をした。
責任者のエンリケ王子は死亡したため、騎士団団長が統括者として話し合いに応じる事になった。
「辺境伯爵、ひとつ訪ねても?」
「何でしょう、公爵閣下」
「この大量の食材と水は……」
「勿論、王都の民達に配る代物です」
やっぱりそうか!!
分かってはいたけど!!
「この量では数日分しか持ちませんよ?」
「ご安心ください。三日後には更に倍の食料と水が届く手配になっております。これで民衆はもろ手を挙げて我々を歓迎するでしょう」
ソウダネ。
物凄いマッチポンプ。
水路断ち切ったが側が何食わぬ顔で食料と水を配るって。
人のいい笑顔の辺境伯爵。
何処から見ても善良ないい人に見える。
人は見かけによらないとはこの事だろう。
辺境伯爵の読み通り、僕達は民衆から歓迎された。
まず間違いなく、この食料と水のためだろう。
だって目が違う。
大歓声を上げる民衆の目は誰も僕達を見てない。僕達を通り過ぎて、食べ物に釘付けだった。
その後、騎士団団長との話し合いは終了した。
正規軍の全面降伏でこの内乱の幕は閉じたのだった。
因みに、義父の宰相は行方不明だった。
「王都を隈なく探したのですが見つかりませんでした」
申し訳なさそうな顔の騎士団団長だったが、逆にこっちが謝りたい。彼からしたら、もしかすると暴徒達の手によって知らない間に遺体になっている事を懸念しているのかもしれない。その遺体の中に義父はいなかったけどね。
「いえ、お気になさらず。宰相も覚悟の上でしょう」
「かたじけない」
いや、あの義父は妙なところで悪運が強い。
逃げ延びた可能性が高いな。
まあ、一人で逃げたところがあの人らしい。
公爵領に来たら、ブリジットと義母に見つからないように今度こそ始末しよう。それがいい。
その時だった。
「ジョヴァンニ様の仇!覚悟ーーーー!!!」
叫び声と共に一人の男が襲ってきた。
男は剣を僕に向けて振り下ろした。咄嵯のことで少し反応に遅れたがギリギリで避けることが出来た。そのうえで僕は男を軽く蹴り上げた。場所が階段だったこともあり、男の身体は大きく吹き飛び転げ落ちていった。
急に襲ってくるなんて何処のどいつだ!
「申し訳ありません!!」
頭を下げる騎士団団長にこちらは訳が分からない。
詳しく聞くと、どうやら襲ってきた男は副団長で、騎士団団長の部下だというではないか。なら騎士団団長の差し金かと思いきや、副団長の独断だったという。
「副団長は息子を昔から可愛がっておりまして……」
あ、そういえば「ジョバンニ様の仇」とか言っていた。
「御子息に何か?」
騎士団団長は言いにくそうだった。
もしかして死んだとか?
え?
でも彼の息子が死んだとしても何故その責任が僕になる?
肩を落とした騎士団団長は少しうつむき加減で説明してくれた。
どうやら以前、僕が蹴ったせいで彼の息子は寝たきり状態になったそうだ。
あれくらいで?と思った。だって素人の蹴りだ。それも正当防衛。ジョバンニの鍛え方が足りないのでは?
ジョバンニが見かけ倒しの最弱の可能性が浮上した瞬間だった。
勿論、そんなことを言える状況じゃない。空気を読んで何も言わなかった。
「今も療養しております。息子のことはアレの自業自得。副団長のやった事は逆恨みです。それでも彼にとって、公爵は文字通り仇だったのでしょう。どうしても許せなかったようです」
そういうことか。
僕は納得したが、騎士団団長は苦渋に満ちた顔だ。
なんとも困った話である。
取り敢えず、副団長には二度とこんな事がないように厳重注意をお願いしておいた。僕から言えばまた襲ってきそうだしね。
ちょっとしたアクシデントはあったものの、こうして一応決着はついた。
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