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~第二章~
28.北国の王子side
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あの父上が明らかに異国の人間だと分かる少年を王宮に連れてきた。
それだけでも驚くべきことだ。
偏屈で人の好き嫌いの激しい父上は、家族でさえ傍に寄せ付けない程だ。
息子である俺や兄上たちでさえそうだ。歴史的に親兄弟で王位争いが激しかったせいも関係している筈だ。
それなのに、この異国の少年は、何の抵抗もなく父の領域に入り込んだのだ。
その事実だけでも信じられない出来事だったのだが……。
少年……黒曜は面白い。
ギルド所属だというから、『黒曜』という名前は本名ではないだろう。だが、彼の作る魔法薬は素晴らしい。
本人は「魔力がありませんから。その分、魔力が必要のない魔法薬が得意なんです」と言うが、あれだけの品質のものを作るのには相当の知識と技術が必要だ。
王宮の専属薬師ですら、あのレベルのものは作れないだろう。
それに「平民」という触れ込みにも首を傾げたくなる。
確かに服装は平民の恰好をしている。だが、立ち居振る舞いは洗練されていて下手な貴族よりも気品がある。この国の言葉も流暢だ。他の言語に通じているのかもしれない。確認はしていないが間違いないだろう。彼は高度な教育を受けた者だ。
『黒曜に過去の事は聞くな』
父上からの命令だ。
誰もが彼を知りたかった。それでも国王陛下の命令を無視する愚か者はいない。
今でこそ落ち着いているが、彼が来る前は酷かった。
気分屋の父上に城中がピリピリしていた。
気に入らなければ、すぐに「追い出せ」と言ったり「クビだ」と騒ぎ立てたからだ。
敵の多い人で暗殺者を差し向けられてた事なんて両手じゃ足りないくらいだ。その都度、敵を自ら斬首して返り討ちにした事も記憶に新しい。
そんな父上が一人の少年に対してここまで心を許すとは思わなかった。
父上の命令通り、俺は彼に過去を聞くことはしなかった。
恐怖の代名詞のような国王相手に一歩も引かず、堂々と意見する度胸にも驚いた。
父上を相手に臆することが全くない。
物怖じしない態度は父上を不快にさせるかと思ったが、何故かそうはならなかった。
寧ろ、黒曜に興味をもったようだ。
父上も変わったものだ。
こんな表情をする人ではなかった。
兄上たちも驚いていた。俺自身も驚きだ。
いつも不機嫌そうな顔をしている父上が笑っている! 思わず二度見してしまったほど衝撃的だった。
父上が笑うこと自体珍しいのに、あんな風に優しく微笑む姿を見たことがない。
黒曜は「旅の途中だから、そろそろ国を出て旅を再開したい」と言っていた。
残念だが、父上が許さないだろう。
何も言わないが父上は黒曜を一生手放すつもりはないはずだ。
黒曜もそれを薄々察していたのか、ある日、置手紙をおいて城から去ってしまった。
慌てて追いかけたが、既に遅かった。
彼は国境を抜けた後だった。
暫くの間、父がうざかった。
それだけでも驚くべきことだ。
偏屈で人の好き嫌いの激しい父上は、家族でさえ傍に寄せ付けない程だ。
息子である俺や兄上たちでさえそうだ。歴史的に親兄弟で王位争いが激しかったせいも関係している筈だ。
それなのに、この異国の少年は、何の抵抗もなく父の領域に入り込んだのだ。
その事実だけでも信じられない出来事だったのだが……。
少年……黒曜は面白い。
ギルド所属だというから、『黒曜』という名前は本名ではないだろう。だが、彼の作る魔法薬は素晴らしい。
本人は「魔力がありませんから。その分、魔力が必要のない魔法薬が得意なんです」と言うが、あれだけの品質のものを作るのには相当の知識と技術が必要だ。
王宮の専属薬師ですら、あのレベルのものは作れないだろう。
それに「平民」という触れ込みにも首を傾げたくなる。
確かに服装は平民の恰好をしている。だが、立ち居振る舞いは洗練されていて下手な貴族よりも気品がある。この国の言葉も流暢だ。他の言語に通じているのかもしれない。確認はしていないが間違いないだろう。彼は高度な教育を受けた者だ。
『黒曜に過去の事は聞くな』
父上からの命令だ。
誰もが彼を知りたかった。それでも国王陛下の命令を無視する愚か者はいない。
今でこそ落ち着いているが、彼が来る前は酷かった。
気分屋の父上に城中がピリピリしていた。
気に入らなければ、すぐに「追い出せ」と言ったり「クビだ」と騒ぎ立てたからだ。
敵の多い人で暗殺者を差し向けられてた事なんて両手じゃ足りないくらいだ。その都度、敵を自ら斬首して返り討ちにした事も記憶に新しい。
そんな父上が一人の少年に対してここまで心を許すとは思わなかった。
父上の命令通り、俺は彼に過去を聞くことはしなかった。
恐怖の代名詞のような国王相手に一歩も引かず、堂々と意見する度胸にも驚いた。
父上を相手に臆することが全くない。
物怖じしない態度は父上を不快にさせるかと思ったが、何故かそうはならなかった。
寧ろ、黒曜に興味をもったようだ。
父上も変わったものだ。
こんな表情をする人ではなかった。
兄上たちも驚いていた。俺自身も驚きだ。
いつも不機嫌そうな顔をしている父上が笑っている! 思わず二度見してしまったほど衝撃的だった。
父上が笑うこと自体珍しいのに、あんな風に優しく微笑む姿を見たことがない。
黒曜は「旅の途中だから、そろそろ国を出て旅を再開したい」と言っていた。
残念だが、父上が許さないだろう。
何も言わないが父上は黒曜を一生手放すつもりはないはずだ。
黒曜もそれを薄々察していたのか、ある日、置手紙をおいて城から去ってしまった。
慌てて追いかけたが、既に遅かった。
彼は国境を抜けた後だった。
暫くの間、父がうざかった。
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