偽物の侯爵子息は平民落ちのうえに国外追放を言い渡されたので自由に生きる。え?帰ってきてくれ?それは無理というもの

つくも茄子

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~第二章~

27.病を治す

 南から東へ。
 東から北へと旅を続ける。

 季節は冬。
 マイナス何度になるのか分からない極寒の地は想像以上だ。

 過疎化が進む村には宿はなく、親切な村人が家に泊めてくれた。
 泊めてもらったお礼に、医療もどきを施した。というのも、この村には医師がおらず、近隣の村々にも碌な医者はいなかった。医療をちょこっとかじった程度の人間が「医者です」と宣っている。医師免許を持っていない連中だが、それでも村には必要な人材なのだろう。これが大きな町なら問題になるが、過疎の村ではそれも起こらない。つまり、僕にとっても都合が良かった。

「ありがとうございます!」
 
「助かります!」

 感謝の言葉が飛び交う。
 中には涙を流している者までいた。
 それだけ薬の効果は絶大だったってことだ。村の人たちからすれば、ちょっとした怪我や病気でも命取りになりかねない。だから、僕みたいな若造に感謝してくれるんだろうね。
 
「どう致しまして」

 僕は笑顔で応える。
 そして、次の村へと向かう。そこでも泊めて貰ったお礼に薬を提供していった。村人たちの中には「奇跡だ」「神のご加護だ」などと口走る者もいたけど、まあ気にしない。そう思ってくれても構わないし、思われて悪い気もしないし。
 そんなことをしながら村々を転々としていった。

 当然というべきか、噂になった。
 評判が評判を呼び、この国の国王の耳にまで届いてしまっていた。


「ほぉ、そのような旅人がいるのか」

 謁見の間で大臣の報告を受けた王様の第一声がこれである。

「はい。そのように聞いております」
 
「どこの国の使者でもないのだな?」
 
「はい。ただの旅の薬師だと申しておりました」

「旅人か。例の国ではないのか?」

「南の国から来てと調べは付いていますが、元は別の国の住人です。スパイの可能性は少ないでしょう。彼等ならば数人で行動しますので」

「ふむ……面白いな。南からわざわざこの地に来るとは。しかも純粋な旅行者だとはな」
 
「はい。時期が時期です。余程の変わり者と見受けられます。村人たちも今の季節に南から北に旅している事に驚いておりました」
 
「だろうな。逆はあっても、真逆の方角に向かうなど普通はない。冬になれば南に行きたくなるものだ。特に我が国の者なら余計にな」

「はい」

「実に興味深い。会ってみたいものだな。その奇跡を起こす薬師とやらに」

 国王の願いは叶えられることになる。
 保養地から王都へと続く街道の途中で、件の旅人である僕と出会ったからだ。
 これは本当に偶然。
 きっと神様も予想しなかった事だ。

 何故か、国王は僕が『噂の薬師』と直ぐに分かったようだ。

 そうして、僕は攫われるように馬車に乗せられていた。


 さすが王族専用の馬車。

 馬車の中の快適さが半端ない。まるで一流ホテルのような内装だ。

 広々とした車内、無駄に豪華なシャンデリア、整えられた空調、お尻が沈み込むくらいにフカフカのソファー、最高級品のクッション。
 それら全てが懐かしかった。
 僕は久方ぶりに心からリラックスできた気がする。
 高価な茶葉を堪能していた僕は気付かなかった。
 

 国王が面白そうに眺めていた事を―――









 
 
 北の大国。
 その国の王宮に来て早、半年が経過しようとしていた。
 季節はいつの間にか夏を迎え、沈むことない白い太陽――白夜と呼ばれる現象らしい――が世界を照らし続けていた。
 僕としてはそろそろ旅の続きをしたいと思っていたのだけれど、それは叶わなかった。

「ずっとここに居ればいいじゃないか!」

「そうだよ! ずっと一緒に暮らせばいいんだよ!」

 僕の両サイドにはこの国の王子がいた。
 どちらも二十歳前後だろうか? 双子らしく顔が似ている。二人は僕を手放そうとしない。それは国王も同じだった。
 
「申し訳ありませんが、まだ旅を続けないといけないんです」
 
「なんでだよ!?」
 
「どうしてさ!?」
 
「世界を見て回りたいのです」
 
「それなら俺らと一緒に見て回ろうぜ!」
 
「そうしようよ!」
 
「…………」

 無言の時間が過ぎる。
 二人の気持ちはよく分かる。
 ここでの生活はとても快適だし、衣食住にも困らない。
 欲しいものがあれば言えば用意される。
 だけど、それが当たり前になってしまうとダメなんだ。
 僕は飽く迄も客人だ。
 彼等の家族でもなければ臣下でもない。
 ただのお世話になっている人間にすぎないんだからね。

 それに未だ旅は終わっていない。

「また来ますよ」

 苦笑しながら告げると――

「本当か!?」

「約束してくれるかい?」

「えぇ。勿論ですとも」

 二人が嬉しそうな表情を浮かべる。

「でも、黒曜」

「なんですか?」

「父上はきっと黒曜を手放さないと思う」

「そう思うな」

「……」

 僕は無言で返すしかなかった。
 実は国王に旅に出る旨を以前伝えたところ、予想通りの反応を示したからだ。「何故なのだ!?」から始まり、「ずっとここで暮らしてもいいではないか!」と最後まで譲らない。
 早い話が平行線状態で今に至る。
 
 説得……は無理だろうな。

 どうしたものかなぁ……。



 
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