偽物の侯爵子息は平民落ちのうえに国外追放を言い渡されたので自由に生きる。え?帰ってきてくれ?それは無理というもの

つくも茄子

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~第二章~

30.不思議な店

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「本当にお世話になったよ。お礼に、店で気に入ったのがあれば持って行っていいよ」

「え?それはちょっと……」

「ははっ。この店はちょっと特殊でね。君はこの店に気に入られたみたいだから何を選んでも大丈夫だと思ったんだ」

 んん?どういうことだ?店が気に入る? よく分からないまま、とりあえず店内を見て回ることにした。このお店の商品はどれも年代物のものばかりだ。上等なガラス製品もあれば木彫りの小物入れもあった。どれもしっかりと管理されていることが伺える品揃えだ。更に奥の方へ進んでいくと妙な違和感を覚えた。本棚に並べられた書物の数々は背表紙の文字が掠れており、タイトルが全く読み取れないのだ。しかもその数は異常に多く、一部屋まるっと本の壁で埋め尽くされている。こんな光景は見たことがない。
 
「……これ全部が古書ですか?」

 店主さんは首を縦に振る。
 僕は驚きを隠せなかった。
 なにしろ、ここまでの年代物を取り扱っているお店なんて、今までに一度も見かけたことが無いからだ。これは掘り出し物である。

 僕は早速、手頃なものを手に取ってみた。
 残念なことに文字は読めなかった。
 
「ははは。読めないだろう?」
 
「はい……」
 
「古代文字だからね。私達には読むことができない」

 そうか。やはりそうなんだ。どうりで……。古代文字の解明はあまり進んでいない。解読に成功した事例はまだ数少ない。
 僕は手に持っていた本を元の位置に戻した。

 その時だった―――――

 
「おや?」
 
「どうしました?」
 
「いいや……この本は君を気に入ったようだ」
 
「はい?」
 
 店主さんは何冊かの古書をカウンターの上に置いた。そして、そのうちのひとつを取って僕に差し出した。
 
「読めるかい?」
 
「いえ……全く」
 
「ふむ……そうか。なら、これはどうかな?」

 次に手渡されたのは黒い革張りの薄い本だ。先程まで見ていたものに比べるとかなり新しいように見える。恐らくだが、これも古代書の一種なんだろうと思う。新しく見えるけど。ただ古代文明については文字同様に謎が多い。
 一説には、魔法自体がそもそも違うのではないかとも言われている。
 まぁ、そんなことは今は置いておくとして。差し出された本の表紙には何も書かれていなかった。真っ黒な表紙だけがそこにはあった。裏返してみてもそれは同じことだった。
 パラパラとめくってみるが何も書いていない。
 中身は全て白紙であるようだ。
 なんだこれ?と思ってると店主さんから声がかかった。

「それ、実はね。魔導具なんだよ」

「え!?これがですか?」

「あぁ。それも持ち主を選ぶ。君はこの気難しい本に気に入られたようだ」

 ますます訳がわからなくなってきたぞ。
 でも店主さんの言うことだし信じてみよう。
 結局、僕はその本を選んだ。

「この本は君の手助けになると思うよ」

 店主さんの謎の言葉と共に受け取った黒い本を持って店を後にした。


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