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~第三章~
52.家族関係4
しおりを挟む兄上は父上に似た容貌だけど、中身は母上にそっくりだ。
これは恐らく父上も気付いていないんじゃないかな?
僕と父上との会話を聞いて『仲の良い親子』と本気で思っていた節がある。
どう聞けばそんな考えになるのかは不明だったけどね。
なので、僕と兄の兄弟関係は年々ギスギスしたものになっていった。
反抗期に入った兄は特に酷かった。
その頃、僕は王太子の側近として慣れない公務で夜遅くまで仕事をしていたし、それは父も同じ。そうなると家に居る母が兄の相手をする事になる。それはそれで問題があり、兄はますます荒れていった。
兄は普通の家族を望んでいたんだろう。
侯爵家は高位貴族の中では『まとも』な部類だと思う。
けど、兄は一般市民の『普通』を求めていた。
それは理解出来る。
でも、侯爵家の子息である以上、その望みは叶わない。
兄はその事実を受け入れる事は出来なかった。
貴族のお手本のような両親には兄のような反抗期は存在しなかった。
父は貴族であり魔術師だ。合理的な性格もさることながら、詰め込み式の教育方針と実地訓練重視の教育方法により、反抗している時間なんてない。
父の事だから無駄な時間を使っている暇があるなら呪文の一つでも覚えた方が効率的だと思ったに違いない。
それは母にも当てはまる。
気難しい性格ではあるが、母上は実に素直で可愛らしい。
親や教師が「これが淑女のあるべき姿」と言えば、疑問を持たずに受け入れる。
兄には、そのどちらも備わっていなかった。だから反発したんだ。
それに輪をかけて酷くなった一件が、婚約者の存在だ。
親が勝手に決めた婚約とは言え、いずれ結婚する事に変わりはない。
侯爵家と繋がりを持ちたいが為に寄ってくる令嬢が後を絶たない。中には侯爵の肩書に惹かれて近づく者もいた。
兄はそういうのを毛嫌いしていた。
婚約者を大事にするのは当然の事なのに、兄はそれを当たり前に出来ない。いや、興味を示さなかったと表現すべきだろうか。
兄の婚約者もまた、そんな兄の態度を察して必要最低限しか接触しようとしなかった。
結果、兄と婚約者の間には微妙な空気が流れ続けていた。
今回の件でもしかすると婚約は解消になるかもしれないな。
僕はそう思いながらも兄の事を考えるのを止めた。
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