偽物の侯爵子息は平民落ちのうえに国外追放を言い渡されたので自由に生きる。え?帰ってきてくれ?それは無理というもの

つくも茄子

文字の大きさ
90 / 94
~第四章~

89.サバスside ~調査1~

しおりを挟む
「ねぇ、サバス。あの日記さ、やっぱりおかしいよね?」

 寮に着いてもなおエヴァンの興奮は冷めないらしい。
 いや、むしろ高まっているといったほうが正しいだろう。

「この前死んだ四人と無関係ってわけじゃなさそうだよね。絶対に何か関係してるよ。そう思うでしょう?」

「そうだな。だが判断材料が足りない。もう少し情報があれば判断できるんだが」

「そうだけどさぁ」

 エヴァンは不満そうだ。
 納得していないんだろう。

「ねぇ」

「駄目だ」

「まだ何も言ってないよ!!」

「どうせ『日記の書かれていたことが本当かどうか確かめたい』とか言うんだろう」

「……ううっ」

 エヴァンが何を言いたいかは予想がついた。
 というよりも日記を持ち出してから興奮しっぱなしなのだ。
 俺も賛同した手前偉そうなことは言えないが。
 何を調べたいのか、予想は簡単につく。

「でもさ!二十年前に何があったかを調べるのは重要な手掛かりになると思うよ。あの四人が死んだ理由もそれ関係かもしれないし」

「それはそうだが」

「なら確かめようよ!」

 エヴァンはどうしても真相を知りたいらしい。
 その気持ちは分からなくもないが……。
 同じ家名。
 オレフ王国か。
 日記では二十年前は加害者側だった。今回は被害者側だ。
 もし仮に二十年前に何かしらの事件があったとして、それが今回の事件にどう関わっているんだ? もしかしたら関係ないかもしれない。
 しかし、もし関係があったとしたら……。

「……わかった」

「やったーー!!」

 俺が了承した途端、エヴァンは飛び跳ねた。
 そんなにも嬉しいのか? 
 好奇心が刺激されたのかもしれない。
 そういうことはよくあるので慣れた。本当は慣れたくないが。

「ねぇ、何から調べようか?」

「……そうだな。とりあえず、二十年前に学校で何があったかを調べた方が無難だろう。昔の新聞記事に載っている可能性は高い。まずはそこからだな」

「うん、わかった」










 片っ端から古い新聞記事を漁った。
 二十年前、学校で起こったであろう何か。
 事件か、事故か、自殺か。

 その記事は簡単に見つかった。

「あったよ!」

「ああ」

 エヴァンが見つけた記事は『旧校舎から転落した少年』という見出しだった。

「これってさ、あの日記と同じだよね?」

「そうだな」

 内容はこうだ。
 二十年前、魔術師育成学校で転落事故があった。
 当時、留学生だった少年が誤って転落してしまったとある。

 転落した時に頭を強く打ったことが原因で死亡してしまった。
 当時の新聞には転落事故の詳細と留学生の名前も記載されていた。

「この子、日記に書かれてた子と同じだ」

 留学生の正体はオレフ王国の王子だった。
 転落した少年の名は『リーハイム』。

 一国の王子。
 しかも王太子だ。

「ねぇ、これってさ……」

「……ああ」

 旧校舎から転落した少年も『リーハイム』という名前だった。
 記事の亡くなったリーハイム王太子は身分を隠して留学していたらしく、彼の身分を知る者は学校内でも極限られたメンバーだけだった。
 これは偶然なのか?
 事故死となっているが本当か?
 リーハイム王太子の転落事故は事件なんじゃないのか?
 日記に書かれていた通り殺されていたのでは?

「ねえ、これってさ」

「ああ、わかってる。ただ証拠がない。日記に書かれていただけではな」

「調べてみる価値はあるよね?」

「危険だ」

「でも、調べてみたい」

 エヴァンは決意を固めた顔をしていた。
 ……そんな顔をされたら断りづらい。
 だが深入りするのはまずい。
 他国とはいえ、王族が関わっている。
 身分を偽っていたとしても王太子が死んだんだ。
 新聞にもしっかりと書かれていることを考慮しても問題になったはず。それを再び掘り起こす行為は誰も喜ばない。

「ねえ、お願いだよ」

「……はあ、わかった」

「本当?」

「ああ」

 もう何を言っても無駄だろうしな。
 俺がどれだけ反対してもエヴァンはきっと調べる。

「ありがとう!サバス!」

「ただし危険だと思ったらすぐに止めるからな」

「うん!」

 一応、釘は刺しておく。
 無駄かもしれないが。
 こうでもしないとこいつは止まらない。
 本当に危ない橋を渡るのだけは勘弁願いたい。


  

しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強

こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」  騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。  この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。  ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。  これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。  だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。  僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。 「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」 「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」  そうして追放された僕であったが――  自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。  その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。    一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。 「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」  これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...