居場所を奪われたので逆襲させていただきます~黒幕令嬢の華麗なる逆転劇~

つくも茄子

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番外編

104.副団長side ~成長していく娘

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「えい!やあ!」

 かけ声と共に素振りをする娘のエンビー。
 今年二十五歳になる。
 俺は今、オルグレン辺境伯領にやっかいになっている。
 ペイシェンス様からスカウトされ、オルグレン辺境伯家の騎士団長をしている。
 あれから数年が経つ。
 妻との離婚が決まり、王家の騎士団を辞めた。

「えい!」

 娘の素振り姿を見るにつけ、こっちに来たのは正解だったとつくづく思う。
 ブレーメン診療所の先生達の勧めで、俺は娘を育てることを選択した。
 今の娘には、プライド伯爵家で過ごした記憶は無い。母親の記憶もだ。
 何もかも真っ白の状態の娘は幼い頃のように素直だった。
 暫くは、ブレーメン診療所の先生達の助けを借りての子育て。とはいえ、俺がやれることはあまりなかった。育て直す、といってもエンビーは赤ん坊ではない。一応、一般的なことは知ってる。精神が幼子のようになってしまっただけのことで、俺が出来ることは、はっきりいってあまりなかった。

『娘さんの好きなことを思いっきりさせてやれば良いんですよ』

 そう、先生に言われた。
 最初は、女の子らしくママゴトが良いのか?とも思ったがエンビーが真っ先に興味を示したのは意外なことに野球やサッカーだった。
 サッカーボールを蹴り、シュートを決めるとエンビーは満面の笑みを見せた。
 他の子供達と一緒に走り回ることも好んだ。
 服も顔も泥だらけになるほど、エンビーは遊んだ。
 目をキラキラと輝かせて。

 ああ、今まで娘には無理をさせていたんだと実感した。
 女の子の遊びは嫌いではないが、本当にしたかったのはこういった「男の子が好む遊び」だったんだろう。

 俺は本当にダメな父親だと改めて思った。
 娘のことを何も知らなかったのだと。

『これから知っていけば良いんですよ、お父さん』

『今から、父親になっていけば良いじゃないですか、お父さん』

『大変でしょうが、頑張っていきましょう。お父さん』

 先生達の言葉は励まされているのか、発破をかけられているのか分からなかった。
 たぶんだが、俺が父親の自覚を持つように「お父さん」呼びをしてくれているんだろう。
 先生達からすると俺は「父親一年生」らしい。
 父親一年生、か。
 ふ、と笑いが漏れる。

「よし!今日はここまで!」

「「「「はい!」」」」

 教官の言葉でエンビー達は素振りをやめる。
 仲間達と談笑しながら、エンビーは俺の元へとやってくる。

「お父さん、今日の素振りはどうでしたか?」

「ん?ああ、良かったぞ」

「やった!お父さんに褒められた!」

 エンビーが嬉しそうに笑う。
 その笑顔を見て、俺は思うのだ。
 ああ、本当にここに来てよかった、と。
 オルグレン辺境伯家は実力主義だ。
 男尊女卑的傾向はあまりない。
 ここが王都ならば、女性が騎士になることなど許されなかっただろう。
 絶対に無理というわけではないが、それでも立場的に良いとは言えない。

「そういえば、来年、領主様がペイシェンス様に爵位を譲られるかも知れないって噂になってるの。本当?」

「あ?ああ、本当だ」

 エンビーがそんなことを言ってきた。
 噂は前々からあったからエンビーが知っていてもおかしくない。騎士仲間の間でも噂話として出回っているだろうからな。

「そっか、そうなんだ」

「なんだ?嬉しくないのか?」

 俺はてっきり喜ぶと思っていたのだが、エンビーの反応はイマイチだった。

「う~~ん。ペイシェンス様は良い人だし、新しい領主様でも別にいいんだけど」

「けど、なんだ?」

「私としては、ヴァルヴァラ様が領主になって欲しかったな」

 エンビーの口から意外な名前が飛び出した。
 いや、まあ、意外でもないが。

「ヴァルヴァラお嬢様か?」

「うん。だって、元々オルグレン家はヴァルヴァラ様のものでしょう?今の領主様のご息女だし、ヴァルヴァラ様が継いだって良くない?」

「はは」

 俺は思わず笑ってしまった。
 エンビーがヴァルヴァラ様に憧れていたのは知っていたが、まさか領主になって欲しいと思っていたとはな。

「あ!お父さん、笑った!ひどいよ!」

「悪い悪い。そんなにヴァルヴァラ様が良いのか?」

「うん!だってヴァルヴァラ様メチャクチャ格好いいもん!」

 目をキラキラさせてエンビーが言う。
 エンビーの「格好いい」発言は容姿とかのことじゃない。
 見た目だけいうなら、ヴァルヴァラ様は「可愛い系」だ。
 だが、その見た目に反して物凄く強い。怪力でもある。戦うスタイルは剣ではなく斧だ。大きな斧を振り回し、敵を瞬殺する姿は、恐怖以外の何物でもない。

「この前なんて大きなイノシシを退治してたし、熊も一人でなぎ倒してたよ!」

 興奮気味のエンビーには悪いが、その退治した害獣の数を思い出してほしい。
 見たのなら知っているだろう。ヴァルヴァラ様一人に対して獣達は数十匹はいたはずだ。それをたった一人で倒した。

「イノシシも熊も美味しかったね」

「そうだな」

 ヴァルヴァラ様は害獣駆除を狩りと勘違いしている節がある。確かに食べられるが。

「それに、領地に無断で入って来る盗賊だって一人で退治したんだよ!凄いよね!」

「そうだな」

 それも、まあ、事実だ。
 ただ、その盗賊の中に他国のスパイが紛れ込んでいやがったが。

『オルグレン辺境伯家伝統の拷問を試させてあげるわ』

 などと、ニコニコしながらスパイの一人を縛り上げているのを見た時は流石の俺も引いた。
 拷問の腕も確かだ。
 どうやったらあんなに綺麗に爪が剥げるんだ?
 歯だってそうだ。
 どうやって抜いたんだ?
 力任せに抜いたようには見えなかった。
 極めつけが――

『首を斬られてお国に戻るか、それとも、体を出荷させるか、どちらが良いかしら?』

 二択の選択肢は実質一択だ。
 用途は違うがどちらを選んでも「死」が待っている。
「出荷」と聞けば通常、闇市で奴隷として売られるか、娼館に売られるかを想像する。
 普通の感覚を持つ人間なら誰だってそう思う。
 現実に、多くのスパイはそう考えていたはずだ。
 だからこそ、情報を吐いたんだろう。
 死ぬよりマシ。
 売られるにしても「そこでの情報を手土産に持って帰ればいい」とでも考えていたのだろうな。
 まあ、結果はご覧の通り。

 ヴァルヴァラ様は思考回路も他者と違っていた。
 相手が悪かったとしか言いようがない。

『素直に吐いてくれて助かったわ。彼らも自分達の一部が家族に使われるかもしれない未来を喜んでいるかもね』

 出荷は、出荷でも体を切り刻んでの出荷だ。
 臓器、皮膚、髪の毛。

『人も所詮は動物。同じように加工できるし。場合によっては人助けもできるわ』

 笑顔で言い切るヴァルヴァラ様。
 出荷のあれこれは流石に聞かなかったし、見てもいない。
 通常では考えられない方法なのは確かだ。
 人間、知らない方が幸せなことってある。
 同時に人は見た目通りじゃない、ってこともな。


「ああ~~、女領主を国が認めればいいのに~~」

 エンビーは心底残念そうに言う。
 俺は娘の言葉にただ頷くしかなかった。
 肯定はできねぇ。
 どこかの国では「言葉には力がある」と言うしな。


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