悪役令嬢の私は死にました

つくも茄子

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五十年前の「とある事件」

70.聖女候補1

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 カタリナとの出会いは五十年前にさかのぼる。

 当時、小国同士の小競り合いが頻発していた。
 それは国境付近の小競り合いから、やがては国を跨いだ戦争へと発展する。
 その戦火の炎は二国の小国のみならず、近隣諸国にも飛び火した。

 戦争の仲介役としてイリスを遣わした。
 数少ない大聖女の一人で王女のイリスが、モンティーヌ聖教国の代表となれば、そうそう無闇に手出しはできない。
 そう踏んでのことだった。
 実際、それは成功した。
 二国間の戦争は速やかに終結する。
 これは私の読み通りだったのだけれど……。


「まさか聖女候補が虐げられていたなんて……。それも大聖女になれる逸材を……」

「単なる妬み嫉みの類じゃないことだけは確かだよ」

 ゴールド枢機卿は苦い表情で言う。
 私も頷いた。
 戦争が終結したのは喜ばしい事だ。けれど、戦争が長引いたことによって、周辺国にも少なからず被害が出たのも事実だ。
 その結果を私たちは重く受け止めていた。

「聖女候補の名前はカタリナ・グランテ。年齢は十八歳。旧姓はレニンストン。実家はレニンストン伯爵家で、一年前にグランテ辺境伯に嫁いでいる」

「グランテ辺境伯は確か、国境での戦闘に関わっていたわね」

「うん。グランテ辺境伯領は最前線で、カタリナ嬢はそこでの治癒者として派遣されていたと記録にあるよ」

「派遣?辺境伯夫人が?」

「そう。しかもタダ働き。僕の一番嫌いな言葉だ」

 ゴールド枢機卿は、吐き捨てるように言った。
 分かる。
 しかも辺境伯夫人だから無償で働かされたらしい……。
 あり得ない話しがココではまかり通っていたというのだから、開いた口が塞がらない。

「実家の伯爵家での扱いも酷いものだ。嫡出の彼女を使用人扱いなんだから」

「この報告書ではカタリナ嬢が跡取りでは?」

「そう。伯爵家の正当な後継者だよ。今、レニンストン伯爵を名乗っている父親は『伯爵代理』に過ぎない。いわゆる入婿だからね。カタリナ嬢の母親は彼女が十三歳の時に病死している。妻が死んで直ぐに再婚しているよ。連れ子同士の再婚ってことになっているけど怪しいよね。相手の女は結婚歴ないんだからさ。囲っていた愛人と再婚したってとこだろう。連れ子の女の子もその女との間に出来た子供とみて間違いない」

「……お家乗っ取りね」

「そういうこと。酷い話しだ」

 淡々と語っているけれど、ゴールド枢機卿の怒りが滲み出ている。
 私も同じ。
 怒ってる。
 だってこれだけじゃないんだもの。
 よくもまぁここまで酷くできるものだと、怒りを通り越して呆れたわ。


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