【改題】トゥラーン大陸年代記 ~自由の歌~

東条崇央

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第一部 第一章 エルフに育てられた少年

閑話2 もう一つの戦い

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 ガラシング伍長を送り出し、残った面々のうちアルゴラスとエルロンは哨戒の為に周囲の森へと入っていた。
 森へ入って暫くいったところで二人は小妖鬼族ゴブリンの一団を発見する。
 「エルロン、止まれ。まずいところへでちまったようだ」
 いち早く気づいたアルゴラスがエルロンを止める。
 「ひー、ふー、みー…数は十体ってところですかね」
 エルロンが素早く敵の数を数える。
 
 「やつらは素早く集団戦が得意だ。二人では不利だな」
 「そうですね。戻って警戒するように伝えた方がいいですね」
  二人は人並みに弓が扱えるが前衛型である。集団に集られるのは避けたいところだ。
 
 「まずい!気づかれたようだ」
 風向きがかわったせいか小妖鬼族たちが二人に気づいてしまった。
 「俺が弓で牽制しながら下がるから、お前は魔法を打ち上げて馬車に知らせるんだ」
 「了解です」
 森の中では障害物も多く、素早い身ごなしの小妖鬼族はなかなかにやっかいな相手である。
 「派手なの行きますよ」
 アルゴラスが弓で牽制していると、エルロンの声がして上空で大音響が響き渡った。
 弓で魔法を打ち上げて風を爆発させたらしい。
 「よし。あとは二人で牽制しながら下がるぞ」
 「了解っす。あれだけ派手な音を立てれば馬車の連中も気づくでしょ」
 「あぁ、そうだな」
 二人は弓を放ちながら馬車のある方へと下がっていった。

◆◆◆◆◆

 一方、馬車の方ではイライラとした感情の整理がまだつかないネラドリエが馬車にもたれかかっており、遠慮したヴォロドールが少し離れたところで所在なさげにしている。
 ヴォロドールは何かいいたげだが話しかけるきっかけが見つけられない様子だ。

 さぁ~っと強い風が吹いて木立を揺らし木漏れ日がキラキラと光る。

 意を決したヴォロドールがネラドリエに話しかけようと動いた時、森の上空で大音響が響き渡った。
 二人ははっとして身構えると状況を把握しようと務める。
 どうやら森で異常事態に遭遇した二人が合図をあげてきたようだと理解すると迎撃準備を整え始めた。
 馬を馬車の影に隠すと同時に馬車から出ないように伝え、二人は馬車の前後に分かれる。そうして暫くすると、森の中からアルゴラスとエルロンが戻ってくる様子がみえてきた。
 何らかの敵と交戦しているようだ。

 「どうやら小妖鬼族の集団と遭遇戦になったようだ。我々も援護するぞ」
 目をこらしたヴォロドールがネラドリエに伝える。
 ヴォロドールが弓で、ネラドリエが精霊魔法で迎撃に参戦する。
 二人に合流したアルゴラスとエルロンが森と街道の境付近で立ち止まると長剣と盾を構え反撃の体勢へと切り替えていった。
 中央に前衛が二名、左右から後衛の援護という形だ。
 まだ八体ほどの小妖鬼族が木陰からこちらを狙っている。
 木が邪魔をして後衛の援護射撃が思うように効果があがっていないのだ。

 「くそっ!ちょこまかとしやがって」
 エルロンが長剣を振りつつも愚痴をこぼす。

 一進一退の膠着状態が続いているとき馬車の後部ドアが開きカレンが降りてきた。



 「馬車から降りないように言ったはずよ」
 ネラドリエが少々強い口調で苦情を言う。
 「ですが…。わたしにも手伝わせてください。弟を守りたいのです」
 「…そう。邪魔だけはしないでちょうだい」
 戦闘中ということもあり、ネラドリエの応えは少々冷たい。
 カレンは気にせずに弓を構えると狙いを定めて射撃体勢へと入っていった。

 馬車の中ではアネル、エリーネルが抱き合い震えている。
 (精霊様、どうかおねえちゃんを守ってください)
 リンも怖かったがカレンが戦いに出たことの方が心配で必死に祈っている。
 目をつぶり祈るリンの周りに精霊が集まり明るくなっていった。

 その明かりに気づいたエリーが不思議そうにそれを見つめている。
 それに気を取られ襲撃にあっている事をすっかり忘れてしまっているようだ。
 (精霊様、どうかおねえちゃんを守ってください)
 そのことに気づかずにリンは祈るのに夢中だ。
 ほどなく、リンに群がっていた精霊達がカレンに向かっていった。

 カレンは敵の動きに集中しているためきづいていないが、カレンの周りに多数の精霊が集まり始めた。
 (身体が軽い。力があふれてくる…)
 いつもよりも切れのよい動きと正確で力のある弓勢で射撃をしていく。
 
 (何この子!すごい射撃の腕してるじゃない)
 隣で見ていたネラドリアは驚愕していた。
 先程、冷たくあしらったことを恥ずかしくも思っていた。
 ただ素直になれないところがあって褒めるのが気恥ずかしいのだ。

 そうこうしているうちに、徐々に小妖鬼族の数が減り足並みが乱れていく。
 そうなるとそこは獣と同じで一気に崩れて逃げ去っていった。
 四人とカレンは集まり一息入れると死体の処理と矢の回収の為に森に入っていった。

 「あんたのお陰でかなり楽に戦えたよ。助力に感謝する」
 片付けをしながらアルゴラスがカレンに話しかける。
 「いえ。今日はなんだかものすごく身体が軽く力が溢れてきてて」

 「そういえば、あなたの周りにすごい数の精霊が集まってたわね」
 とは近くで見ていたネラドリエの言だ。
 「そうだったんですか?わたし集中していて気づきませんでした」
 「カレナリエルさん、ほんと良い腕っすよ。惚れました」
 「ありがとうございます」
 カレンはエルロンの言葉を軽く受け流す。 

 (あの精霊の量は異常だったわ。なんだったのかしら)
 ネラドリエは一人疑問を抱えたままその答えに行きつけず考え込んでいた。

 「わたし火の中位精霊と契約してるので役に立てると思います」
 小妖鬼族の遺体は街道脇に積み上げて焼くという話になったときカレンが提案する。
 「それは助かる。ぜひ力を貸してもらいたい」
 カレンの言葉をアルゴラスが受ける。
 積み上げた遺体にカレンが火の精霊を呼び出し燃やし尽くす。

 普通に火を掛けるよりずっと早く処理ができたところで
 「隊長達遅いな。何かあったのかもしれん」
 「そうっすね。あれから半刻ほどは経ってますよね」
 「よし。俺とネラドリエで様子を見に行く。お前たちは出発の準備を整えていてくれ」
 「了解っす」
 「何もなければよいのだが…。後のことは頼んだぞ」
 そうして様子を見に行く二人が出発していくのを見送る。

 (おねえちゃん、無事でよかった…)
 今更になってリンは震えがきていた。

 馬車の後方の街道脇では未だくすぶっている残り火から黒い煙が立ち上って風にながされていくいのだった。


ーーー
これで第一章が終了となります。
次回からは第二章のはじまりです。
今後ともよろしくお願いいたします

今回の登場人物のまとめ
・リンランディア リン フィンゴネル家の養子、本作の主人公
・カレナリエル カレン フィンゴネル家の長女、猟師
ーーー
・アネル タリオンで宿屋を営む
・エリーネル アネルの娘
ーーー
・ガラシング伍長 ニテアス警備隊の伍長(5人長)、護衛隊の隊長
・アルゴラス ニテアス警備隊の隊員、隊員では最年長の兄貴株 
・ヴォロドール ニテアス警備隊の隊員、エルロンと同郷の先輩
・エルロン ニテアス警備隊の隊員、見た目は良いが少し軽薄
・ネラドリエ ニテアス警備隊の隊員、エルロンと同期

次回、第二章 旅立ち 第一話 手紙
2023/3/4 18:00 投稿予定
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