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第一章―イニティウム皇国 『皇国の悪女』
17-2.判決
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(一体何を考えているの)
予想していた自身の罪が皇太子の暗殺未遂から姉の暗殺未遂に変わりはしたが、告げられた処遇は結局同じ。
しかしクリスティーナはまだ何かあるのではと勘繰り、フェリクスの出方を窺った。
そして彼女が予想した通り、彼の発言はそこで留まりはしなかった。
「……と、言いたいところではあるが。被害者であるアリシアによる減刑の要求があったこと、レディング家は古今皇族と深い関わりに在り幾度となく皇国の情勢に貢献してきたことを考慮し、貴女に五年の執行猶予を設ける」
これまたクリスティーナにとって予想外の、それも喜ばしい展開であったが彼女はそれを表に出すことがない様フェリクスの言葉に静々と耳を傾けているふりをする。
フィリクスは続けて詳細を語る。
「貴女は明日以降の五年間、皇宮からつける監視下で生活をすること。場所はボーマン伯爵領とする」
ボーマン伯爵領はクリスティーナの母の弟――叔父にあたるボーマン伯爵の統括する領地である。
広くのどかな景色が広がる自然豊かな地域だが、その領地の殆どが山……直接的な言葉を使えば田舎である。
フィリクスはそこで五年程人目を避け、身を潜めて生きろというのだろう。
社交界デビューを果たしたばかりのクリスティーナにとって五年という月日は個人にとっても公爵家にとっても貴重なものだ。
特にクリスティーナはその性格と悪名のおかげと本人が拒絶していたこともあり上級貴族の令嬢にしては珍しく十六になるまで婚約者がいなかった。
仮に今から田舎へ追いやられた場合、クリスティーナが再び社交界へ出ることが許されるのは二十一になる時となる。
いくら出自が良いとはいえ不名誉な前科を持った二十代の令嬢に貰い手などいるかどうかも怪しい。
故にボーマン伯爵領で貴重な十代を終えろという罰は普通の貴族令嬢であれば自身の社交界や今後の人生そのものの価値を落とすにも、家の地位に傷をつけるにも十分重いものである。
しかし死刑に比べれば十分すぎる減刑。
更にクリスティーナからしてみれば願ってもいないような展開であった。
クリスティーナは元より出なくても良いと言われていれば社交界に出ることもなかったような内向的な性格だ。
煌びやかなパーティーで着飾り、一生を添い遂げる男性を探している暇があればその時間を全て書庫で過ごし、本を読み漁りたい。
クリスティーナはそんな一風変わった貴族令嬢であった。故に内心は今すぐにでも帰宅して家出の支度を整えたいクリスティーナであったが、何とかそれを堪えつつフェリクスに手綱を握られた話が終わるのを大人しく待った。
「……以上だ。反論はあるか、クリスティーナ・レディング」
「いいえ」
返答は決まっている。
彼が何を思いこんなにも早く事件の結論を出し、何を思いこのような減刑を決定したのかをクリスティーナは知らないが、彼の謎の温情に今は感謝するばかりだ。
自分の命が守られた挙句望んだ生活を送ることが出来るのであればそれ以上求めることもないし、どの道この場で許された弁明は形だけのものだ。不必要に場を乱すこともない。
前科持ちとなることは今後の障害となり得るだろうが、極刑を下されるデメリットや聖女であることを明かすデメリットに比べたらそんなものはないにも等しい。
「……寛大な措置、感謝致します。殿下」
柔い微笑みを浮かべて頭を下げるクリスティーナ。
その様に周囲はざわめき、批判の声は本人の耳にも届く。
しかしその騒ぎに中心に立つ本人の心境は実に暢気なもので、またろくでもない悪評が広まりそうだなとぼんやり思っているだけである。
姉の暗殺を企てた妹、皇太子直々に判決を下されるも笑顔で受け入れた……今度の社交界で広まる噂は大方こんなものだろう。
予想していた自身の罪が皇太子の暗殺未遂から姉の暗殺未遂に変わりはしたが、告げられた処遇は結局同じ。
しかしクリスティーナはまだ何かあるのではと勘繰り、フェリクスの出方を窺った。
そして彼女が予想した通り、彼の発言はそこで留まりはしなかった。
「……と、言いたいところではあるが。被害者であるアリシアによる減刑の要求があったこと、レディング家は古今皇族と深い関わりに在り幾度となく皇国の情勢に貢献してきたことを考慮し、貴女に五年の執行猶予を設ける」
これまたクリスティーナにとって予想外の、それも喜ばしい展開であったが彼女はそれを表に出すことがない様フェリクスの言葉に静々と耳を傾けているふりをする。
フィリクスは続けて詳細を語る。
「貴女は明日以降の五年間、皇宮からつける監視下で生活をすること。場所はボーマン伯爵領とする」
ボーマン伯爵領はクリスティーナの母の弟――叔父にあたるボーマン伯爵の統括する領地である。
広くのどかな景色が広がる自然豊かな地域だが、その領地の殆どが山……直接的な言葉を使えば田舎である。
フィリクスはそこで五年程人目を避け、身を潜めて生きろというのだろう。
社交界デビューを果たしたばかりのクリスティーナにとって五年という月日は個人にとっても公爵家にとっても貴重なものだ。
特にクリスティーナはその性格と悪名のおかげと本人が拒絶していたこともあり上級貴族の令嬢にしては珍しく十六になるまで婚約者がいなかった。
仮に今から田舎へ追いやられた場合、クリスティーナが再び社交界へ出ることが許されるのは二十一になる時となる。
いくら出自が良いとはいえ不名誉な前科を持った二十代の令嬢に貰い手などいるかどうかも怪しい。
故にボーマン伯爵領で貴重な十代を終えろという罰は普通の貴族令嬢であれば自身の社交界や今後の人生そのものの価値を落とすにも、家の地位に傷をつけるにも十分重いものである。
しかし死刑に比べれば十分すぎる減刑。
更にクリスティーナからしてみれば願ってもいないような展開であった。
クリスティーナは元より出なくても良いと言われていれば社交界に出ることもなかったような内向的な性格だ。
煌びやかなパーティーで着飾り、一生を添い遂げる男性を探している暇があればその時間を全て書庫で過ごし、本を読み漁りたい。
クリスティーナはそんな一風変わった貴族令嬢であった。故に内心は今すぐにでも帰宅して家出の支度を整えたいクリスティーナであったが、何とかそれを堪えつつフェリクスに手綱を握られた話が終わるのを大人しく待った。
「……以上だ。反論はあるか、クリスティーナ・レディング」
「いいえ」
返答は決まっている。
彼が何を思いこんなにも早く事件の結論を出し、何を思いこのような減刑を決定したのかをクリスティーナは知らないが、彼の謎の温情に今は感謝するばかりだ。
自分の命が守られた挙句望んだ生活を送ることが出来るのであればそれ以上求めることもないし、どの道この場で許された弁明は形だけのものだ。不必要に場を乱すこともない。
前科持ちとなることは今後の障害となり得るだろうが、極刑を下されるデメリットや聖女であることを明かすデメリットに比べたらそんなものはないにも等しい。
「……寛大な措置、感謝致します。殿下」
柔い微笑みを浮かべて頭を下げるクリスティーナ。
その様に周囲はざわめき、批判の声は本人の耳にも届く。
しかしその騒ぎに中心に立つ本人の心境は実に暢気なもので、またろくでもない悪評が広まりそうだなとぼんやり思っているだけである。
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