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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
44-2.騎士の覚悟と迷い子捜索
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「護衛がいるせいで望んだ行動がとれないなら護衛がいる意味ないよなーってのがまあ、オレの考えというか」
腰に携えた剣を鞘の上から撫でながら、エリアスは目を伏せる。
「剣を握るってことは何かを傷つけるってことです。守るってのは命を懸けるってことです。そしてこの二つは剣を取った時に覚悟を決めてます」
騎士としての己の在り方を語る彼は一つ息を吐く。
そして真剣な顔つきから少しだけ頬を緩めて肩を竦めた。
「流石に無鉄砲に溶岩へ突っ込もうとする、みたいな無謀な動きをされたら止めますけど。多少仕事が増える分には想定内です。……というか」
エリアスは親指を立て、自身の背中を示す。
「……オレって本当ならとっくに死んでますからね」
以前負った致命傷を思い出してか少し苦く笑うが、彼はすぐに胸を張ってクリスティーナを見据えた。
「生き返る為に必要なのが無茶苦茶な仕事を熟すことだって言うなら、喜んで務めを果たします。そういう事なので、オレのこともあんま気にしなくて大丈夫です」
強がりや気遣いではない。その場しのぎの嘘でもない。
真っ直ぐ主人を見る目がそう伝えていた。
「主人を守るのが仕事ってのは、主人が何を選ぼうが守るってことなので」
「……そう」
緊張が吐いた息と共に抜けていく。
静かに見守っていた従者へ一瞬だけ視線を向ければ、満足そうな微笑みを返される。
――らしくない。
確かに彼の言う通りだった。長い間、自分の思うままに生きてきたというのに、今更何を躊躇っていたのか。
自分は聖女などと言う器ではない。己の望みを呑み込んでまで他者を重んじるなど、本当にらしくない。
我を貫き、事を成す。社交界で悪女と罵られたことすらある人間だ。
そんな自分が聖女になってしまったからと不慣れにも他者を気遣ったとて、そこから生まれるのは聖女の皮を被った歪な何かだ。聖女になるなど到底不可能な話。
自身の手が届く範囲にいる、自分にとってメリットのある存在だけを手中に収める。それがクリスティーナの本来の行動指針であり、クリスティーナの望みだ。
自分は聖女にはなれない。
けれどそんな自分についていくと彼らが言うのであれば、その言葉に責任を持って貰うまでのことだ。
「支度をして頂戴。出掛けるわ」
短い返事が二つ返ってきた。
***
不気味なほど静まり返った森。
足を踏み入れたノアは辺りを見回しながらシモンの姿を探していた。
「おーい、シモン。いたら返事をしてくれ」
視線を巡らせてはいるものの、濃霧の中ではあまり意味を成さない。
視覚よりも聴覚に頼らなければならない状況はこの森にいる誰もが同じだろう。
つまり近くに魔物がいた場合、声掛けというのは自分の居場所を知らせて襲ってくださいと言っているようなものに変わる。
街からは徒歩十五分程度の圏内。まだまだ森の浅い場所にいると言えるだろう。
とはいえ、この霧が魔物に与える影響はどの程度のものかがわからない。魔物に遭遇する可能性がないとも言えない。
冷や汗が滲むのを感じながらも、ノアは周囲の音へ耳を傾ける。
(近くに何かいる気配はしないな)
聴覚に集中するように目を閉ざしていた彼の頭にふと、ルイーズの姿が過った。
次に思い出すのは彼女に掛けた自分の言葉。
それらを振り払うように首を横に振り、目を開ける。
しかし脳裏には未だその光景が張り付いている。
「あーあ。我ながらやんなっちゃうなぁ」
呟きと共に自嘲する。
彼がルイーズの望みに気付き、それを引き受けるに至ったのは純粋な親切心やシモンを心から心配する気持ちのみによるものではない。
その気持ちも嘘ではないが、彼もまた、自身の胸の奥に打算的な考えが潜んでいることを理解していた。
腰に携えた剣を鞘の上から撫でながら、エリアスは目を伏せる。
「剣を握るってことは何かを傷つけるってことです。守るってのは命を懸けるってことです。そしてこの二つは剣を取った時に覚悟を決めてます」
騎士としての己の在り方を語る彼は一つ息を吐く。
そして真剣な顔つきから少しだけ頬を緩めて肩を竦めた。
「流石に無鉄砲に溶岩へ突っ込もうとする、みたいな無謀な動きをされたら止めますけど。多少仕事が増える分には想定内です。……というか」
エリアスは親指を立て、自身の背中を示す。
「……オレって本当ならとっくに死んでますからね」
以前負った致命傷を思い出してか少し苦く笑うが、彼はすぐに胸を張ってクリスティーナを見据えた。
「生き返る為に必要なのが無茶苦茶な仕事を熟すことだって言うなら、喜んで務めを果たします。そういう事なので、オレのこともあんま気にしなくて大丈夫です」
強がりや気遣いではない。その場しのぎの嘘でもない。
真っ直ぐ主人を見る目がそう伝えていた。
「主人を守るのが仕事ってのは、主人が何を選ぼうが守るってことなので」
「……そう」
緊張が吐いた息と共に抜けていく。
静かに見守っていた従者へ一瞬だけ視線を向ければ、満足そうな微笑みを返される。
――らしくない。
確かに彼の言う通りだった。長い間、自分の思うままに生きてきたというのに、今更何を躊躇っていたのか。
自分は聖女などと言う器ではない。己の望みを呑み込んでまで他者を重んじるなど、本当にらしくない。
我を貫き、事を成す。社交界で悪女と罵られたことすらある人間だ。
そんな自分が聖女になってしまったからと不慣れにも他者を気遣ったとて、そこから生まれるのは聖女の皮を被った歪な何かだ。聖女になるなど到底不可能な話。
自身の手が届く範囲にいる、自分にとってメリットのある存在だけを手中に収める。それがクリスティーナの本来の行動指針であり、クリスティーナの望みだ。
自分は聖女にはなれない。
けれどそんな自分についていくと彼らが言うのであれば、その言葉に責任を持って貰うまでのことだ。
「支度をして頂戴。出掛けるわ」
短い返事が二つ返ってきた。
***
不気味なほど静まり返った森。
足を踏み入れたノアは辺りを見回しながらシモンの姿を探していた。
「おーい、シモン。いたら返事をしてくれ」
視線を巡らせてはいるものの、濃霧の中ではあまり意味を成さない。
視覚よりも聴覚に頼らなければならない状況はこの森にいる誰もが同じだろう。
つまり近くに魔物がいた場合、声掛けというのは自分の居場所を知らせて襲ってくださいと言っているようなものに変わる。
街からは徒歩十五分程度の圏内。まだまだ森の浅い場所にいると言えるだろう。
とはいえ、この霧が魔物に与える影響はどの程度のものかがわからない。魔物に遭遇する可能性がないとも言えない。
冷や汗が滲むのを感じながらも、ノアは周囲の音へ耳を傾ける。
(近くに何かいる気配はしないな)
聴覚に集中するように目を閉ざしていた彼の頭にふと、ルイーズの姿が過った。
次に思い出すのは彼女に掛けた自分の言葉。
それらを振り払うように首を横に振り、目を開ける。
しかし脳裏には未だその光景が張り付いている。
「あーあ。我ながらやんなっちゃうなぁ」
呟きと共に自嘲する。
彼がルイーズの望みに気付き、それを引き受けるに至ったのは純粋な親切心やシモンを心から心配する気持ちのみによるものではない。
その気持ちも嘘ではないが、彼もまた、自身の胸の奥に打算的な考えが潜んでいることを理解していた。
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