139 / 579
第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
44-3.騎士の覚悟と迷い子捜索
しおりを挟む
その時、視界の端で突如霧が揺らぐ。
人か、魔物か。ノアは握っていた杖をそちらへ向けたが何かが近づいてくる様子はない。
代わりに動いたのは霧自身。それは不自然に集合して何かを形成したかと思えば、二つの人影を作り上げた。
良い身なりをした男性と少年。髪の色や瞳の色といった特徴が同一であることから、親子であることは誰が見ても想像が出来る。
二人は互いに睨み合い、険悪な雰囲気を醸し出していた。
「……知ってたよ」
自身の記憶が霧に影響を与えるのならばこれだろう。そう予想していたものがそっくりそのまま現れたことに苦笑してしまう。
ノアはそれからすぐに目を離すと速足でその場を立ち去った。
「シモン、いる?」
移動した先でも声を掛けるノア。
先の幻を避けるように移動を図ったが、その足が森の深くまで向かうことは決してない。
奥深くまで突き進めば魔物の群れと遭遇する可能性がある。そうした時、自分の能力では対処に骨が折れることだろう。
彼が先へ進まないのは自身の技量を理解している為だった。
故に比較的街から近い距離を隈なく探してゆく。
魔物の気配や自身が今向いている方角に注意しながら、ノアは道を外れて茂みを歩いていく。
その時、何かが足に当たって地面を転がった。
「ん?」
ノアはその場にしゃがみ、それをへ視線を送る。
そして息を呑んだ。
……靴だ。それも子供のものが片方のみ落ちていた。
靴の状態からして、落としてからそう時間は経っていない。ノアはこれがシモンの物であるという確信、そして近くにいるのではないかという予想と望みを抱いた。
それを拾い上げてノアは立ち上がる。
「シモン! いるかい?」
より一層の注意を払いながらノアは辺りを歩き回る。
そして数分程度近くを探し回っていた時。すすり泣く声が聞こえた。
「シモン……!」
声の聞こえた方向へ。ノアは速足で突き進んだ。
声が近づく先、やがて見えたのは大きく歪な怪物だった。
古ぼけて罅の入ったポット。それが胴体だと言うように浮遊する怪物は蓋の代わりに人の首を乗せる。
半分を男性、もう半分を女性と左右を器用に分担した怪物の顔の真ん中には二つの顔を継いで剥いだ跡として、額から顎にかけて大きな縫い目が走っていた。
一瞬呆気にとられるが、ノアはすぐに冷静さを取り戻す。
あのような姿をした魔物は存在しない。ということはこれは幻覚であり、こちらへ直接的な危害を加えることもないのだ。
落ち着きを取り戻したノアはその怪物から隠れるようにして木の陰に身を潜めるシモンの姿を見つけた。
彼は膝を抱えて小さく震えながら静かに泣いている。
「シモン!」
「……っ! ノア!」
ノアは駆け寄り、シモンの頭を抱き寄せてやる。
「はぁぁ……よかったぁ」
安堵の息が漏れ、脱力する。
胸の中で泣きじゃくるシモンの頭を撫でてやりながらも、ノアの視線は例の怪物へ注がれた。
子供の認識は時に、常識と帳尻が合わないことがある。
見間違い、妄想、夢などから実在し得ない存在が本当にいたと誤認し、記憶してしまうことも少なくはない。
この怪物も、街で溢れているゴーストなどの異形も、恐らくは子供が築いた空想の産物だろう。
(……いや、にしても怖すぎでしょ)
本能的に嫌悪を抱かされるそれは幻覚だとわかっていても中々に恐ろしい。
顔を引き攣らせつつ、ノアはそれから目を逸らした。
「ほら、靴も拾っといたから。早く帰ろう」
「……ん」
落ち着いてきたらしいシモンは未だに震えているが、小さく頷いて言われた通り靴を履く。
その姿を見守りながらノアは街へ戻るまでの道順をしっかり思い起こす。
(まず右を向いて真っ直ぐ進んで道を出て……)
しかし彼の思考は近くで揺れた茂みの音によって遮られた。
ノアは弾かれたように視線を音のする方へ向ける。
草を踏みしめる音。近づく足音。
霧に紛れて姿を現したそれにノアは乾いた笑いを漏らす。
「……そっから動かないでね」
シモンを背中に庇いながら彼は杖を構える。
彼らの前には眼光を鋭く光らせた獣が二体立っていた。
人か、魔物か。ノアは握っていた杖をそちらへ向けたが何かが近づいてくる様子はない。
代わりに動いたのは霧自身。それは不自然に集合して何かを形成したかと思えば、二つの人影を作り上げた。
良い身なりをした男性と少年。髪の色や瞳の色といった特徴が同一であることから、親子であることは誰が見ても想像が出来る。
二人は互いに睨み合い、険悪な雰囲気を醸し出していた。
「……知ってたよ」
自身の記憶が霧に影響を与えるのならばこれだろう。そう予想していたものがそっくりそのまま現れたことに苦笑してしまう。
ノアはそれからすぐに目を離すと速足でその場を立ち去った。
「シモン、いる?」
移動した先でも声を掛けるノア。
先の幻を避けるように移動を図ったが、その足が森の深くまで向かうことは決してない。
奥深くまで突き進めば魔物の群れと遭遇する可能性がある。そうした時、自分の能力では対処に骨が折れることだろう。
彼が先へ進まないのは自身の技量を理解している為だった。
故に比較的街から近い距離を隈なく探してゆく。
魔物の気配や自身が今向いている方角に注意しながら、ノアは道を外れて茂みを歩いていく。
その時、何かが足に当たって地面を転がった。
「ん?」
ノアはその場にしゃがみ、それをへ視線を送る。
そして息を呑んだ。
……靴だ。それも子供のものが片方のみ落ちていた。
靴の状態からして、落としてからそう時間は経っていない。ノアはこれがシモンの物であるという確信、そして近くにいるのではないかという予想と望みを抱いた。
それを拾い上げてノアは立ち上がる。
「シモン! いるかい?」
より一層の注意を払いながらノアは辺りを歩き回る。
そして数分程度近くを探し回っていた時。すすり泣く声が聞こえた。
「シモン……!」
声の聞こえた方向へ。ノアは速足で突き進んだ。
声が近づく先、やがて見えたのは大きく歪な怪物だった。
古ぼけて罅の入ったポット。それが胴体だと言うように浮遊する怪物は蓋の代わりに人の首を乗せる。
半分を男性、もう半分を女性と左右を器用に分担した怪物の顔の真ん中には二つの顔を継いで剥いだ跡として、額から顎にかけて大きな縫い目が走っていた。
一瞬呆気にとられるが、ノアはすぐに冷静さを取り戻す。
あのような姿をした魔物は存在しない。ということはこれは幻覚であり、こちらへ直接的な危害を加えることもないのだ。
落ち着きを取り戻したノアはその怪物から隠れるようにして木の陰に身を潜めるシモンの姿を見つけた。
彼は膝を抱えて小さく震えながら静かに泣いている。
「シモン!」
「……っ! ノア!」
ノアは駆け寄り、シモンの頭を抱き寄せてやる。
「はぁぁ……よかったぁ」
安堵の息が漏れ、脱力する。
胸の中で泣きじゃくるシモンの頭を撫でてやりながらも、ノアの視線は例の怪物へ注がれた。
子供の認識は時に、常識と帳尻が合わないことがある。
見間違い、妄想、夢などから実在し得ない存在が本当にいたと誤認し、記憶してしまうことも少なくはない。
この怪物も、街で溢れているゴーストなどの異形も、恐らくは子供が築いた空想の産物だろう。
(……いや、にしても怖すぎでしょ)
本能的に嫌悪を抱かされるそれは幻覚だとわかっていても中々に恐ろしい。
顔を引き攣らせつつ、ノアはそれから目を逸らした。
「ほら、靴も拾っといたから。早く帰ろう」
「……ん」
落ち着いてきたらしいシモンは未だに震えているが、小さく頷いて言われた通り靴を履く。
その姿を見守りながらノアは街へ戻るまでの道順をしっかり思い起こす。
(まず右を向いて真っ直ぐ進んで道を出て……)
しかし彼の思考は近くで揺れた茂みの音によって遮られた。
ノアは弾かれたように視線を音のする方へ向ける。
草を踏みしめる音。近づく足音。
霧に紛れて姿を現したそれにノアは乾いた笑いを漏らす。
「……そっから動かないでね」
シモンを背中に庇いながら彼は杖を構える。
彼らの前には眼光を鋭く光らせた獣が二体立っていた。
0
あなたにおすすめの小説
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主』
雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。
荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。
十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、
ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。
ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、
領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。
魔物被害、経済不安、流通の断絶──
没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。
新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。
莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ
翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL
十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。
高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。
そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。
要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。
曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。
その額なんと、50億円。
あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。
だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。
だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。
享年は25歳。
周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。
25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる