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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
98-2.またね
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「それじゃ、君達も道中には気を付けて」
短い返事が三つ、ばらばらに返される。
それに頷きを返してからノアは満面の笑みを浮かべて地面を蹴る。
彼に狙いを定められたのはリオだ。
「うわっ、ちょっと」
「はははっ」
明らかに嫌そうな声をリオが漏らす。
突如突進してきたノアはリオをきつく抱きしめながら、嫌そうな反応が逆に愉快だと笑った。
「別れを惜しむにももっと適任がいるでしょう」
「クリスにやったら君が怒るだろう」
「何勘違いしてるんですか、お嬢様じゃなくてエリアス様の方ですよ」
「オレも別にハグはいらないなぁ」
押し付けられる顔を引きはがしながら、離れてくださいとリオが文句を零す。
普段飄々としている彼のげんなりとした顔は珍しく、いいものを見れたとノアは笑みを深めて見せた。
「こういうのは嫌がる相手にやるから面白いのさ。エリーは懐が広いから受け入れてしまうだろう!」
「……良い性格をしてますね。やはり悪さしかしない腕は早い内に切除しておきましょうか」
「うわっ、ジョークだってジョーク!」
通常時よりも低い声で呟かれた言葉に身の危険を感じ、ノアは素早くリオから飛び退いた。
賑やかに言い合いを繰り広げる二人をクリスティーナが観察していると、今度はエリアスが焦ったように声を上げる。
「げっ、もうだいぶ離れてるぞ! マジで置いてかれるってあれ!」
エリアスが指し示したのは先に移動を開始したオリヴィエの背中だ。
それは既に随分と先まで進んでしまっており、人通りが増えればすぐにでも見失ってしまう程にクリスティーナ達との距離が開いていた。
「うわ、ほんとだ。早く行きな!」
「たった今まで貴方に足止めされていたのですが……。お嬢様、行きましょう」
急かすノアの声に背を押され、クリスティーナ達はやや駆け足でオリヴィエを追う。
「じゃあな、ノア!」
先を急ぎながらもエリアスが振り向き様に手を振り、リオも小さく会釈をする。
そんな彼らにつられるように、クリスティーナも遅れて振り返る。
柔らかな風に揺れる白いローブと金髪。
優しい朝日に照らされながら、一人の青年は満面の笑みを浮かべて叫んだ。
「またね!」
大きく振られる片手。それを真似することに恥じらいを感じ、振り返すことは出来なかったが、代わりにとクリスティーナは小さな微笑みを返す。
「ええ、また」
その声は彼に届いただろうか。
前へ向き直り、クリスティーナは地面を踏みしめていく。
その背中はどんどんと遠ざかり、小さくなっていく。
それを見届けてから、ノアは上げていた手を静かに下ろした。
「……さて、と」
微笑みを口元に残しながら、彼もまたクリスティーナ達へと背を向ける。
「帰りますかぁ」
ほんの少しの侘しさを誤魔化すようにのんびりとした口調で独り言を零す。
青い空へと向けて両手を突き出して大きく伸びをすると、彼は大きく足を踏み出した。
短い返事が三つ、ばらばらに返される。
それに頷きを返してからノアは満面の笑みを浮かべて地面を蹴る。
彼に狙いを定められたのはリオだ。
「うわっ、ちょっと」
「はははっ」
明らかに嫌そうな声をリオが漏らす。
突如突進してきたノアはリオをきつく抱きしめながら、嫌そうな反応が逆に愉快だと笑った。
「別れを惜しむにももっと適任がいるでしょう」
「クリスにやったら君が怒るだろう」
「何勘違いしてるんですか、お嬢様じゃなくてエリアス様の方ですよ」
「オレも別にハグはいらないなぁ」
押し付けられる顔を引きはがしながら、離れてくださいとリオが文句を零す。
普段飄々としている彼のげんなりとした顔は珍しく、いいものを見れたとノアは笑みを深めて見せた。
「こういうのは嫌がる相手にやるから面白いのさ。エリーは懐が広いから受け入れてしまうだろう!」
「……良い性格をしてますね。やはり悪さしかしない腕は早い内に切除しておきましょうか」
「うわっ、ジョークだってジョーク!」
通常時よりも低い声で呟かれた言葉に身の危険を感じ、ノアは素早くリオから飛び退いた。
賑やかに言い合いを繰り広げる二人をクリスティーナが観察していると、今度はエリアスが焦ったように声を上げる。
「げっ、もうだいぶ離れてるぞ! マジで置いてかれるってあれ!」
エリアスが指し示したのは先に移動を開始したオリヴィエの背中だ。
それは既に随分と先まで進んでしまっており、人通りが増えればすぐにでも見失ってしまう程にクリスティーナ達との距離が開いていた。
「うわ、ほんとだ。早く行きな!」
「たった今まで貴方に足止めされていたのですが……。お嬢様、行きましょう」
急かすノアの声に背を押され、クリスティーナ達はやや駆け足でオリヴィエを追う。
「じゃあな、ノア!」
先を急ぎながらもエリアスが振り向き様に手を振り、リオも小さく会釈をする。
そんな彼らにつられるように、クリスティーナも遅れて振り返る。
柔らかな風に揺れる白いローブと金髪。
優しい朝日に照らされながら、一人の青年は満面の笑みを浮かべて叫んだ。
「またね!」
大きく振られる片手。それを真似することに恥じらいを感じ、振り返すことは出来なかったが、代わりにとクリスティーナは小さな微笑みを返す。
「ええ、また」
その声は彼に届いただろうか。
前へ向き直り、クリスティーナは地面を踏みしめていく。
その背中はどんどんと遠ざかり、小さくなっていく。
それを見届けてから、ノアは上げていた手を静かに下ろした。
「……さて、と」
微笑みを口元に残しながら、彼もまたクリスティーナ達へと背を向ける。
「帰りますかぁ」
ほんの少しの侘しさを誤魔化すようにのんびりとした口調で独り言を零す。
青い空へと向けて両手を突き出して大きく伸びをすると、彼は大きく足を踏み出した。
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