悪女と名高い聖女には従者の生首が良く似合う

千秋颯

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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

118-1.妙な気分

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 第一級国家魔導師という立場がこの国でどれだけの価値を示すのか、クリスティーナとリオは明確には把握していない。
 だが少なくとも国家を代表する魔導師であることには違いない。その地位が事実であるとすれば彼が怪しい人物であるという評価は容易に覆るだろう。

「嬢ちゃんと話をしたいと思ったのは、勿論お節介や良心なんてもんじゃない。こっちにも利するところがあると思ったからだ」
「半分以上愉快犯だろ……」

 傍で深々と吐かれたため息と独り言。
 男はそれを自身の咳払いで誤魔化した。

「とにかくだ。これを見せたところで嬢ちゃん達の懸念は拭えないだろう。偽造だとか盗んだだとか、疑いをかけられても今はそれを晴らす術を持ち合わせてはいないんで、余計にな」

 ディオンと名乗った男はそこまで話すと軽く片手を挙げてクリスティーナ達へ背を向けた。

「まあ、そういう訳でオレは退散しようかね。二人はニコラと知り合いなんだろ? 興味が湧いて、誘いに乗ってくれる気になったらそいつに話しを通してもらってくれ」
「あ、おいボス……!」

 じゃあな、と一言残してディオンはその場から離れていく。
 それに気付いたオリヴィエもまた、慌てて彼を追いかけた。

 立ち去る直前、オリヴィエは一瞬だけクリスティーナとリオを見やったが特に声を掛けることもなく。
 やがて路地裏にはクリスティーナとリオのみが残された。


***


 怪盗の出現による賑わいも落ち着き切り、スタッフの誘導によって帰宅を促された人々が離れ、ホールの外も閑散とし始めた頃合い。
 クリスティーナとリオはその場で心細げに取り残されていたエリアスと合流を果たす。

 その後、事情を何も聞かされず置いて行かれたことに対し半泣きになりながら抗議する騎士をリオが宥め、クリスティーナが聞き流しつつ……と言った騒々しいやり取りを繰り広げながら三人は宿まで戻ることとなった。
 だが後々、客室にて事の詳細を聞かされたエリアスは、そこで漸く自身の仕打ちの裏にあった事情を把握することが出来たおかげで、すんなりと納得を示した。



 翌日、夜間に開催されていたオークションに出席した一行は、就寝時刻が通常より遅かったこと、ニュイの探索がある程度すんでいることを考慮し起床時刻を遅らせて活動を始めた。
 昼頃に支度を終えた一行は階段を使って一階へと降りる。

 すると丁度受付近くで話していたオリヴィエとグレースと鉢合わせた。
 昨晩とは異なる格好。あれだけの騒ぎを起こしたのにも拘らず何食わぬ顔で一般人に紛れているオリヴィエ。それを目の当たりにした一行は予想していたものの、少なからず彼の姿を意識して見てしまう。

 しかし当の本人は何かを意識した様子もなく、ニコラとしての他人行儀な笑みを浮かべた。
 どうやら会話が丁度終わったところらしく、彼は軽い挨拶をクリスティーナ達に投げかけるとそのまま店を出ていく。

「じゃあ、休憩行ってくるね」
「いってらっしゃい」
「いってきます」

 扉の開閉に合わせて鳴るベルを聞きながら三人とグレースはその背中を見届けた。
 彼の姿が扉の影に隠れてから、グレースはクリスティーナ達へと視線を戻した。
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