悪女と名高い聖女には従者の生首が良く似合う

千秋颯

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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

120-2.贈り物に関する議論

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「……いや、あるな。気に入った本の話はしょっちゅう聞かされていた気がする」
「そう。なら手を貸してあげることくらい出来るわ」

 早く話せとクリスティーナは詳細を求める。
 だが目の前の青年は神妙な面持ちで呟いた。

「覚えていない」
「……は?」

 クリスティーナから思わず漏れる鋭い声。
 それを聞きながら男は深刻そうに眉間の皺を深く刻んだ。

「小難しい話は全て聞き流していたから一切覚えてない」
「少しくらい覚えといてやれよ……」
「そういえばこの人浅慮でしたね」
「よくよく考えれば人を気遣うという発想もなさそうね……仕方ないわ」
「それ、お嬢様が言いますか? あいたっ」

 相手を気遣うどころか雑すぎる扱いをしているらしいオリヴィエの告白に、一行は次々と批判を入れる。
 その際、どさくさに紛れて主人を侮辱したリオが脛を蹴られてクリスティーナの視界から消える。
 脛を押さえたまま静かに蹲る従者を静かに見下ろしてからクリスティーナはオリヴィエへと視線を戻した。

「感性というのは個人差があるでしょう。私が面白いと感じた物が必ずしも万人受けするとは限らないわ。それに、今のままだと相手が既に読んだことのある本を誤って勝ってしまう可能性もあるでしょう」
「……それは確かにそうだな」
「だから、現状で貴方に本を依頼した相手を満足させる手伝いは出来そうにないわ」
「なるほど。了解した」

 会話に区切りがつき、クリスティーナとオリヴィエの双方は口を噤む。
 だが一度頼みを請け負った身で結局何の手助けも出来なかったという結果に対し、クリスティーナは聊か無責任さを覚えてしまう。
 元より完璧主義に近く自身の欠点を良しとしないクリスティーナにとって、一度承諾した物をなかったことにするという選択はどうにも悶々とした心地を覚えさせるものだ。

 故にせめて言葉による助言でもと思いはしたが、そこまで考えが至ろうとも実際に掛けられるような言葉は見つからない。だからこそクリスティーナは口を閉ざしてしまったわけなのだが、そうして流れた気まずい空気は数秒ほどで晴らされることになる。

 オリヴィエは暫し黙りこくった後、何かを思いついたように顔を上げた。

「つまり、本人から直接話を聞ければ問題ないんだな」
「聞いても覚えていられないなら意味はないのよ……」
「なら僕以外の奴が覚えておけばいいだろう。お前達がいるなら話が早い」

 オリヴィエは本屋の出入口を顎で指しながら言った。

「付いてきてくれ。案内する」
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