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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
197-2.主従の対話
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「シャルロット様は最近旦那様が大切にされている宝石をご覧になられた事はありますか? 最近使用人の間で噂になっていて」
「宝石? どんな?」
「何でも両手にすら収まらない程大きな、橙の宝石だとか」
「橙……あ。あれかな」
「お心当たりが?」
ジルベールの言葉に耳を傾け、記憶を辿ったシャルロットはふと声を漏らす。
そして再度投げられた問いに頷きを返した。
「うん。多分。とは言っても一回だけだったし、見たのは結構前……一年前とかだけど」
「一年前と言うと……シャルロット様が休学された頃の事ですか?」
「うん。ほら、休暇で戻って来た時かな。全然元気だった頃に」
(古代魔導具に干渉した経験がある。時期も体調を崩された頃と同じ……やはり)
「ジル……?」
シャルロットの不調が古代魔導具によるものである推測は正しい物であった。
黙りこくった相手の様子を不思議に思ったのか目を丸くするシャルロットの声にジルベールは我に返る。
「もしかして疲れてる?」
「いいえ」
「そう? ならいいけど」
シャルロットは当時の事を更に詳しく思い返す。
自身の記憶を整理する為か、彼女は当時についてぽつぽつと語り出した。
「ほら。私が家を離れてから、お父様は骨董品を集めるのが趣味になったでしょ? その延長で、自慢のコレクションを見せたいって言って見せてくれたことがあって」
ジョゼフは娘が遠方へ旅立ってから、その寂しさを埋める為か別の趣味を見つけた。それが骨董品集めであった。
最初は軽い趣味や娯楽程度で家系に影響を与える程の物ではなかったはずだ。知り合いの貴族らとの世間話として使う程度の話題のネタ。
それが気付けば骨董品へ向ける熱情をどんどん高めていきそれは次第に執着へと変わり、やがて家や治める領地にまで良からぬ影響を与える様になっていった。
「確かに大きくて綺麗だったかも? 正直手放しに喜べなかったし……そんな宝石を手に入れる余裕が家にあるとも思えなかったから凄い複雑な気持ちだったけど」
オリオール家の財政状況は大雑把にではあれどシャルロットも理解している。いくら慕っている父とは言え、自身の欲に塗れて財を消耗する姿は許容できるものではないだろう。
それでも彼女がオリオール家の財政状況を改善させることが出来ないのは彼女自身が未熟な学生であり、女性であり、ジョゼフが彼女の意見に耳を傾ける事をしないからだ。
「……噂になってるのってもしかして、うちの財政状況で明らかに高価な物を所持している状況に不信感が募ってる……とか?」
「い、いえ、そんな事は」
「ふふ、気遣わなくていいよ。うちの状況がまずいって事は……流石にわかるから」
咄嗟に否定の言葉が飛び出すも、オリオール家の現状とここまでの話の流れを鑑みればシャルロットがそう考えるのも自然であり、下手に別の理由を取ってつける方が不自然だ。
気落ちし、眉を下げてはにかむシャルロットの表情に声を掛けてやりたくなる事を堪え、ジルベールは口を閉ざす。
しかしシャルロットもそれ以上は何も語る事をせず、時間だけが過ぎていくことになる。
情報は得られた。だがまだ確認しなければならないことはある。
ジルベールは出来る限り会話が不自然にならない様、そして重苦しい空気にならない様気を遣いながら口を開いた。
「宝石? どんな?」
「何でも両手にすら収まらない程大きな、橙の宝石だとか」
「橙……あ。あれかな」
「お心当たりが?」
ジルベールの言葉に耳を傾け、記憶を辿ったシャルロットはふと声を漏らす。
そして再度投げられた問いに頷きを返した。
「うん。多分。とは言っても一回だけだったし、見たのは結構前……一年前とかだけど」
「一年前と言うと……シャルロット様が休学された頃の事ですか?」
「うん。ほら、休暇で戻って来た時かな。全然元気だった頃に」
(古代魔導具に干渉した経験がある。時期も体調を崩された頃と同じ……やはり)
「ジル……?」
シャルロットの不調が古代魔導具によるものである推測は正しい物であった。
黙りこくった相手の様子を不思議に思ったのか目を丸くするシャルロットの声にジルベールは我に返る。
「もしかして疲れてる?」
「いいえ」
「そう? ならいいけど」
シャルロットは当時の事を更に詳しく思い返す。
自身の記憶を整理する為か、彼女は当時についてぽつぽつと語り出した。
「ほら。私が家を離れてから、お父様は骨董品を集めるのが趣味になったでしょ? その延長で、自慢のコレクションを見せたいって言って見せてくれたことがあって」
ジョゼフは娘が遠方へ旅立ってから、その寂しさを埋める為か別の趣味を見つけた。それが骨董品集めであった。
最初は軽い趣味や娯楽程度で家系に影響を与える程の物ではなかったはずだ。知り合いの貴族らとの世間話として使う程度の話題のネタ。
それが気付けば骨董品へ向ける熱情をどんどん高めていきそれは次第に執着へと変わり、やがて家や治める領地にまで良からぬ影響を与える様になっていった。
「確かに大きくて綺麗だったかも? 正直手放しに喜べなかったし……そんな宝石を手に入れる余裕が家にあるとも思えなかったから凄い複雑な気持ちだったけど」
オリオール家の財政状況は大雑把にではあれどシャルロットも理解している。いくら慕っている父とは言え、自身の欲に塗れて財を消耗する姿は許容できるものではないだろう。
それでも彼女がオリオール家の財政状況を改善させることが出来ないのは彼女自身が未熟な学生であり、女性であり、ジョゼフが彼女の意見に耳を傾ける事をしないからだ。
「……噂になってるのってもしかして、うちの財政状況で明らかに高価な物を所持している状況に不信感が募ってる……とか?」
「い、いえ、そんな事は」
「ふふ、気遣わなくていいよ。うちの状況がまずいって事は……流石にわかるから」
咄嗟に否定の言葉が飛び出すも、オリオール家の現状とここまでの話の流れを鑑みればシャルロットがそう考えるのも自然であり、下手に別の理由を取ってつける方が不自然だ。
気落ちし、眉を下げてはにかむシャルロットの表情に声を掛けてやりたくなる事を堪え、ジルベールは口を閉ざす。
しかしシャルロットもそれ以上は何も語る事をせず、時間だけが過ぎていくことになる。
情報は得られた。だがまだ確認しなければならないことはある。
ジルベールは出来る限り会話が不自然にならない様、そして重苦しい空気にならない様気を遣いながら口を開いた。
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