召喚探偵の推理回想録

玻璃斗

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緋色の宿命

2-5 嘘と真

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「な、なんじゃこりゃ!?」

俺は鏡の中の姿を見て声を上げた。

日本人らしい黒髪に特に秀でた所のない平凡な顔。
顔の姿、形はいつも通りの俺。

だけど目だけが普段と違う燃えるような真っ赤な瞳。

それだけでまるで別人みたいだ。

「なんで目の色が……」
「よく出来たじゃない」

イレーネは俺の顔を覗き込み満足げに笑った。

俺は目を見開いた。

「ちょっと待て!? 俺の魔法は『嘘を見抜く魔法』だろ!? なんで目の色が変わるんだよ!」
「副作用みたいなものよ。魔法を使うと緋色の瞳になるの」

「副作用? っていうことは……」
「魔法は発動してるわ。そうね。いきなり容疑者相手に使ってもレスレード警部達には本物かどうかわからないだろうから試しに一つ使ってみましょうか」

イレーネは顎に手を当て少し考え込んだのち指を鳴らした。

「そうだ。私、気になることがあるの。どうせならそれの真偽を確かめましょう。レスレード警部、質問いいかしら」
「なんだ?」

呼ばれたレスレード警部は訝しげな顔をする。
イレーネは俺の顔をレスレード警部の方へ無理矢理向けにんまり顔で訊ねた。

「レスレード警部って男に求婚されたことがある?」

その言葉に一気に氷点下まで凍り付く室内。
レスレード警部は見る見るうちに茹で蛸のように顔を真っ赤にし肩をぷるぷると震わせている。

なんちゅうこと聞いてるんだ。こいつ。

男が男に求婚されるなんてこと……いや、こんだけ端整な顔立ちならあり得なくもなさそうだけど。
だけどこのレスレード警部は女に間違えられることを極端に嫌う。
どうせまた『ふざけたことを聞くな』って一喝されて終わりだろう。

てか下手したらぶっ飛ばされるぞ。

危険を感じた俺は咄嗟に頭を守る。
だがレスレード警部はいきなり怒鳴り始めることはなく口をパクパクさせたのち、流石にここで大声を上げるのは隣の部屋に聞こえるのでまずいと思ったのか息を整え始めた。
そして顔を引きつらせたながらもある程度冷静に返した。

「何故そんなことを聞く?」
「いや、普通に聞いたら怒鳴り返すだけだからこの際聞いておこうと思って。いい力試しになるでしょ?」
「……そういうことか」

レスレード警部はハッと息を呑みイレーネを睨み付ける。
イレーネの意図を理解した俺も冷や汗をかきながら唾を飲んだ。

本当に嘘を見抜くことが出来るのか相手に信用させる質問の内容として良いものは相手しか答えを知らない質問をすること。
それにあからさまに答えがわからないものがいい。

つまり秘密にしていそうなことで嘘か本当かわかりにくいことだ。

このレスレード警部の場合は性格上容姿関係の質問がいいだろう。

勿論答えないって手もある。
だけど答えず別の質問にしたら肯定したと取られからかわれる。
答えたらバレるし、答えてなくてもからかわれる。

悪意満載の質問というわけだ。

イレーネの奴、このレスレード警部に何の怨みがあるんだよ……

苦笑いしながら俺は苦悶の表情をしているレスレード警部を見やる。

職務とプライドを天秤にかけているのだろう。
可哀想に。

するとレスレード警部は結論が出たのか深くため息を漏らすと仏頂面に戻り答えた。

「あのな。確かに俺は女っぽい顔立ちをしているとよく言われるし、その自覚もある。だが俺は歴とした男だ。そう多くの男から求婚されるなんてことない」

どうやらレスレード警部は職務を取ったようだ。

えらいな。
レスレード警部の仕事愛に感心していると俺は妙なことに気がつく。

それは彼の声。所々変なのだ。
レスレード警部の声に重なって聞こえる耳につく金切り声。
さっきまでこんな風な声じゃなかった。

それにこの声聞き覚えがある。
この声は……

「……嘘?」
「どこがだ?」

レスレード警部は俺に詰め寄ってきた。

息がかかるほど近づく顔。
煌めくエメラルドグリーンの瞳に見つめられると思わず心臓の鼓動が高まる……

ってなんで男にときめいてるんだ!

内心で自分に突っ込みを入れ俺は一歩下がると咳払いをした。

「どこがってどういう意味?」
「嘘を見抜く魔法なんだろ? 今の俺の言葉のどこが嘘だったかと聞いているんだ?」

……ああ、そういうこと。上手い返しだ。

普通嘘をつく時同じ質問を投げ返してはいけない。
何故なら人は触れたくない話題から逃げようとする傾向があり、同じ質問を投げ返して話を逸らすと嘘をついていると相手に感づかれるからだ。
だがこの場合レスレード警部がもっともするべきなのは嘘がバレないようにすることではなく俺が魔法を使えるか確認すること。

つまりイレーネの思惑に乗ってむやみやたらに否定したり話を逸らしたりせずに俺がどのぐらい嘘を見抜けるか嘘を本音に交えながら質問すればいい。

それに『多くの男から求婚されるなんてことない』。
『多く』の基準は人それぞれ。
二人を多くと考える人がいれば、百人を多くと考える人もいる。

要は数を誤魔化すには『多く』などの基準が曖昧な言葉が使い勝手がいいということだ。

しかしあの返答の中で嘘をついているところが。
「『自分が女顔だと自覚してる』って……」
自分の容姿が女みたいって思ってないのかよ。

苦笑いする俺を横目にレスレード警部はイレーネに向かって勝ち誇ったように鼻を鳴らす。
イレーネもレスレードの考えを理解したらしく不機嫌そうに口を尖らせた。

だけど。

俺はガラスに映る自分の目を眺めた。

なんで俺は魔法の言葉を知ってたんだ?
魔法と共に知識も授けられたとかか?

まぁ、この世界じゃ魔法も授けられるぐらいだしありえないことじゃない。

でも嘘をついた時の声にも聞き覚えがあったのは一体……?

「おい」
「わぁ!?」

背後からかけられた声に俺は肩をびくつかせる。
振り返るとレスレード警部が立っていた。

「な、なに?」
「本当に魔法が使えるようだな」
「ま、まぁな」

俺が小刻みに頷くとレスレード警部は唇を噛み締め髪を掻き上げた。

なんでだろう。心なしか喜びより妬ましさが見て取れる。
あれか、変なことを聞かれたのが癪に障ったとか?
でもそれは俺のせいじゃ……

戸惑いの色を浮かべる俺を眺めながらレスレード警部がため息を漏らすと隣の部屋を指さした。

「なら今度はその魔法であいつの嘘を見抜けるな?」
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