探偵王子とフォルトゥーネ

黒井ここあ

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第一楽章 手紙を書く女-Allegro con brio-

1-5 たまにはそれらしく(9)

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 そしてマルガと呼ばれた寮母は、慣れた手つきでカードをエプロンのポケットに突っ込んだ。
 その表紙になにかに気付いて小さな声を上げると、そこを指し示してパーシィを振り向いた。

「グウェンドソン様。ここが以前お尋ねになられたポストです」

「ふむ」

「部屋の扉にはポストはありませんからね。ここだけです」

 青年は頷いてまじまじと観察した。セシルも倣ってみたけれどもそれはどこにでもあるような、鋼鉄製で少し端々がさびているところまで何の変哲もないポストだった。親の仇のように睨みつけるべき相手にはとても思えない。

「セシル?」

 そのとき、背後で少年の声がした。

「うわあ!」

 てっきり後ろにいるのはマルガ一人だけだと思って心の準備をしていなかったので、セシルは体ごと驚き、振り向いた。確かめると、声の主はよく知った顔を持っていた。

「メルヴィン! はぁ、驚かさないでよ!」

 跳ねる心臓は急な出会いだけが理由じゃなかった。今のでかつらずれてないかな。
 つややかな黒髪のクラスメイトは、休みの日にもかかわらず、しっかりとシャツのボタンを首元まで留めている。彼は同じ色をした瞳を輝かせてセシルの手を取った。

「驚いたのは僕のほうだよ、セシル。まさか休日にまさか男子寮で会えるだなんて! 君一人では来られないはずだけれど――」

「仕事なんだ」

 セシルが言い知れぬ気まずさを覚えて瞳を泳がせると、いつの間にかポストの観察を終えたパトロンと目が合った。その瞳はすうっと動き、次にメルヴィンを見た。さっきまでと違い、空色の瞳はどこか冷たいような気がした。
 急に吹き込んできた雪風のように、探偵の口からつららが飛んでこないうちに、とセシルは慌てて二人の間に割って入り、紹介した。

「パーシィ、こちらメルヴィン。クラスメイト。同い年なんだ。メルヴィン、こちらパーシィ。ワタシの――」

 青年はセシルに聞こえるだけの小ささで鼻を鳴らすと、少年へ手を差し出した。
 メルヴィンは彼に臆せず、堂々と握りかえす。その隙を見て、セシルはベレー帽の下に手を忍ばせた。よかった、ヘアピンちゃんとついてる。

「よろしく。僕のセシルが世話になっている」

「お噂はかねがね、探偵さん」

「ああ、探偵さん! 魔女さん!」

 頭一つ違う二人の男が握手を交わした間に、もう一人、男が飛び出してきた。
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