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第一章 妖精と呼ばれし娘
二、五月雨の心は(8)
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「坊っちゃん、おはようございます。昨日は残念でしたね。調子が悪い時なんて誰だってありますから気にしなくていいんですよ。今日はきっと大丈夫ですから、お気をつけて」
ぱんぱんに張り詰めた頬を持ち上げて、ハンナはアルフレッドを励ました。その満面の笑みを見て、彼もつられて口の端だけを持ち上げた。
これが彼なりの笑顔だった。
「ありがとう」
「ぼっちゃんの腕が良いのは、よく知っていますよ。お父さま譲り、果てはご先祖さま譲りですからね。誇りを失くさないでくださいまし」
そう言うと彼女は、アルフレッドの肩や胸元についていた土ぼこりを目ざとく見つけ出し、掌でたたき落とした。
二、三歩下がって、彼の佇まいを確かめる。
身分こそ違うが、本当の母親のように気遣ってくれる彼女の言葉と所作に、アルフレッドの心はじんわりと暖かくなるようだった。
彼は、いつもより多い荷物を彼女に見せた。
「ハンナ、今日から五日間ほど、狩り場に張り込んでみる。ユーシィ……義姉上には君から、そう伝えておいてくれ」
「あら、ご自分で……は、お伝えに行かれませんよね。承知しました、若君さま」
昨日の当てつけと言わんばかりに、若君という言葉を強調し、大げさに礼をした乳母に、アルフレッドは急に不機嫌になった。
「……俺は爵位になんか興味ないぞ」
「いつまでも奥方さまがいらっしゃるとは限らないんです。そして、現実に爵位継承権はあなたさまのものですよ。そうも言ってられないと思いますけどね。ああ、ちょっと待ってください」
眉をひそめた若い主君の前から、乳母は大きなお尻を振りながら足早に厨房へ去った。
数分の時が経ち、気の短いアルフレッドが待ちきれなくなってその場を離れようとすると、彼女は大判のハンカチーフの包みを持って戻ってきた。
「ほら、どうぞこれ、持って行ってくださいまし。全く狩りが上手くいかなかったときの為の保険です」
アルフレッドはそれを片手で受け取った。包みは彼の思ったよりずっしりと質量があった。
彼は、口元をぐっと引き白い歯を見せると、しばしの別れを乳母に告げ、愛馬と共に南東の狩り場へと向かった。
ぱんぱんに張り詰めた頬を持ち上げて、ハンナはアルフレッドを励ました。その満面の笑みを見て、彼もつられて口の端だけを持ち上げた。
これが彼なりの笑顔だった。
「ありがとう」
「ぼっちゃんの腕が良いのは、よく知っていますよ。お父さま譲り、果てはご先祖さま譲りですからね。誇りを失くさないでくださいまし」
そう言うと彼女は、アルフレッドの肩や胸元についていた土ぼこりを目ざとく見つけ出し、掌でたたき落とした。
二、三歩下がって、彼の佇まいを確かめる。
身分こそ違うが、本当の母親のように気遣ってくれる彼女の言葉と所作に、アルフレッドの心はじんわりと暖かくなるようだった。
彼は、いつもより多い荷物を彼女に見せた。
「ハンナ、今日から五日間ほど、狩り場に張り込んでみる。ユーシィ……義姉上には君から、そう伝えておいてくれ」
「あら、ご自分で……は、お伝えに行かれませんよね。承知しました、若君さま」
昨日の当てつけと言わんばかりに、若君という言葉を強調し、大げさに礼をした乳母に、アルフレッドは急に不機嫌になった。
「……俺は爵位になんか興味ないぞ」
「いつまでも奥方さまがいらっしゃるとは限らないんです。そして、現実に爵位継承権はあなたさまのものですよ。そうも言ってられないと思いますけどね。ああ、ちょっと待ってください」
眉をひそめた若い主君の前から、乳母は大きなお尻を振りながら足早に厨房へ去った。
数分の時が経ち、気の短いアルフレッドが待ちきれなくなってその場を離れようとすると、彼女は大判のハンカチーフの包みを持って戻ってきた。
「ほら、どうぞこれ、持って行ってくださいまし。全く狩りが上手くいかなかったときの為の保険です」
アルフレッドはそれを片手で受け取った。包みは彼の思ったよりずっしりと質量があった。
彼は、口元をぐっと引き白い歯を見せると、しばしの別れを乳母に告げ、愛馬と共に南東の狩り場へと向かった。
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