純白の抒情詩〈リューリカ〉

黒井ここあ

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第一章 妖精と呼ばれし娘

三、カラスとの約束(11)

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「聞かせてくれるか? これは何だ? 君は何処から来たんだ?」

 アルフレッドの一つ結びの髪を弄ぶ風が、首筋に冷たい。
 少女も、ケープをきゅっと自身の前に手繰り寄せた。
 彼はそれを見て、不思議な壁も風を通すのかと、変なところで感心した。

「……わかんない」

 風で葉が擦れる音に、かき消されるほどの小さな声だった。

「……わからない? 初めて見たが、魔法の《ギフト》じゃ……?」

 アルフレッドが尋ねると、リュリはこくりともう一つ頷いた。
 彼女の表情はフードで隠れていてわからなかったが、その声はアルフレッドには少しだけ寂しそうに聞こえた。

「これのこと、わたしわかんない。いろんなものから守ってくれるから《盾》って呼んでる。おんなじくらい自分のことも全然知らない、と思う。わかんないの。その《ギフト》っていうのも」

 彼女自身に言い聞かせているかのような小さな呟きに、アルフレッドは心の中でそっと同意を寄せた。
 己の気持ちが不確かなのは、彼も同じだったから。
 自身の本心が一体何処にあるのか、アルフレッドは未だに決めかねていた。その本心というのは、初恋の人を思う、十年前に捨てたはずの気持ちだった。

「……明日、また、ここに来る?」

 リュリの突然の申し出に、アルフレッドは驚く。
 しかし、彼としても知りたいことが何一つわかっていないのだ。
 そして、自身の家たる伯爵の城へ帰りたい気持ちもしない。
 快く返事をする。

「ああ」

 リュリはその声を聞くと、膝についた埃を払いながら立ち上がった。
 未だ、彼女は虹色の卵の中にいた。

「……わたしも、あなたのこと知りたい……し……」

 ちらりと、翠の瞳がアルフレッドを捉える。
 彼には、その瞳がどうして一瞬煌めいたのか、その理由はわからなかった。

「ごめんね、驚かせて。……また、明日ね」

 真っ白な髪をフードから溢れさせて、少女は不思議な繭に包まれたままで、森の中へと音も無く去っていった。
 アルフレッドは、異変に気付いた。彼女を包んだ壁があった場所に生えていた草花が、全て横倒しになっていることに。

「あの壁のせいだったのか……。どうりで、矢なんか当たらない訳だ……」

 アルフレッドは馬鞍を愛馬にとりつけると、その足で、少女の倒れていたところに置いてきたボウガンを回収し、所有する小屋に向かった。
 それは川沿いに森を出てすぐのところにあった。
 続き屋根の厩に愛馬を繋いで、そこから一晩分の薪を抱えて小屋に入る。
 風よけのマントを壁に掛けると、フックの隣に掛けてある鏡が目に入る。
 そこには、驚きで見開かれた彼の顔が映り込んだ。

「ああっ! 俺の帽子がない!」
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