[R18]Congratulations! Your pride is broken!!

花一匁

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Congratulations! Your pride is broken!!

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    酷く蒸し暑い夏の夜。
    二人の少女が、時間さえ止まったかのように向き合い、停止していた。

    ベッドの上で押し倒されてる紫髪の少女、ーーアヴィは、ただただ困惑で表情を染めている。

    方や押し倒している黒髪の少女、ーーアレクトは、己に湧き上がる劣情を必死に抑えながら、自身の愚かさを呪っていた。

     ーーなんでこうなった…?


   ・・・


     別に何か特別な事があった訳じゃない。端的に言えば、転んで、その先がベッドで、運悪く彼女を押し倒してしまう形になっただけなのだ。
  
    ただ、それに至るまでの経緯が良くなかった。

    アレクトは『男性』である。
    少なくともアレクト自身はそう思っているし、そうでありたいと願っている。

    聞く人によっては病院をオススメされ兼ねない事態であるが、皮肉な事にこれは事実であった。

     『原因不明の病』。病であるかどうかも怪しいそれは、男性を女性へと変化させる摩訶不思議なものだった。

    発症の条件は?ーー不明。
    発症のリスクは?ーー不明。
    いつ元に戻るのか?ーー不明。
    感染はするのか?ーーそれはしないらしい。

「ねぇねぇアレクト?」

「ん、なに?」

    就寝前、二人がリビングでテレビを見ていた時、ふとアヴィがアレクトを見やった。

    彼等は同じマンションの部屋に住んでいる。
    アヴィの親は『原因不明の病』の解明に勤しんでいて、アレクトの親は両方とも海外に出張中だ。

    突然女性になるという、そんな右も左も分からなくなるような事態に陥ったアレクトに差し出された救いの手は、アヴィからのものであった。

    元々親同士が仲良かったのもあって、アレクトは一人にならずに済んだーーーーいや、済んでしまったというべきかもしれない。

    アレクトとアヴィの関係性は、親同士が仲が良いだけであって、別に良いものではなかった。
     それは決して険悪とか言う訳じゃなく、ただ関わる機会が少なかっただけである。
    一度話し合ってしまえば、打ち解け合うのも苦ではない。

    それがこの件を通して、同じ部屋に住むとか言う事態にまで発展した。

    繰り返そう。アレクトは自身のことを『男』と思っているし、そうでありたいと願っている。
    そんな年頃の彼が、一人の少女と暮らしを共にするというのは、精神的な負担があまりにも多かった。

「アレクトって、ちゃんと『女の子』がすきなの?」

「ーーブッ、ゴホッゴホッ……!」

    飲みかけのお茶が器官へと詰まり、思わず咳き込む。

「はぁ…はぁ…急に何を…?」
                                                      
「いや、ちょっと気になってさ。アレクトって、心まで女の子なのかなって」

「い、いや俺は男だよ」

「そっか。……じゃあ、ひょっとしたら私の事も?」

「ーーゴハッ……ゲホッゲホッ……!!」

    本日二度目。短時間にして連続で咳き込んだのには理由があった。

    動揺するのは、やましい事があるからに他ならない。

    この病の症状の一つに、体が動けないほど怠くなるというものがあった。当然、今では治っているがそれでも笑えないくらいには、当時酷かった。

    『女の子』として、洗髪のやり方やお風呂の入り方をアヴィから教わった際、アレクトは一人で入る事は能わず、結果として彼等は共に入る事になった。

    流石に目隠しこそしたものの、それでも垣間見えてしまったアヴィの裸体は、女性経験の皆無であるアレクトにとっては衝撃的なものだった。白い肌に、滴る雫が肌を伝って…

(いやいや、考えちゃダメだ…。どうにか忘れろ……!!)

    同棲という状態でありながら、恩人である彼女にそんな劣情を抱くのは、アレクト自身が許容出来ることでは無かった。
                       
    ましては、

「ふふっ。まぁいいや。今日はもう遅いし、寝ようか?」
   
「えっ?ああ、うん」

    その後、二人は何の気なしに寝室へと戻り……

    ーーーー話は冒頭へと戻る。


    見つめ合う時間は数秒か、アレクトには数分とも思える程長く感じられた。
    とても静かな空間で、扉から吹いてきた隙間風が彼の頬を撫でた事によって、ようやく彼は正気を取り戻した。

「えっ…あ、ああ!ごめん、すぐにどくよ!」

    体を退けたあとも、アヴィは数秒間ポカンとした様子でアレクトを見つめていた。
    その直後、彼女は楽しそうとも、残念そうとも取れる笑みを浮かべた。
     
「なぁんだ。私てっきりアレクトに襲われちゃうかと思ったよ」
    
「お、襲うって……!そんな訳…」

「アレクトになら、いいかなって思ったんだけどなぁー」

    ーーえっ?

    再び、時が止まる錯覚に陥る。
    信じられないものを目の当たりにしたかのように、ピタリと動きを止めたアレクトに、アヴィはすっと近寄る。

「ねぇ、アレクトはさ、どうなの?」

「ど、どうって……な、何が……?」

    目線を忙しなくあちこちへ飛ばし、何とか意識を紛らわせようとする彼は、アヴィにとってものすごく可愛らしく映る。

「なにがって、分かってるでしょ?」

    そんなアレクトに真っ直ぐ視線を飛ばし、決して逃がさないよう捉える。

「………、…。」

「言わないの?……ならこの事、みんなに言っちゃおうかなー」

「……っ!?ま、待って!!」

    今まで彼の口からは聞いたことも無い程大きな声が響いた。
    『この事』とは、彼が原因不明の病にかかってしまって、現在『女』になってしまっているという事である。

「じょ、冗談だよ。そんなこと、言うわけないでしょ?」

    アヴィ自身も、まさかここまで露骨に反応されるとは思っていなかったようで、この手の冗談は二度と言わないようにしようと心の中で決めた。

「でも、私にここまで言わせたんだから、ちゃんと答えて欲しいなぁ」

     チラリと視線を送りながらアヴィが呟く。あくまでアヴィは、アレクトの事を逃がすつもりはないようだ。

    一方、アレクトはと言うと、『冗談』と言われてもまだ安心出来ず、言わざるを得ない状況に陥っていた。

    だから、彼は勇気を振り絞ったーー。

    しかし、出来なかった。

「す、するなら……ちゃんと……」

「ちゃんと?ちゃんと何さ?」

    ーー男の時がいい。

    その言葉を吐きかけ、彼は口を止めた。

    自分に自信があるはずなのに、他人からの評価となるととたんに自信が持てなくなる。
     彼女が求めているのは、果たして本当に自分なのだろうか?
    もしそうだとして、それは自分が『女』だからじゃないのだろうか。『男』としての自分は、埒外にでもいるんじゃないのか。

    ーーもしもだ。もしもそんな事を本当に聞いたとして、仮にそれを肯定するような言葉が彼女の口から飛び出たとき、その時果たして自分は平気でいられるだろうか………?

    そんなネガティブな思考が、結果として彼の発言を踏みとどまらせるに至った。
    
    傷つきたくない……。そんなごく当たり前な保身が、言葉を詰まらせた。
    自分が傷つかない道を、彼は無意識の内に詮索している。

    否定して欲しくない……。それが嫌で、結局彼はその惰性に甘んじたのだ。

「お、女の子同士って…、そ、その、なんて言うか…よ、よくないと思うし…」

    言葉を濁らせ、その続きを促された彼は、思っても無いことを口にした。
    とりあえず何とか誤魔化して、この場を収めなくてはいけない。

    しかし、それが良くなかった。結果を言うならば、この時彼は、どんなに無様でも不格好でもちゃんと本音を口にしとくべきだったのだ。

「何ソレ?」

「えっ……?」

    途端に険しくなるアヴィの顔に、アレクトは困惑を隠せないでいた。

「普段は女の子扱いするなって怒るくせに、こういう時は都合よく『女の子のフリ』するんだ?」

「えっ?い、いや、そういう訳じゃーー」

「ーーじゃあどういう訳なの?」

    言葉を被せるようにして、極めて威圧的にアヴィは問いかけた。
    彼女の怒りは最もだった。

    日頃から意識はしていたのだ。彼女が彼の事を好きだと気付いたのは、それ程前の事ではない。ごく最近だ。

    しかしそれはあくまで『気付いたのは』であって、彼女が彼の事を想っていたのは、ずっと前からだったのかもしれない。

    はっきり断言しておこう。
    アヴィはアレクトの事が好きなのだ。

    彼が『女』となってから初めて顔を合わせたその時、まだ『女』に慣れていない彼のオドオドとした様子を見て、何故だか庇護欲をそそられた。(まぁ今も慣れたとはとても言い難いが、それもまた。)

    男の姿だった時も、その凛々しい立ち振る舞いに、どこかで惹かれていた。

    ーーそうでもなきゃ、今こうしてまで彼の世話を焼いている訳がないじゃないか。

    一体何が不安だと言うのか?
    私が彼の事を否定するとでも思っているのだろうか?だとしたら笑わせてくれる。

    『女の子同士だから?』そんな思っても無いような理由ではぐらかされでもしたら……
                          
    ーー私は……は、とんだピエロじゃないか。

    彼との距離がゼロに等しくなった時、雰囲気でいえば最高だった。
    見つめ合い、互いの呼吸音さえ聞こえそうな程静かで、夏の夜のエアコンの音がやけにうるさくてーーーー胸が高鳴っていて。
                      
   彼となら、もいいって……。
    
    そんな中、結果は何も起こらなかった。
    まるで初対面の時のように、オドオドと言葉を濁し、俯く始末。

「えっと…そ、その、ご、ごめん、なさい」

「……何に対しての謝罪?」

「ーー…、……ぁ………っ…」

    少しでも責め立てれば、彼は面白いほどに狼狽する。涙目にさえなってしまう始末だ。
    オロオロと視線を泳がし、泣きそうになっている彼に『男』としての面影は残念ながらこれっぽっちもない。
    大方、彼女の御機嫌を取る為の言葉を探すと同時に、自己嫌悪にでも陥っているのだろう。


     ーーどうにかして嫌われないようにと、
     ーーどうにかして否定されないようにと、

    全く、どうしてそこまで自分に自信が持てないのか。彼女はただ、彼の本音を聞きたいだけだと言うのに。

    『女性』であるアレクトは、同性であるアヴィからしてみても、魅力的に映った。

    長い黒髪に、黄金色に輝く瞳は半開きで、どこか怪しささえ感じられる。
    胸こそ大きくは無いが、それでも『女性』という観点から見たら、モテる事間違いなしだろう。
    現に、彼の事をよく知らない、パッと見ただけの男共からの評価は、不服にも高い。
    普段から前を見て歩けず、オドオドと周りの全てが敵だとでも言わんばかりに警戒して、アヴィの横を決して離れようとせず……

    かと思えば、『男性』であるアレクトは、正に自信に満ち溢れている。
    彼の周りにはいつも人がいて、優しく笑顔を振りまき、これまた不服な事に女共からの評価は高いと来た。

「はぁ……アレクトはさ、私の事、好き?」

「え、えぇっ!?」

「……私はさ、好きだよ、アレクトの事」

「………ッ!!?」

    呟かれたアヴィの言葉に、アレクトは比喩でも何でもなく心臓が飛び出るかと思った。

    アレクト自身、別にアヴィの事が好きでは無い訳ではなかった。
    『女』である自分にとって、唯一とも取れる程信頼している彼女のことは、むしろ好きと言っても決して過言ではない。いや、いなければ困るほどの存在だ。

    アヴィの事を、拙いアレクトの語彙力で表現するとしたら、それは『美少女』だ。
    宵闇さえ飲み飲んでしまう程の綺麗な紫髪に、パッチリと開かれた赤い瞳は、掴んだものを離さない。
    普段から誰に対しても優しく、人気も高い彼女。それ故にアレクトは負い目を感じていた。
    ーー自分に優しくしてくれてるのも、それにあやかったものではないのだろうか。
    その優しさに漬け込んで、彼女に甘えてしまっている自分は、果たしてどれ程惨めで愚かに映っているのだろうか。

    そんなネガティブ思考が吹き飛んでしまう程には、先程の彼女の発言は強烈で、今のアレクトにはとても受けきれるものではなかったのだ。

    しかし、このまま彼女に言わせてしまったまま、自分が黙り込むと言うのは、僅かながらに残ったアレクトの『男』としてのプライドが許さなかった。

     だから、彼は勇気を振り絞ったーー。

    そして、後悔した。

「ぇ、えっと……お、俺も、その…す、好きだよ……アヴィのこと……」

    言うと同時に完全に下を向き、全ての動きを停止させた彼に、アヴィは少しのーーーーいや、かなりの優越感を得た。

「………………………えいっ」

「ぅぁああ!?ちょ、ちょっとアヴィ!?」

    下を向いた彼の腕を掴み上げて、強制的に自分と目を合わさせる。
    彼の表情は酷く熱を帯びていて、目で見て分かるほどに真っ赤だ。

「ちょっと!や、やめて、恥ずかしいから……!」

    彼は赤面した顔をどうにか誤魔化す為にアヴィの腕を払うと、自身の腕で顔を覆い隠した。
    しかし、一度見えてしまったその表情を、再び隠すことに意味はなかった。


    ーーあぁ、可愛い。そんな表情も出来るんだ……。
    
    そんな彼の様子に、アヴィは今まで感じた事もないような劣情がふつふつと湧き上がっていくのを感じた。
    ーーもっと困惑した表情がみたい……。
    ーーもっと困らせてみたい……。
                           
    ーーもっと、みたい。

    今までが庇護欲だったとするなら、今回は全く正反対の、加虐欲。

    そんな欲望が、アヴィ自身も驚く程の積極性を露見させていた。

「ふぅん。へぇ~。私の事、好きなんだ?」

「な、ぇ…ち、ちが……いや、ちがく、ないけど……」

    意地悪な笑みを浮かべ、ゆっくりとアレクトに歩み寄った彼女は、その耳に小さく息をふきかけた。

「…っひゃあ!?」

「っふふ。『ひゃあ!』って、そんなに今のよかった?」

「ち、違う!い、い、今のは違う!!」

    耳を抑え、必死にブンブンと首を降って否定するその姿は、皮肉な事に肯定しているようにしか見えなかった。
    そして、それはまた彼女の加虐欲を促進させてしまう。

「へぇ。そっか、耳、好きなんだ?」

「だ、だから違うって……あぁっ!」

    アヴィはベッドの上に座ると、そのままアレクトの手を引き躓かせ、彼を後ろ向きに自身の膝の上に座らせた。ちょうど抱っこするような形だ。

    身長的にも、アレクトとアヴィは頭一つ分くらい差がある。こうしてやれば、アレクトの耳がちょうどアヴィの口元に来るのだ。

「ふふ。可愛いね」

「ひっ…あ、アヴィ……や、やだ…」

    震える彼の声など知った事ではないと、アヴィはその小さい耳に舌を当てた。
    ぴちゃり、といやらしく鳴る水音は、耳元という事もありアレクトの脳内に響き渡る。

    アレクトの背中にあたる女性らしい柔らかい感触。それが何であるかなんて、考えずとも分かってしまう。

    今一度、繰り返そう。
    アレクトは『男』であるのだ。

    そんな感覚を前に、興奮するなという方が無理な話かもしれない。
    現に、普段耳など意識したことも無いのにも関わらず、彼はアヴィの舌先によって今までに無いほどの感覚を得ていた。
    それがおかしい事だと理解しつつも、抵抗する術を彼は知らない。

「ーーひっ!ちょ、ちょっと、だ、駄目!」

    周りを舐めていただけの舌先が、今度は抉るようにして中に侵入してくる。
    ぴちょぴちょ、と響く音は脳みそをダイレクトに激しく揺さぶり、アレクトの思考を掻き乱す。
    抵抗を示していたはずの腕はいつの間にか下がっており、こんな状況では力を込めることすら困難に感じる。

「んっ…ん、ぷはぁ。……アレクト、本当に耳敏感だね」

「ひぅっ!」

    つぅ、とアヴィの指がアレクトの首筋をなぞる。熱の篭った吐息と共に、容赦なく囁かれる言葉の暴力。こうまでなってしまっては、もはやどうしようもない。

「だーいじょうぶ。ちゃんと反対もしてあげるから……」

    そう言い、アヴィは同じようにして反対にも舌先を突っ込んだ。

「……っ!……っ、…ッ……!」

    ろくに女性と触れ合った事すらないのに、その初めての経験がこうだなんて、一体どうして想像できようか。

    アレクトはただ襲い来る未知の感覚に、声を押し殺すだけで精一杯だった。

    時折無意識に肩や足がピクリと浮き上がり、それを確認する度にアヴィは快さそうにふふっ、と微笑む。
                                                    
「すごい。アレクト、ほんとにみたいだよ?」

「なっ!?…ぇ、そ、そんな事ない!」
    
    恥ずかしさの余り、逃げ出そうとする彼のお腹にガッチリとホールドをして、再度囁く。それは、甘い毒のような、今のアレクトには、とてもじゃないが耐え難い様なナニかだった。

「……ほんとだよ?可愛くて、愛らしくて、本当に女の子みたい……」

「ち、……違、ち、ちち違う……!」

    ワナワナと体を震わせ、面白いほどに首を左右に振るその姿は、彼が『男』としてのプライドを守ろうとする為の、一種の防衛反応だったのだろう。

    先にあったアヴィの発言、『普段女の子扱いしたら怒るくせに』と言うのが、まさにいい例だ。あれに、似てる。

「あはっ。鏡があったら見せてあげたいなぁ。今、すごい顔してるよ?なんなら、今持ってこようか?」

    それを理解して尚ーーーーいや、理解しているからこそ、アヴィは意地悪な発言を繰り返した。

「や、やめ……お願い…だから…」

    いやいやと否定する彼の発言、行動は、本当の拒絶とは程遠い。
    彼は、ただ知らない未知の感覚に恐怖しているだけなのだ。ならば、その未知の感覚をーーーー、
                
    ーーーのものにしてあげればいい。

    そう思ってしまえば次の行動は早かった。

    彼女の細長い指はアレクトの服の中へと潜り込み、ゆっくりと、しかし確実にお腹の上へと這わせていく。

    彼が着ているのは、『男』だった時と全く同じの、色気もクソもないただの灰色の寝巻き。
    アレクトという、元の『素材』が良い分、そのセンスのなさはアヴィにとって鬱陶しいものであった。

    いや、できるだけ自身を『女』だと理解したくない彼からしたら、そんな感情を向けられるのは溜まったものじゃないのだが。

    一方アヴィがつけているのは、白のフリルのついたネグリジェだった。
    それがアレクトにとって、どれだけ刺激となっているかなんて、もはや語るまでもないだろう。

「あ、ア、アヴィ!!ほ、ほんとにダメだから……!」

    これ以上は本当にマズいと思ったのか、切羽詰まった彼の悲痛な嘆きは、残念ながらアヴィに届くことは無かった。

    なぜなら、この時既にアヴィは、アレクトの肌の感触に意識を奪われていたのだから。

「ーーっ!ん、アヴィ……!!」

    何かを乞うような、餌を求める雛鳥のような可愛らしい鳴き声は、アヴィの理性を溶かしていくのには最適だった。

    お腹を這っていた指先は、気付けばどんどんと昇ってきており、そしてやがては、胸に到達する。

「……ッ!!?………ーー!!」

    お世辞にも大きいとは言えない、しかし形としては綺麗に整った、可愛らしい胸だった。
    そしてその頂部にある、男と称するには哀れに思えるほど、そそり立っているソレ。

    軽く触れると同時にビクリと小さい肩を揺らし、足をピンと伸ばすアレクトの様子は、非常に甘美だ。

「耳をちょっといじめただけなのに、もうこんなになってるの?」

    ふぅ、と耳元に息をふきかけつつ、スリスリと、二度三度と下から優しく擦り上げると同時に、彼が言われたくないであろう言葉を可能な限り浴びせていく。

「……こ、こんな、って、……んっ!なって、ない、からぁ…」

    どうにか逃げ出そうと、抵抗を示す腕はただ添えられているだけ。そこに力なんてものは、一切として含まれていない。

「なってるよ?だってーーーーほら、こんなに硬いんだもん」

「ーーんっ!!?あぁ、っ…?!」

    言うと同時にアヴィは、人差し指と親指を使い先っぽを軽く挟み込むと、しこしこと優しく扱き始める。

    それは、言い表すのであれば、味わう為のものではなく、与える為のものだった。
    同じ女性であるからこそ、扱い方というものを熟知しているのかも知れない。

    アヴィ自身、年頃という事もあり、そして現在そういう行動に身を投じている辺りから、『快楽』というものに興味が無いわけでは無かった。

    自身の体を、ソレを求めるために弄った事もある。そして、どうすれば気持ちよくなるのかを把握し、今度はそれと同じ方法をアレクトへ施す。

    一方アレクトはと言うと、『男』ならともかく、『女』としてそういう経験をした事が無かった。
    第一に、アレクトは自身が『女』である事を許容出来ていない。
     女性という生き物に忌避感を抱いている訳じゃなく、ただ『男』として培ってきた経験が、それを良しとしなかったのだ。(彼女いない歴=年齢の童貞である事は別として。)

    お風呂に入る際も、トイレへ行く際も、出来るだけ目線に入らないようにと最大限の気を使い、常に忍耐を減らし続けて来た。

「………邪魔だし、服、脱ごっか?」

    そんな中、アヴィの声が鼓膜に浸透する。

「……えっ?」

「ほら、手伝ってあげるから、はやく」

    さも当たり前のように促されるその誘導に、アレクトは何も考えず従いそうになるが、あと一歩のところで踏みとどまった。

「ま、待って…!そ、それは…いやだ…」

「……はぁ………『無理矢理脱がされるの』と、『私が優しい内に脱ぐの』、どっちがお利口さんだと思う?」

「ひっ……!」

    赤く鋭い眼光が、真っ直ぐにアレクトを貫く。今の彼女には、従わなければいけないという雰囲気を感じさせる程の強者感がある。

「わ、分かったから。ぬ、ぬぐ……から…」
                
「うん、

    アヴィに促されるまま、服が袖を抜けていき、アレクトの肌が顕になる。
    きめ細かな、白い肌。同じ女性として羨ましくも思えるほど綺麗な肌に、アヴィは人知れず息を飲んだ。
     そして、その白の上に立つ、薄い桃色の起立した乳首。

    本人でさえ、しっかりとは見れなかったソレを、アヴィにマジマジと見られるのは、火がつきそうな程恥ずかしかった。

「ふふっ……本当に、可愛い」

    再び指が這われ、先端に着地する。
    しこしこと、先程より速度を上げて行われる行為に、アレクトは思わず声を漏らす。

    初めは、どうしても我慢してやろうと、男としての矜恃を護ろうとさえ思っていた彼なのだが……
     
「ふぅっ!……ぅ、あぁ、あ!!」
                                 
    そんな彼が、今や
    弾けるような、奥でどんどんと燻っていくような、そんな理解不能な感覚に身をやつしている。
    
     弄られた乳首は先程以上に硬くなっていき、それに比例するようにして背中が弓のように反れていく。

    男として、決定的な何かが音を立てて崩れていくような感覚に、恐怖を抱く。

「あぁ、…ん…!、あ、アヴィ……!!」

    最早抑えることも叶わない扇情的な声。

    そんな嬌声にも似た何かが、自分の口から発せられているという事実は、粉微塵程にも残ったアレクトの『男』としてのプライドが許さなかった。
    まぁ、許さなかったからと言って、どうなる訳でも無いのだが……。

    それでも、彼は抵抗したーー。

    そしてそれは、更に悪い方向へ進んだ。

「いや……だ…!お、おれ、おとこ……!!」

    ……哀れだ。傍から見ればこれ以上ない程に哀れだ。
     自分より背丈の高い女の子の膝に乗せられ、いいように弄り回されては、抵抗も出来ていない。
    これでは、男としての矜恃など、あってないようなものだ。

    そんな言葉に、アヴィは『待ってました』と言わんばかりに口元を歪めて、嗤った。

「ーーへぇ。じゃあアレクトは、男の子なのに、乳首で感じちゃってるの?」

「……ッ!!?ち、ちが…」

    一体何が違うと言うのか。現状、彼女の発言に事実に背いた事は一切含まれていない。

 「ーー普通、男の子は乳首じゃ感じないんだよ?」

「……や、やめ………」

「ーーそれなのに、感じちゃってるの?」

「……ぃ……っ……」

「ーー『変態』、なんだね♪」

「……ーーーーッ?!!」

    耳元で囁かれたアヴィの一言を切っ掛けに、背中がゾワゾワと反り立つ。
    自分は男であるというアレクトの思いが、アヴィの言葉に一切反論できず打ち負かされる事実に、どうしようもない悔しさとーーー
       
     を覚える。

    それが、俗に『背徳感』と呼ばれているものだと言う事を、彼はまだ知らない。

    『変態』の言葉を皮切りに、アヴィの攻めはより激しいものへと変わっていく。
    先程が与える為のものだとして、今度は無理矢理埋め込むような、そんな遠慮も知らない理不尽とも思える攻めだった。

「ひぁっ、!!あ、ぅぅあっ、ん!!」

    反れた背中に対し、前に押し出た胸の先端を爪でピンピンと弾き、指で挟み、上下左右、前後に斜めも合わせて、360度自在に扱き倒す。

「ふふっ。へ~んたい♪」

「ーーああ″っ!!ひぅ……ぉ…っ!!?」    

    今まで我慢しきれずに漏れていた声は、もはや快楽を逃がすための緊急手段として使用されている。
    事実、現状彼の脳内に『我慢』などという言葉は存在していなかった。

「ほ~ら、こうやって、しーこしーこって…」

「おっ……!!あ″っ……ひぅゃっ……!?」

    彼の意識に滑り込むようにして、可愛らしいソレをピコピコと弾き、摘み、引っ張り、嫌だといっても扱き続ける。

「乳首で感じちゃうへんたいさんには、おしおきが必要だもんね?」

「……お″…っ!!お″あ″ッんっん!!!」

「だ・か・ら、イッちゃえ、へ~んたい♪」

    止めだとでも言うかのように、最後、
ぎゅうっと力を込めて引っ張られた乳首は、溜め込んだ快楽を暴発させた。

「あ″ッひっ、お″~ッッッ!!!!!??」

    腰がガクガクと震え、瞼の裏がチカチカと点滅する。初めて経験したソレが、『イク』という事だと理解する暇すら与えられず、アレクトはその身を捩らせ続けた。

「ふふっ。いい子いい子、上手にイケた
ね~♪」

「あっあ……ひっ……ふぅ……ふぁ……」

     力の抜けた体を女の子に支えられながら、よしよしと頭を撫でられる彼には最後、『男』としてのプライドなんてものは何ひとつとして残らなかった。

「大好きだよ♡アレクト」












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