【R18】あなたが深く愛する人が、私じゃない他の人でも ~身代わりの花嫁は叶わぬ初恋に全てを捧げる~【完結】

瀬月 ゆな

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二周目

嫉妬

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「お待たせして申し訳ございません」

 淡い水色のドレスに身を包んだエリアーヌが玄関ホールに向かうと、ジェラルドと共にすでにいたイザベルが嬉しそうに声をあげた。

「まあ、エリー。とっても似合っていて可愛いわ。殿下もそう思われるでしょう?」
「そうだね。愛らしい妖精が現れたようだ」
「――ありがとうございます」

 イザベルが言わせたことでも、エリアーヌ自身がジェラルドに褒められるのは初めてだ。
 エリアーヌがはにかんだ笑みを浮かべると、イザベルが胸の前で両手を合わせた。

「姉妹でお揃いのドレスを仕立てるのも素敵ね。今度、お願いしましょうか」
「その時は二人に僕からプレゼントするよ」
「よろしいんですか?」
「可憐に着飾るご令嬢にドレスを贈れるのは光栄なことだよ」
「そうですね」

 恥ずかしくも嬉しかった気持ちが、仲睦まじげな二人の様子を目の当たりにしてみるみるしぼんで行く。
 でもお邪魔虫なんてそういうものだ。何よりエリアーヌはこの光景を強く望んでいたではないか。
 それなのに、うさぎと一緒に眠りにつかせた恋心がひどく軋む。

「エリー、いらっしゃい」

 イザベルと一緒に馬車に乗る。

「殿下のお隣じゃなくていいの?」
「今夜はエリーが一緒だもの」

 ジェラルドの隣になんて言いながらも、イザベルの言葉に安堵してしまう。
 正面のシートに一人で座ることになったジェラルドは目を細めた。

「ずいぶんと仲が良いね。少し妬けてしまうかな」
「あら」

 イザベルはいたずらっぽく微笑む。
 ずっと姉妹として一緒に過ごして来たのに、彼女のこんな表情は初めて見る。

「殿下の嫉妬心は本当に少し程度のものかしら」
「少しじゃないとお望み通りに言えば、どうにかなる?」
「いいえ。全くなりませんわ」

 窓の外を眺めるふりをしてエリアーヌは顔を背けた。

 エリアーヌだって、以前はこんなに心が狭くなかった。
 遠くから二人を見ている時は胸を痛めながらも嫉妬なんて微塵も抱かなかったのに。

 誰よりも深く愛されていながら手放したのはイザベルだけじゃない。エリアーヌも同じだ。でもエリアーヌは自分に向けられたものではなかったから、嘘をつくことも、エリアーヌを通してイザベルへの愛を囁かれることにも耐えられなくなった。
 あの夜会で何もしなかったら、どうなっていたのだろう。

(耐えられなくなる日が少し先になっていただけだわ)

 そう。
 一週間後、あるいは一か月後――いずれにしても一年も持たなかったであろうことに変わりない。
 今抱いている感情が、そう裏付けている。

 エリアーヌは鎖骨付近に指を這わせた。
 ちょうど仕立てたドレスがあったから良かったものの、さすがにデザインは合わせられなくて大きく肩が出でいる。だから今目の前にいるジェラルドは知らないとしても、贈ってくれた本人を前にして指輪を通したネックレスは身に着けられなかった。ドレッサーの上に置いた宝石箱の中に、大切にしまってある。

 まだ身に着けるようになって一日なのに、肌に触れていないとジェラルドとの繋がりが完全に絶たれてしまったようで心細さを覚えた。
 手放したものに縋りつくなんて、我ながら憐れで滑稽だと思う。
 だけど想いがないのなら最初から身代わりになんてならず、イザベルのように家を捨てていたはずだ。何の準備もなしに王太子妃になれるほど甘くない。それでも甘さを求めてしまったのは、ジェラルドに恋をしているからだ。

 恋をしている。
 それは今も、過去の思い出ではなかった。


 イザベルとジェラルドとの間にそれ以上の会話もなく、馬車はコードナー伯爵家に到着した。
 ジェラルドから話が通されているのか、招かれざる客であるエリアーヌの参列もすんなりと認めてもらった。けれど、ジェラルドはただでさえ人目を引く存在であるうえに、婚約者の妹とは言え令嬢二人をエスコートしているが為、人々の視線は弥が上にも集まって来る。

 もっとも、エリアーヌはジェラルドの腕を取ることも隣に並び立つこともしていない。イザベルとジェラルドの後ろを一人で歩いている。ただ、それでも二人に気を遣わせてはいるようで、イザベルもまたジェラルドの手を取ってはいなかった。

(あの方は……)

 エリアーヌはふと、遠く離れた場所ですでに招待客同士で歓談している輪に目を留めた。中に一人、見知った青年がいることに気がつく。
 見知ったというほど親しい間柄ではない。でも数日前に顔を合わせ、少しだけ言葉を交わした相手だ。

 間違いない。
 隣国の王太子のルーカスだ。
 この夜会にいたなんて知らなかった。

(ルーカス殿下が、どうしてこのような場に?)

 王城の夜会でのやりとりを思い出す。

『妃殿下とは過去にどこかでお会いしているような気がするが』

 もしかしてイザベルはここでルーカスと顔を合わせていたのだろうか。

『こんなに可憐な僕の妻と会っていたのなら、気がするなどといった曖昧なものではなく、確かな記憶として残っているはずだ』

 だけど、同席していたジェラルドがそう答えていた。
 その口ぶりから察するにイザベルとルーカスにここでの接点はなかったと考えるのが自然だ。

(ジェラルド様が仰っていたように、女性を口説く為の常套句なのかしら)

 考えてみるも、異性に口説かれた経験が一度もないエリアーヌには分からない。

「誰を熱心に見つめてるの?」

 突然、鋭く短い声がかけられ、エリアーヌは思わず華奢な身体を竦ませる。

「殿下?」

 前を歩くジェラルドが足を止めてエリアーヌを見つめていた。

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