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計画
結婚
「ではやっぱり、夜会でのお姉様は体調が良くなかったのですね」
「そうだね。エリアーヌがすぐ気がついてくれたおかげだとチャールズが感謝していたよ」
「私は、何も……。そもそもお姉様が夜会の最中に体調を悪くされるなんて、以前は起きていないことでした」
エリアーヌは悲しそうに眉を下げた。
確かにエリアーヌが言うように、前回のイザベルは夜会中に体調を悪くすることはなかった。それはあの夜会で〝イザベルがジェラルドを裏切る何らかの行動〟を起こすことを心配したエリアーヌの影響かもしれないし、別の要素が原因かもしれない。
ただ少なくともルーカスがエリアーヌに接触して来たことは、どう考えても彼女が一緒に来た為だ。
「それに、お姉様が家を出られるのは二か月ほど先の出来事のはずです」
「ルーカスが君に求婚したと聞かされて、悠長に待っている場合じゃなくなったからね」
「そもそもどうして駆け落ちを……」
「簡単に言うなら王家の優位性を保ちつつ、君を次の婚約者にしたかった」
「え……」
次々に質問しては返って来た答えにエリアーヌは戸惑った様子を見せる。
その髪を一房掬い取り、ジェラルドは口づけた。
「エリアーヌにしたら気分が良くないかもしれないが、まずはオーベルハーク侯爵家に責がある状態でイザベル嬢との婚姻を保留にすることを優先させた」
「婚約の解消ではなく、保留、ですか……?」
「うん。もし仮に解消したらイザベル嬢との婚約関係を結ぶことに反対していた有力貴族たちが、ここぞとばかりに自分の娘やら孫娘といった血縁者との婚約を結ばせようとして来るだろうからね」
「あ……」
令嬢の釣り書きを持って大挙する貴族たちの姿を想像したのか、エリアーヌの表情が沈む。
それは他の令嬢と婚約するのは嫌だと感じてくれているからだろうか。エリアーヌの場合は、イザベル以外の令嬢と婚約することを悲しく思ったのかもしれないが。
話が脱線してしまうが、エリアーヌの気持ちを確認してみたくなる。
「エリアーヌが浮かない表情なのは、僕がイザベル嬢以外の令嬢と婚約していたかもしれないことに対して? それとも、他の令嬢と婚約すること自体が嫌だから? エリアーヌの素直な気持ちを聞かせて欲しい」
頬を包んで顔をのぞき込むとエリアーヌの翠色の瞳が揺れた。
迷いが伝わって来る。
だが、何に対する迷いなのかを、知りたい。
「お伝えしても……私のことを嫌いになったりはしませんか……?」
それだけで答えが分かったようで、口元が緩みそうになる。
ジェラルドは懸命に真面目な顔をして取り繕いながら頷いた。
「ならないって約束するよ」
「だったら、誰とも婚約なんて……私以外の誰かのものになって欲しく、ないです」
「それは、想像していた以上の答えなんだけど」
不安を抱え、今にも泣き出してしまいそうな表情で想いを伝えてくれるエリアーヌが可愛くて、愛おしくてたまらない。
抑えきれずに抱きしめると首に両手を回して縋りつかれた。エリアーヌがこの仕草をする時の状況からか、それはひどく甘えられているようで抱きしめる腕に力を込める。
「浅ましくて、ごめんなさい……」
エリアーヌはずっと、自分の気持ちをそんな風に思っていたのだろうか。
そう思えば言動にそれらしい心当たりがいくつかある気がした。
「浅ましいとか思わないよ。可愛すぎて、今すぐ話なんか一旦切り上げたくなる」
軽く言ってみせたが本心だった。
口づけをしながら押し倒し、その肢体を貪り尽くしたい。
だが、それはエリアーヌが今抱えている憂いを全て取り払ってからだ。
「エリアーヌ。今日も後でまた、たくさんしよう?」
耳元に囁くとエリアーヌは耳まで真っ赤に染めて小さく頷く。
我ながら思った以上に単純なようだ。ジェラルドはやる気に満ちて行く。
「じゃあ話を戻そうか。前回の決行は式の約一か月前で、今さら取りやめにはできない時だった」
「それでお父様たちは……私にお姉様の身代わりを務めるように命じました」
エリアーヌの声に悲し気な色が滲んだ。
自分が望まれているわけでもないのに嫁ぐ。
当時のエリアーヌの心は悲しい想いでいっぱいだったに違いない。
言えば良かった。
本当はエリアーヌこそを花嫁に望んでいるのだと。
それだけは今でもひどく後悔している。
「イザベル嬢が言っていたんだ。オーベルハーク侯爵の性格なら自分が家を出たことを絶対に王家に報告しないだろう、と」
「お姉様が……?」
娘だけあり、イザベルの読みは完璧だった。
「式の当日まで忙しくて顔も見に行けなかったのは事実で、イザベル嬢から侯爵の行動の予測を聞いていても花嫁の姿を見て僕はすごく驚いた」
今でもはっきりと覚えている。
教会でジェラルドを待っていたのは、淡く輝く白い光に包まれたエリアーヌだった。
だが誰も、花嫁が別人だと騒ぎ立ててはいない。緊張した面持ちでウェディングドレスを着る可憐な花嫁の姿を、微笑ましく眺めているだけだ。
エリアーヌを求めるあまり、ジェラルドにだけ幻覚が見えているのか。
傍に近寄った途端、夢のように消えてしまうかもしれない。
ゆっくりと歩み寄ると甘く優しい花の匂いが香り、彼女がエリアーヌに間違いないと教えてくれる。
エリアーヌの周りを包む光がおそらく魔力なのだろう。
変化か、あるいは見る者の認知を魔法で歪めているのか。
いずれにしてもイザベルの代わりにエリアーヌがジェラルドの花嫁になろうとしている。
そう思った瞬間、自分は賭けに勝ったことをジェラルドは知ったのだ。
「そうだね。エリアーヌがすぐ気がついてくれたおかげだとチャールズが感謝していたよ」
「私は、何も……。そもそもお姉様が夜会の最中に体調を悪くされるなんて、以前は起きていないことでした」
エリアーヌは悲しそうに眉を下げた。
確かにエリアーヌが言うように、前回のイザベルは夜会中に体調を悪くすることはなかった。それはあの夜会で〝イザベルがジェラルドを裏切る何らかの行動〟を起こすことを心配したエリアーヌの影響かもしれないし、別の要素が原因かもしれない。
ただ少なくともルーカスがエリアーヌに接触して来たことは、どう考えても彼女が一緒に来た為だ。
「それに、お姉様が家を出られるのは二か月ほど先の出来事のはずです」
「ルーカスが君に求婚したと聞かされて、悠長に待っている場合じゃなくなったからね」
「そもそもどうして駆け落ちを……」
「簡単に言うなら王家の優位性を保ちつつ、君を次の婚約者にしたかった」
「え……」
次々に質問しては返って来た答えにエリアーヌは戸惑った様子を見せる。
その髪を一房掬い取り、ジェラルドは口づけた。
「エリアーヌにしたら気分が良くないかもしれないが、まずはオーベルハーク侯爵家に責がある状態でイザベル嬢との婚姻を保留にすることを優先させた」
「婚約の解消ではなく、保留、ですか……?」
「うん。もし仮に解消したらイザベル嬢との婚約関係を結ぶことに反対していた有力貴族たちが、ここぞとばかりに自分の娘やら孫娘といった血縁者との婚約を結ばせようとして来るだろうからね」
「あ……」
令嬢の釣り書きを持って大挙する貴族たちの姿を想像したのか、エリアーヌの表情が沈む。
それは他の令嬢と婚約するのは嫌だと感じてくれているからだろうか。エリアーヌの場合は、イザベル以外の令嬢と婚約することを悲しく思ったのかもしれないが。
話が脱線してしまうが、エリアーヌの気持ちを確認してみたくなる。
「エリアーヌが浮かない表情なのは、僕がイザベル嬢以外の令嬢と婚約していたかもしれないことに対して? それとも、他の令嬢と婚約すること自体が嫌だから? エリアーヌの素直な気持ちを聞かせて欲しい」
頬を包んで顔をのぞき込むとエリアーヌの翠色の瞳が揺れた。
迷いが伝わって来る。
だが、何に対する迷いなのかを、知りたい。
「お伝えしても……私のことを嫌いになったりはしませんか……?」
それだけで答えが分かったようで、口元が緩みそうになる。
ジェラルドは懸命に真面目な顔をして取り繕いながら頷いた。
「ならないって約束するよ」
「だったら、誰とも婚約なんて……私以外の誰かのものになって欲しく、ないです」
「それは、想像していた以上の答えなんだけど」
不安を抱え、今にも泣き出してしまいそうな表情で想いを伝えてくれるエリアーヌが可愛くて、愛おしくてたまらない。
抑えきれずに抱きしめると首に両手を回して縋りつかれた。エリアーヌがこの仕草をする時の状況からか、それはひどく甘えられているようで抱きしめる腕に力を込める。
「浅ましくて、ごめんなさい……」
エリアーヌはずっと、自分の気持ちをそんな風に思っていたのだろうか。
そう思えば言動にそれらしい心当たりがいくつかある気がした。
「浅ましいとか思わないよ。可愛すぎて、今すぐ話なんか一旦切り上げたくなる」
軽く言ってみせたが本心だった。
口づけをしながら押し倒し、その肢体を貪り尽くしたい。
だが、それはエリアーヌが今抱えている憂いを全て取り払ってからだ。
「エリアーヌ。今日も後でまた、たくさんしよう?」
耳元に囁くとエリアーヌは耳まで真っ赤に染めて小さく頷く。
我ながら思った以上に単純なようだ。ジェラルドはやる気に満ちて行く。
「じゃあ話を戻そうか。前回の決行は式の約一か月前で、今さら取りやめにはできない時だった」
「それでお父様たちは……私にお姉様の身代わりを務めるように命じました」
エリアーヌの声に悲し気な色が滲んだ。
自分が望まれているわけでもないのに嫁ぐ。
当時のエリアーヌの心は悲しい想いでいっぱいだったに違いない。
言えば良かった。
本当はエリアーヌこそを花嫁に望んでいるのだと。
それだけは今でもひどく後悔している。
「イザベル嬢が言っていたんだ。オーベルハーク侯爵の性格なら自分が家を出たことを絶対に王家に報告しないだろう、と」
「お姉様が……?」
娘だけあり、イザベルの読みは完璧だった。
「式の当日まで忙しくて顔も見に行けなかったのは事実で、イザベル嬢から侯爵の行動の予測を聞いていても花嫁の姿を見て僕はすごく驚いた」
今でもはっきりと覚えている。
教会でジェラルドを待っていたのは、淡く輝く白い光に包まれたエリアーヌだった。
だが誰も、花嫁が別人だと騒ぎ立ててはいない。緊張した面持ちでウェディングドレスを着る可憐な花嫁の姿を、微笑ましく眺めているだけだ。
エリアーヌを求めるあまり、ジェラルドにだけ幻覚が見えているのか。
傍に近寄った途端、夢のように消えてしまうかもしれない。
ゆっくりと歩み寄ると甘く優しい花の匂いが香り、彼女がエリアーヌに間違いないと教えてくれる。
エリアーヌの周りを包む光がおそらく魔力なのだろう。
変化か、あるいは見る者の認知を魔法で歪めているのか。
いずれにしてもイザベルの代わりにエリアーヌがジェラルドの花嫁になろうとしている。
そう思った瞬間、自分は賭けに勝ったことをジェラルドは知ったのだ。
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