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計画
別離
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「ジェラルド様は最初から、私だと気がつかれていたのですね」
「これでも魔力の強い王家の一員だからね」
「念の為に聖水晶で魔力を補ってもいたのに……」
正体が知られていたことに不満そうな表情が可愛い。
ジェラルドは機嫌を取るようにエリアーヌのこめかみに唇を寄せた。
「でも、すぐに君だと分かったいちばん大きな理由は愛の力だよ」
「いきなりそんなことを仰るの……ずるいです」
「灯りを消した状態なら触れても良いと言われた時は初めて神に深く感謝した。不安そうにベッドに横たわっているのは、淡い光の消えた君だったから」
エリアーヌとして抱かれようとしている。
自惚れだろうと、そう思った瞬間の昂ぶりは忘れられない。
あの時の昂ぶりが再び息づきはじめ、赤く色づいた耳を優しく食んだ。
エリアーヌは華奢な身体をわずかに弾ませ、吐息をこぼした。その熱がジェラルドの理性をさらに揺らす。せっかく我慢したのに早々に意味がなくなりつつある。非常に名残惜しいが唇を離して抱き留め直した。
「ジェラルド様は、本当は見えていらっしゃるのかもしれないと思っていました。でも見えているのなら、お姉様じゃないことについて何か仰るはず……。でも仰らないし、このまま大丈夫……?って色々と考えていたら、それは見抜かれてしまって」
「子供を作らないで欲しいと願ったのは何故?」
「一年だけの身代わりという約束を両親としました。だから子供ができてしまったら一年では済まされなくなってしまいますし、もし私に似た子供が生まれてしまったら言い訳ができないと思ったのです」
「そういう理由なら、約束を破れば良かった」
もしエリアーヌが身籠っていたら、自分の中に芽生えた命を優先させてジェラルドを庇わなかったかもしれない。
ずっと傍にいてくれたかもしれない。
ジェラルドのそんな考えを見透かしたように、エリアーヌは寂しそうに微笑みながら頬に触れた。
「それでも私は、同じように身を投げ出していたと思います。お姉様として、ジェラルド様からの寵愛をお受けすることが悲しくて苦しかったので」
おそらくは寿命を迎えて旅立ったうさぎにエリアーヌができることはなかった。だが彼女は自分の無力さを悲しんでいた。
一方でジェラルドがエリアーヌにできることはいくらでもあった。
「君がイザベル嬢の身代わりを果たそうとするなら、何よりもその気持ちを尊重しようと考えていた。だから〝イザベル〟とは絶対に呼ばずに、ずっと〝君〟と呼んで愛を囁き続けた」
「あ……」
思い当たることがあったのか、エリアーヌは少しの間を空けて小さな声をあげる。
どうやら自然に、エリアーヌと分かっていながら気がついていないふりができていたようだ。
「だけど、一度でも君の名前を呼びながら愛していると伝えたら良かった」
たとえ周りに公表はできなくても、ジェラルドだけは分かっていると、二人だけの秘密として共有したら良かったのだ。
エリアーヌが願った〝子供を作らない一年〟の間に状況を変えたら良い。
それは結果的に、オーベルハーク侯爵夫妻がエリアーヌに身代わりをさせようとした理由と同じだ。
ジェラルドだけがエリアーヌの味方になれていたのに、その権利を目先の策に溺れてみすみすと手放していた。
「ずっとつらい想いをさせて、本当にごめん」
「ジェラルド様が謝罪なさる必要はございませんわ。お傍にいられて幸せを感じていたことも事実ですから」
謝罪なんて自分の罪悪感を弱める為のものだ。
分かっていても、エリアーヌに言わずにはいられなかった。
「それでも、過去の僕が愚かだったことに変わりない」
「でしたらこれからは、エリアーヌとしてジェラルド様のお傍にいても良いでしょうか。私も伝えたら良かったのに、騙していることが知られたら嫌われてしまうと思って何も言えなくてごめんなさい」
「エリアーヌが謝る必要こそないよ」
結局は気持ちを抑えられずに唇を重ねる。ただ、理性を総動員させて重ねるだけに留めた。
「もう二度と、何があっても離したりはしないと約束する」
ようやく手に入ったのだ。
今さら他の誰に渡せるというのか。
「あの時……私の姿は元に戻っていたのでしょうか」
エリアーヌの言う〝あの時〟とはジェラルドを庇った時のことなのだろう。
思い出せばジェラルドの胸を鈍く軋ませる。
だが、二人で前に進む為には一緒に乗り越えなければならない。
「うん。だから僕はすぐに自分のジャケットで君を包むと、誰にも見られないように抱き上げて部屋に連れて行った」
「やっぱり、魔力が切れて変化魔法の効果もなくなってしまったのですね」
ジェラルドは右手でエリアーヌを抱き留めたまま、左手だけで顔全体を覆った。
まだ上手く処理しきれずに荒れる心を鎮めるべく何度も深呼吸を繰り返す。
「ジェラルド様……」
エリアーヌの小さな両手が、ジェラルドの左手を包み込む。
「ありがとう、エリアーヌ」
「いえ」
柔らかく微笑むエリアーヌに、心が落ち着きを取り戻す。
サロン内はイザベルの姿から見知らぬ令嬢の姿になって行くことで騒然としていた。
客観的に見たら、あろうことか別人が王太子妃に成りすましていたことがあかるみになったのだ。騒ぎになるのも無理はない。
だがジェラルドはエリアーヌを守ることだけが最優先されるべき事項だった。
最愛の妃の命を突然奪って行った、憎んでも憎みきれない存在を激しい怒りに任せて魔力で拘束する。
「すぐに身柄を確保した襲撃犯を調べた結果、手引きしたのはオーベルハーク侯爵だと判断された」
「お父様が……?」
「これでも魔力の強い王家の一員だからね」
「念の為に聖水晶で魔力を補ってもいたのに……」
正体が知られていたことに不満そうな表情が可愛い。
ジェラルドは機嫌を取るようにエリアーヌのこめかみに唇を寄せた。
「でも、すぐに君だと分かったいちばん大きな理由は愛の力だよ」
「いきなりそんなことを仰るの……ずるいです」
「灯りを消した状態なら触れても良いと言われた時は初めて神に深く感謝した。不安そうにベッドに横たわっているのは、淡い光の消えた君だったから」
エリアーヌとして抱かれようとしている。
自惚れだろうと、そう思った瞬間の昂ぶりは忘れられない。
あの時の昂ぶりが再び息づきはじめ、赤く色づいた耳を優しく食んだ。
エリアーヌは華奢な身体をわずかに弾ませ、吐息をこぼした。その熱がジェラルドの理性をさらに揺らす。せっかく我慢したのに早々に意味がなくなりつつある。非常に名残惜しいが唇を離して抱き留め直した。
「ジェラルド様は、本当は見えていらっしゃるのかもしれないと思っていました。でも見えているのなら、お姉様じゃないことについて何か仰るはず……。でも仰らないし、このまま大丈夫……?って色々と考えていたら、それは見抜かれてしまって」
「子供を作らないで欲しいと願ったのは何故?」
「一年だけの身代わりという約束を両親としました。だから子供ができてしまったら一年では済まされなくなってしまいますし、もし私に似た子供が生まれてしまったら言い訳ができないと思ったのです」
「そういう理由なら、約束を破れば良かった」
もしエリアーヌが身籠っていたら、自分の中に芽生えた命を優先させてジェラルドを庇わなかったかもしれない。
ずっと傍にいてくれたかもしれない。
ジェラルドのそんな考えを見透かしたように、エリアーヌは寂しそうに微笑みながら頬に触れた。
「それでも私は、同じように身を投げ出していたと思います。お姉様として、ジェラルド様からの寵愛をお受けすることが悲しくて苦しかったので」
おそらくは寿命を迎えて旅立ったうさぎにエリアーヌができることはなかった。だが彼女は自分の無力さを悲しんでいた。
一方でジェラルドがエリアーヌにできることはいくらでもあった。
「君がイザベル嬢の身代わりを果たそうとするなら、何よりもその気持ちを尊重しようと考えていた。だから〝イザベル〟とは絶対に呼ばずに、ずっと〝君〟と呼んで愛を囁き続けた」
「あ……」
思い当たることがあったのか、エリアーヌは少しの間を空けて小さな声をあげる。
どうやら自然に、エリアーヌと分かっていながら気がついていないふりができていたようだ。
「だけど、一度でも君の名前を呼びながら愛していると伝えたら良かった」
たとえ周りに公表はできなくても、ジェラルドだけは分かっていると、二人だけの秘密として共有したら良かったのだ。
エリアーヌが願った〝子供を作らない一年〟の間に状況を変えたら良い。
それは結果的に、オーベルハーク侯爵夫妻がエリアーヌに身代わりをさせようとした理由と同じだ。
ジェラルドだけがエリアーヌの味方になれていたのに、その権利を目先の策に溺れてみすみすと手放していた。
「ずっとつらい想いをさせて、本当にごめん」
「ジェラルド様が謝罪なさる必要はございませんわ。お傍にいられて幸せを感じていたことも事実ですから」
謝罪なんて自分の罪悪感を弱める為のものだ。
分かっていても、エリアーヌに言わずにはいられなかった。
「それでも、過去の僕が愚かだったことに変わりない」
「でしたらこれからは、エリアーヌとしてジェラルド様のお傍にいても良いでしょうか。私も伝えたら良かったのに、騙していることが知られたら嫌われてしまうと思って何も言えなくてごめんなさい」
「エリアーヌが謝る必要こそないよ」
結局は気持ちを抑えられずに唇を重ねる。ただ、理性を総動員させて重ねるだけに留めた。
「もう二度と、何があっても離したりはしないと約束する」
ようやく手に入ったのだ。
今さら他の誰に渡せるというのか。
「あの時……私の姿は元に戻っていたのでしょうか」
エリアーヌの言う〝あの時〟とはジェラルドを庇った時のことなのだろう。
思い出せばジェラルドの胸を鈍く軋ませる。
だが、二人で前に進む為には一緒に乗り越えなければならない。
「うん。だから僕はすぐに自分のジャケットで君を包むと、誰にも見られないように抱き上げて部屋に連れて行った」
「やっぱり、魔力が切れて変化魔法の効果もなくなってしまったのですね」
ジェラルドは右手でエリアーヌを抱き留めたまま、左手だけで顔全体を覆った。
まだ上手く処理しきれずに荒れる心を鎮めるべく何度も深呼吸を繰り返す。
「ジェラルド様……」
エリアーヌの小さな両手が、ジェラルドの左手を包み込む。
「ありがとう、エリアーヌ」
「いえ」
柔らかく微笑むエリアーヌに、心が落ち着きを取り戻す。
サロン内はイザベルの姿から見知らぬ令嬢の姿になって行くことで騒然としていた。
客観的に見たら、あろうことか別人が王太子妃に成りすましていたことがあかるみになったのだ。騒ぎになるのも無理はない。
だがジェラルドはエリアーヌを守ることだけが最優先されるべき事項だった。
最愛の妃の命を突然奪って行った、憎んでも憎みきれない存在を激しい怒りに任せて魔力で拘束する。
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