【R18】あなたが深く愛する人が、私じゃない他の人でも ~身代わりの花嫁は叶わぬ初恋に全てを捧げる~【完結】

瀬月 ゆな

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計画

陰謀

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 エリアーヌは瞳を揺らめかせた。
 自分の父親が王家へ反逆の意思を持っているに等しいことが判明したのだ。驚き、不安になるのも当然だろう。

「その前に少し、時間軸の整理をしようか」
「は、はい」

 頷きはしたものの、話されることは自分が命を落とした瞬間と、父親の謀反疑惑だ。聞く必要があるから聞こうとしてくれているが、できることなら聞きたくはないに違いない。

「エリアーヌ、これ以上聞くのはつらいって思ったら正直に言ってくれて良いから」
「分かりました。お心遣いありがとうございます。でも……」
「でも?」

 途切れた言葉の先を促せばエリアーヌは恥ずかしそうに視線を下げる。

「手を……繋いでいて、欲しいです」
「うん。それでエリアーヌが安心できるならしっかりと繋いで離さないよ」

 可愛いおねだりを聞くのは全く苦ではなかった。
 ジェラルドは上から包み込むようにエリアーヌの手を取り、指を絡めた。

「もう大丈夫です。だから続きをお話しして下さい」
「まず最初に、大量の血を流していることで顔からも血の気が失せて行く君が、イザベル嬢から本来の姿に戻って行っていることに気がついた。僕の目には君はずっとエリアーヌの姿で映ってはいるけれど、君の周囲を包んでいる白い光が消えて行くのが見えたからだ」

 光に包まれていないエリアーヌを見るのは、ジェラルドが肌に触れることを望んだ夜だけだった。
 エリアーヌが自らにかけた魔法を人前で解くとは思えない。つまり、魔力の維持ができない状態にある。直前にエリアーヌは深い傷を負っており、それが原因であることは明白だった。

「治癒魔法をかけても回復が追いつかず、僕は君の姿が不特定多数の目に触れる前に自分のジャケットを脱いで君を包み込んだ。もっとも、その行動も少し遅かったようだけれどね」

 ジェラルドは自嘲気味な笑みを浮かべる。
 真っ先にエリアーヌを包み隠すべきだった。懸命に姿を偽り続けていたエリアーヌを、誰の目にも触れさせてはならなかったのだ。

「私に防護魔法をかけて下さっていたと仰っていたのが、聞こえていました」
「――うん」

 思わず深い吐息がこぼれる。

 自分の力を過信しすぎてもいた。
 この国でも屈指の魔力を誇る自分がかけた防護魔法に包まれたエリアーヌを誰も傷つけることはできないと、信じて疑っていなかった。
 自分がエリアーヌを最も傷つけていることも気がつかず、思い上がっていたのだ。

「あの日、私はいつも以上に心が張り詰めていました。絶対に本当の姿を現すことがあってはいけないと……だからジェラルド様の強い魔力も、聖水晶の力を使って無意識に利用していたのかもしれません」
「せっかく君が頼ってくれていたのに、役に立ちきれなかったね」
「ジェラルド様のせいではありませんわ」

 エリアーヌが手のひらを上に向け、ジェラルドの指を握り返す。

「下手をしたら私は魔力の制御に失敗して、夜会を混乱に陥れていた可能性だってないとは言い切れません」

 可能性を上げればキリがない。
 だが、自分も責任を負おうとしているエリアーヌの気持ちを汲んで何も言わなかった。ただ、壊してしまわないように気を配りながら指を繋ぐ。それだけだ。

「それに、闖入者が所持していた武器の刃には何か毒物が塗られているようでした。身体が痺れたように動かなくなったことを覚えています」
「そうみたいだね。後で報告が上がっていた。――君を傷つけた男は逃げる気配を見せもしなかったが、魔力で拘束すると後は衛兵に任せて夜会を後にした」

 自室へと戻った頃には、腕の中のエリアーヌの身体は完全に冷たくなっていた。

 ベッドに横たえれば、眠っているだけのように見える。
 だから明日を迎えれば目を覚ましてくれるのではないか。
 そんな希望も抱いたが、それは自分の願望でしかないことも分かっていた。

「翌日、僕はオーベルハーク侯爵家に一報を送ることもなく、君を弔った。夜会でのことは僕が連絡せずとも侯爵の耳に入ることは間違いなかったし、君を僕の妃として眠らせたいと思ったからだ」
「それでは私のお墓は、ジェラルド様が……?」
「君は嫌がるかもしれないけれど、僕が君のところへ行く日が来たら同じ場所で眠れるように手配した」
「嫌では、ないです」
「ありがとう」

 綺麗な花がたくさん咲き誇る場所を選んだ。
 エリアーヌがうさぎを見送った場所と、できるだけ良く似せた。

 彼女の為に何ができたのか、考え続けられるように。

「夜会から一週間も経たないうちに男の尋問は終わった。いかにも見つけて下さいと言わんばかりの杜撰さで、オーベルハーク侯爵に繋がる物的証拠が次々と出て来たからだ」
「本当に、父がそのようなことを企てていたとは私には思えません」
「僕もそう思うよ。イザベル嬢を王太子妃にしておきながら、僕を殺そうとするメリットは少ないからね」

 思惑通りジェラルドが暗殺なりされたとして、王位継承権が王太子妃のイザベルに移ることはもちろんだが発生すらしない。
 二人の間に王子が生まれているわけでも、懐妊しているわけでもなかった。
 少なくとも現時点ではオーベルハーク侯爵にもたらされるメリットは皆無だと言ってもいい。
 野心家の侯爵が取る行動と考えると、辻褄が一切合わないのだ。

「誰が何を企んでいようと、僕にはどうでも良かった。真相を突き止めようと君が帰って来てくれるわけじゃない。君が眠る場所で日々を過ごし、君の為なら何でもすると心の底からひたすら願った。そうして――コードナー伯爵家で開かれる夜会の前日に、僕は戻っていた」

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