27 / 39
計画
陰謀
しおりを挟む
エリアーヌは瞳を揺らめかせた。
自分の父親が王家へ反逆の意思を持っているに等しいことが判明したのだ。驚き、不安になるのも当然だろう。
「その前に少し、時間軸の整理をしようか」
「は、はい」
頷きはしたものの、話されることは自分が命を落とした瞬間と、父親の謀反疑惑だ。聞く必要があるから聞こうとしてくれているが、できることなら聞きたくはないに違いない。
「エリアーヌ、これ以上聞くのはつらいって思ったら正直に言ってくれて良いから」
「分かりました。お心遣いありがとうございます。でも……」
「でも?」
途切れた言葉の先を促せばエリアーヌは恥ずかしそうに視線を下げる。
「手を……繋いでいて、欲しいです」
「うん。それでエリアーヌが安心できるならしっかりと繋いで離さないよ」
可愛いおねだりを聞くのは全く苦ではなかった。
ジェラルドは上から包み込むようにエリアーヌの手を取り、指を絡めた。
「もう大丈夫です。だから続きをお話しして下さい」
「まず最初に、大量の血を流していることで顔からも血の気が失せて行く君が、イザベル嬢から本来の姿に戻って行っていることに気がついた。僕の目には君はずっとエリアーヌの姿で映ってはいるけれど、君の周囲を包んでいる白い光が消えて行くのが見えたからだ」
光に包まれていないエリアーヌを見るのは、ジェラルドが肌に触れることを望んだ夜だけだった。
エリアーヌが自らにかけた魔法を人前で解くとは思えない。つまり、魔力の維持ができない状態にある。直前にエリアーヌは深い傷を負っており、それが原因であることは明白だった。
「治癒魔法をかけても回復が追いつかず、僕は君の姿が不特定多数の目に触れる前に自分のジャケットを脱いで君を包み込んだ。もっとも、その行動も少し遅かったようだけれどね」
ジェラルドは自嘲気味な笑みを浮かべる。
真っ先にエリアーヌを包み隠すべきだった。懸命に姿を偽り続けていたエリアーヌを、誰の目にも触れさせてはならなかったのだ。
「私に防護魔法をかけて下さっていたと仰っていたのが、聞こえていました」
「――うん」
思わず深い吐息がこぼれる。
自分の力を過信しすぎてもいた。
この国でも屈指の魔力を誇る自分がかけた防護魔法に包まれたエリアーヌを誰も傷つけることはできないと、信じて疑っていなかった。
自分がエリアーヌを最も傷つけていることも気がつかず、思い上がっていたのだ。
「あの日、私はいつも以上に心が張り詰めていました。絶対に本当の姿を現すことがあってはいけないと……だからジェラルド様の強い魔力も、聖水晶の力を使って無意識に利用していたのかもしれません」
「せっかく君が頼ってくれていたのに、役に立ちきれなかったね」
「ジェラルド様のせいではありませんわ」
エリアーヌが手のひらを上に向け、ジェラルドの指を握り返す。
「下手をしたら私は魔力の制御に失敗して、夜会を混乱に陥れていた可能性だってないとは言い切れません」
可能性を上げればキリがない。
だが、自分も責任を負おうとしているエリアーヌの気持ちを汲んで何も言わなかった。ただ、壊してしまわないように気を配りながら指を繋ぐ。それだけだ。
「それに、闖入者が所持していた武器の刃には何か毒物が塗られているようでした。身体が痺れたように動かなくなったことを覚えています」
「そうみたいだね。後で報告が上がっていた。――君を傷つけた男は逃げる気配を見せもしなかったが、魔力で拘束すると後は衛兵に任せて夜会を後にした」
自室へと戻った頃には、腕の中のエリアーヌの身体は完全に冷たくなっていた。
ベッドに横たえれば、眠っているだけのように見える。
だから明日を迎えれば目を覚ましてくれるのではないか。
そんな希望も抱いたが、それは自分の願望でしかないことも分かっていた。
「翌日、僕はオーベルハーク侯爵家に一報を送ることもなく、君を弔った。夜会でのことは僕が連絡せずとも侯爵の耳に入ることは間違いなかったし、君を僕の妃として眠らせたいと思ったからだ」
「それでは私のお墓は、ジェラルド様が……?」
「君は嫌がるかもしれないけれど、僕が君のところへ行く日が来たら同じ場所で眠れるように手配した」
「嫌では、ないです」
「ありがとう」
綺麗な花がたくさん咲き誇る場所を選んだ。
エリアーヌがうさぎを見送った場所と、できるだけ良く似せた。
彼女の為に何ができたのか、考え続けられるように。
「夜会から一週間も経たないうちに男の尋問は終わった。いかにも見つけて下さいと言わんばかりの杜撰さで、オーベルハーク侯爵に繋がる物的証拠が次々と出て来たからだ」
「本当に、父がそのようなことを企てていたとは私には思えません」
「僕もそう思うよ。イザベル嬢を王太子妃にしておきながら、僕を殺そうとするメリットは少ないからね」
思惑通りジェラルドが暗殺なりされたとして、王位継承権が王太子妃のイザベルに移ることはもちろんだが発生すらしない。
二人の間に王子が生まれているわけでも、懐妊しているわけでもなかった。
少なくとも現時点ではオーベルハーク侯爵にもたらされるメリットは皆無だと言ってもいい。
野心家の侯爵が取る行動と考えると、辻褄が一切合わないのだ。
「誰が何を企んでいようと、僕にはどうでも良かった。真相を突き止めようと君が帰って来てくれるわけじゃない。君が眠る場所で日々を過ごし、君の為なら何でもすると心の底からひたすら願った。そうして――コードナー伯爵家で開かれる夜会の前日に、僕は戻っていた」
自分の父親が王家へ反逆の意思を持っているに等しいことが判明したのだ。驚き、不安になるのも当然だろう。
「その前に少し、時間軸の整理をしようか」
「は、はい」
頷きはしたものの、話されることは自分が命を落とした瞬間と、父親の謀反疑惑だ。聞く必要があるから聞こうとしてくれているが、できることなら聞きたくはないに違いない。
「エリアーヌ、これ以上聞くのはつらいって思ったら正直に言ってくれて良いから」
「分かりました。お心遣いありがとうございます。でも……」
「でも?」
途切れた言葉の先を促せばエリアーヌは恥ずかしそうに視線を下げる。
「手を……繋いでいて、欲しいです」
「うん。それでエリアーヌが安心できるならしっかりと繋いで離さないよ」
可愛いおねだりを聞くのは全く苦ではなかった。
ジェラルドは上から包み込むようにエリアーヌの手を取り、指を絡めた。
「もう大丈夫です。だから続きをお話しして下さい」
「まず最初に、大量の血を流していることで顔からも血の気が失せて行く君が、イザベル嬢から本来の姿に戻って行っていることに気がついた。僕の目には君はずっとエリアーヌの姿で映ってはいるけれど、君の周囲を包んでいる白い光が消えて行くのが見えたからだ」
光に包まれていないエリアーヌを見るのは、ジェラルドが肌に触れることを望んだ夜だけだった。
エリアーヌが自らにかけた魔法を人前で解くとは思えない。つまり、魔力の維持ができない状態にある。直前にエリアーヌは深い傷を負っており、それが原因であることは明白だった。
「治癒魔法をかけても回復が追いつかず、僕は君の姿が不特定多数の目に触れる前に自分のジャケットを脱いで君を包み込んだ。もっとも、その行動も少し遅かったようだけれどね」
ジェラルドは自嘲気味な笑みを浮かべる。
真っ先にエリアーヌを包み隠すべきだった。懸命に姿を偽り続けていたエリアーヌを、誰の目にも触れさせてはならなかったのだ。
「私に防護魔法をかけて下さっていたと仰っていたのが、聞こえていました」
「――うん」
思わず深い吐息がこぼれる。
自分の力を過信しすぎてもいた。
この国でも屈指の魔力を誇る自分がかけた防護魔法に包まれたエリアーヌを誰も傷つけることはできないと、信じて疑っていなかった。
自分がエリアーヌを最も傷つけていることも気がつかず、思い上がっていたのだ。
「あの日、私はいつも以上に心が張り詰めていました。絶対に本当の姿を現すことがあってはいけないと……だからジェラルド様の強い魔力も、聖水晶の力を使って無意識に利用していたのかもしれません」
「せっかく君が頼ってくれていたのに、役に立ちきれなかったね」
「ジェラルド様のせいではありませんわ」
エリアーヌが手のひらを上に向け、ジェラルドの指を握り返す。
「下手をしたら私は魔力の制御に失敗して、夜会を混乱に陥れていた可能性だってないとは言い切れません」
可能性を上げればキリがない。
だが、自分も責任を負おうとしているエリアーヌの気持ちを汲んで何も言わなかった。ただ、壊してしまわないように気を配りながら指を繋ぐ。それだけだ。
「それに、闖入者が所持していた武器の刃には何か毒物が塗られているようでした。身体が痺れたように動かなくなったことを覚えています」
「そうみたいだね。後で報告が上がっていた。――君を傷つけた男は逃げる気配を見せもしなかったが、魔力で拘束すると後は衛兵に任せて夜会を後にした」
自室へと戻った頃には、腕の中のエリアーヌの身体は完全に冷たくなっていた。
ベッドに横たえれば、眠っているだけのように見える。
だから明日を迎えれば目を覚ましてくれるのではないか。
そんな希望も抱いたが、それは自分の願望でしかないことも分かっていた。
「翌日、僕はオーベルハーク侯爵家に一報を送ることもなく、君を弔った。夜会でのことは僕が連絡せずとも侯爵の耳に入ることは間違いなかったし、君を僕の妃として眠らせたいと思ったからだ」
「それでは私のお墓は、ジェラルド様が……?」
「君は嫌がるかもしれないけれど、僕が君のところへ行く日が来たら同じ場所で眠れるように手配した」
「嫌では、ないです」
「ありがとう」
綺麗な花がたくさん咲き誇る場所を選んだ。
エリアーヌがうさぎを見送った場所と、できるだけ良く似せた。
彼女の為に何ができたのか、考え続けられるように。
「夜会から一週間も経たないうちに男の尋問は終わった。いかにも見つけて下さいと言わんばかりの杜撰さで、オーベルハーク侯爵に繋がる物的証拠が次々と出て来たからだ」
「本当に、父がそのようなことを企てていたとは私には思えません」
「僕もそう思うよ。イザベル嬢を王太子妃にしておきながら、僕を殺そうとするメリットは少ないからね」
思惑通りジェラルドが暗殺なりされたとして、王位継承権が王太子妃のイザベルに移ることはもちろんだが発生すらしない。
二人の間に王子が生まれているわけでも、懐妊しているわけでもなかった。
少なくとも現時点ではオーベルハーク侯爵にもたらされるメリットは皆無だと言ってもいい。
野心家の侯爵が取る行動と考えると、辻褄が一切合わないのだ。
「誰が何を企んでいようと、僕にはどうでも良かった。真相を突き止めようと君が帰って来てくれるわけじゃない。君が眠る場所で日々を過ごし、君の為なら何でもすると心の底からひたすら願った。そうして――コードナー伯爵家で開かれる夜会の前日に、僕は戻っていた」
67
あなたにおすすめの小説
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
十年越しの幼馴染は今や冷徹な国王でした
柴田はつみ
恋愛
侯爵令嬢エラナは、父親の命令で突然、10歳年上の国王アレンと結婚することに。
幼馴染みだったものの、年の差と疎遠だった期間のせいですっかり他人行儀な二人の新婚生活は、どこかギクシャクしていました。エラナは国王の冷たい態度に心を閉ざし、離婚を決意します。
そんなある日、国王と聖女マリアが親密に話している姿を頻繁に目撃したエラナは、二人の関係を不審に思い始めます。
護衛騎士レオナルドの協力を得て真相を突き止めることにしますが、逆に国王からはレオナルドとの仲を疑われてしまい、事態は思わぬ方向に進んでいきます。
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
愛してないから、離婚しましょう 〜悪役令嬢の私が大嫌いとのことです〜
あさとよる
恋愛
親の命令で決められた結婚相手は、私のことが大嫌いだと豪語した美丈夫。勤め先が一緒の私達だけど、結婚したことを秘密にされ、以前よりも職場での当たりが増し、自宅では空気扱い。寝屋を共に過ごすことは皆無。そんな形式上だけの結婚なら、私は喜んで離婚してさしあげます。
二年間の花嫁
柴田はつみ
恋愛
名門公爵家との政略結婚――それは、彼にとっても、私にとっても期間限定の約束だった。
公爵アランにはすでに将来を誓い合った女性がいる。私はただ、その日までの“仮の妻”でしかない。
二年後、契約が終われば彼の元を去らなければならないと分かっていた。
それでも構わなかった。
たとえ短い時間でも、ずっと想い続けてきた彼のそばにいられるなら――。
けれど、私の知らないところで、アランは密かに策略を巡らせていた。
この結婚は、ただの義務でも慈悲でもない。
彼にとっても、私を手放すつもりなど初めからなかったのだ。
やがて二人の距離は少しずつ近づき、契約という鎖が、甘く熱い絆へと変わっていく。
期限が迫る中、真実の愛がすべてを覆す。
――これは、嘘から始まった恋が、永遠へと変わる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる