47 / 115
第3章 心が繋がる時
9.妖精眼
しおりを挟む
だいたい1時間半ほどで授業は終わった。どうやら少し長引いたようで先生はそれを謝っていたが、メリーベルさんの質問に丁寧に答えた結果なので、サブマスは笑顔で許していた。
私も先生と目があったので、貴重なお話を聞かせてもらえたことへのお礼を言う。
「いやいや、寧ろ私の方がお話を聞きたい予感がいたします。機会があれば、ぜひ」
予感ってなんですかと尋ねたくなったが、そこは曖昧に笑って誤魔化しておくことにした。先生はこの後研究所で会議らしく、迎えの馬車に乗って帰って行った。
「それでは、ぜひ今日の感想をお聞かせください」
「ええ、今日は領地で流行り始めたお菓子もありますのよ」
メリーベルさんは午後のマナーレッスンに備えて予習をするらしく一度部屋に戻って着替えてくるとのことで、サブマスとエリーナさんに先導されて、私は庭がよく見える部屋に通された。楕円形のテーブルには、お茶の用意が整っている。
引かれた椅子に座り、何処か花の香りがする紅茶で喉を潤して…サブマスとエリーナさんは私をまじまじと見つめてきた。
「如何でしたか?」
「ええ、大変貴重なお話を聞くことができました。ありがとうございました」
「リッカさんの知識とは違いましたか?」
「ええ…」
この話をして良いのか、エリーナさんがいるので少し迷ってしまう。エリーナさんはそれを察したのか微笑んだ。
「私の事でしたら、ご心配なく。冬の事件のあらましは伺ってますわ。夫に鑑定魔法を教えてくださったのでしょう?私もお茶会などでそう言う話題が出る事もありますし、そう言う時のために大事なことは知っているつもりですわ」
「お気を遣わせてしまって…」
「うふ、そういうことは仰らないで!」
「…魔法に関して、私の知識とのズレは、確かにありました。例えば、種族の人口比などですね。私の中では、もう少しエルフやドワーフ、魔人種は多いと思っていたので…この辺りの観点からも、色々調べたいと思います。おかげさまで研究の幅が広がりそうです」
このくらいなら言っても問題ないだろう。そんなふうに考える自分の狡さに、内心でため息をつく。…でも、今大事なのはそれじゃない。
「…そして、メリーベルさんは、とても勉強熱心なのですね。10歳にもならないお嬢様があんなに熱心に勉強されているので、とても驚きました」
これは本心だ。彼女は本当に熱心だった。あのくらいの子供が1時間半も座って集中していられるのに驚いた。
「ええ、娘は特に魔法に興味があるようでして。勉強の内容は、すでに学園の2年生の分までは終えてしまっているのです。あれで初級と言われる魔法も二属性は確実に使えますしね」
「夫と同じかと思ったら、属性は水と土で、私と同じでしたのよ。花が好きだから、そうなのではないかと思っていましたけどね」
ニコニコと微笑み、視線を交わす夫婦の姿に、今から余計な問題を投げ込むようで胸が痛くなったが…フードの中に隠れている、紅花の妖精の胸の内を思うと、そうも言っていられない。
「ひとつ、質問があるのですが」
「なんでしょう?」
「妖精が見えることを示す、妖精眼という言葉はご存知ですか?」
サブマスは訝しそうに眉を寄せた。
「ええ。妖精や精霊を見ることの出来る者の目の事をそう言いますね。100年くらい前までは、その目を持つ者は王家の公娼や上級貴族に取り込まれることも多かったと記録には残っていますが…」
「現在は、どうなるのですか?」
「…その目があり、かつ魔力が高ければ王家の囲い込みは……」
「まさか…?」
2人の顔色が、目に見えて青くなった。
「はい、メリーベルさんには、何もせずとも私の連れている精霊が見えていたようです。アーバンさんですら強化を最大限使わなければ見えない状態にしているのにも関わらず…」
一息つくと、私はちょっとお行儀が悪いとは思ったが、テーブルの上にに精霊と紅花の妖精を出した。
「2ヶ月ほど前にご領地に行かれましたか?」
「ええ。私と2人で…なんでご存知なの?」
「その時に、メリーベルさんと一緒にいたい一心で、妖精が1人、乾燥した紅花に潜り込んでこちらにやって来たのだそうです。土地から離れたことで弱っていましたが、今は治癒をかけて持ち直しています」
「ええ、たしかに乾燥した紅花をサンプルとして持ち帰ってきたわ…」
エリーナさんは額に手を当てる。顔色は少し持ち直したようだが、苦悩する顔は先程までの朗らかな様子とあまりにも違うので、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。精霊がふよふよと近づいていって、ぽんぽんと頭を撫でている。ギルマスも眼鏡を外して鼻の付け根をもみほぐしている。
「メリーベルさんや、この妖精が悪いというわけではないのです。ただ、土地を離れてまで着いてこようとするほど、メリーベルさんはご領地に愛着があり、妖精たちに好かれやすいということなのだと思うのです。ですので、メリーベルさんのお気持ち次第ですが…この紅花の妖精にチャンスをいただけないでしょうか?」
2人は、私をポカンと見つめている。
「それは、どういう…?」
「簡単に言いますと、魔力を使う契約です。私は、この精霊たちに名前をつけました。結果として、精霊は安定して私のそばにいてくれています。メリーベルさんが、この妖精に名付けをしてくだされば、この子は土地を離れても消えずにいられるはずなのです」
「それには、途方もない魔力が要るのでは…」
「何もせずに名付ければ、そうなる可能性は高いです」
ここからが、今回1番大事なところ…だと思う。メリーベルさんに負担をかけずに名付けをして、この妖精も助ける方法だ。
私も先生と目があったので、貴重なお話を聞かせてもらえたことへのお礼を言う。
「いやいや、寧ろ私の方がお話を聞きたい予感がいたします。機会があれば、ぜひ」
予感ってなんですかと尋ねたくなったが、そこは曖昧に笑って誤魔化しておくことにした。先生はこの後研究所で会議らしく、迎えの馬車に乗って帰って行った。
「それでは、ぜひ今日の感想をお聞かせください」
「ええ、今日は領地で流行り始めたお菓子もありますのよ」
メリーベルさんは午後のマナーレッスンに備えて予習をするらしく一度部屋に戻って着替えてくるとのことで、サブマスとエリーナさんに先導されて、私は庭がよく見える部屋に通された。楕円形のテーブルには、お茶の用意が整っている。
引かれた椅子に座り、何処か花の香りがする紅茶で喉を潤して…サブマスとエリーナさんは私をまじまじと見つめてきた。
「如何でしたか?」
「ええ、大変貴重なお話を聞くことができました。ありがとうございました」
「リッカさんの知識とは違いましたか?」
「ええ…」
この話をして良いのか、エリーナさんがいるので少し迷ってしまう。エリーナさんはそれを察したのか微笑んだ。
「私の事でしたら、ご心配なく。冬の事件のあらましは伺ってますわ。夫に鑑定魔法を教えてくださったのでしょう?私もお茶会などでそう言う話題が出る事もありますし、そう言う時のために大事なことは知っているつもりですわ」
「お気を遣わせてしまって…」
「うふ、そういうことは仰らないで!」
「…魔法に関して、私の知識とのズレは、確かにありました。例えば、種族の人口比などですね。私の中では、もう少しエルフやドワーフ、魔人種は多いと思っていたので…この辺りの観点からも、色々調べたいと思います。おかげさまで研究の幅が広がりそうです」
このくらいなら言っても問題ないだろう。そんなふうに考える自分の狡さに、内心でため息をつく。…でも、今大事なのはそれじゃない。
「…そして、メリーベルさんは、とても勉強熱心なのですね。10歳にもならないお嬢様があんなに熱心に勉強されているので、とても驚きました」
これは本心だ。彼女は本当に熱心だった。あのくらいの子供が1時間半も座って集中していられるのに驚いた。
「ええ、娘は特に魔法に興味があるようでして。勉強の内容は、すでに学園の2年生の分までは終えてしまっているのです。あれで初級と言われる魔法も二属性は確実に使えますしね」
「夫と同じかと思ったら、属性は水と土で、私と同じでしたのよ。花が好きだから、そうなのではないかと思っていましたけどね」
ニコニコと微笑み、視線を交わす夫婦の姿に、今から余計な問題を投げ込むようで胸が痛くなったが…フードの中に隠れている、紅花の妖精の胸の内を思うと、そうも言っていられない。
「ひとつ、質問があるのですが」
「なんでしょう?」
「妖精が見えることを示す、妖精眼という言葉はご存知ですか?」
サブマスは訝しそうに眉を寄せた。
「ええ。妖精や精霊を見ることの出来る者の目の事をそう言いますね。100年くらい前までは、その目を持つ者は王家の公娼や上級貴族に取り込まれることも多かったと記録には残っていますが…」
「現在は、どうなるのですか?」
「…その目があり、かつ魔力が高ければ王家の囲い込みは……」
「まさか…?」
2人の顔色が、目に見えて青くなった。
「はい、メリーベルさんには、何もせずとも私の連れている精霊が見えていたようです。アーバンさんですら強化を最大限使わなければ見えない状態にしているのにも関わらず…」
一息つくと、私はちょっとお行儀が悪いとは思ったが、テーブルの上にに精霊と紅花の妖精を出した。
「2ヶ月ほど前にご領地に行かれましたか?」
「ええ。私と2人で…なんでご存知なの?」
「その時に、メリーベルさんと一緒にいたい一心で、妖精が1人、乾燥した紅花に潜り込んでこちらにやって来たのだそうです。土地から離れたことで弱っていましたが、今は治癒をかけて持ち直しています」
「ええ、たしかに乾燥した紅花をサンプルとして持ち帰ってきたわ…」
エリーナさんは額に手を当てる。顔色は少し持ち直したようだが、苦悩する顔は先程までの朗らかな様子とあまりにも違うので、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。精霊がふよふよと近づいていって、ぽんぽんと頭を撫でている。ギルマスも眼鏡を外して鼻の付け根をもみほぐしている。
「メリーベルさんや、この妖精が悪いというわけではないのです。ただ、土地を離れてまで着いてこようとするほど、メリーベルさんはご領地に愛着があり、妖精たちに好かれやすいということなのだと思うのです。ですので、メリーベルさんのお気持ち次第ですが…この紅花の妖精にチャンスをいただけないでしょうか?」
2人は、私をポカンと見つめている。
「それは、どういう…?」
「簡単に言いますと、魔力を使う契約です。私は、この精霊たちに名前をつけました。結果として、精霊は安定して私のそばにいてくれています。メリーベルさんが、この妖精に名付けをしてくだされば、この子は土地を離れても消えずにいられるはずなのです」
「それには、途方もない魔力が要るのでは…」
「何もせずに名付ければ、そうなる可能性は高いです」
ここからが、今回1番大事なところ…だと思う。メリーベルさんに負担をかけずに名付けをして、この妖精も助ける方法だ。
46
あなたにおすすめの小説
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
【完結】異世界に召喚されたので、好き勝手に無双しようと思います。〜人や精霊を救う?いいえ、ついでに女神様も助けちゃおうと思います!〜
月城 蓮桜音
ファンタジー
仕事に日々全力を注ぎ、モフモフのぬいぐるみ達に癒されつつ、趣味の読書を生き甲斐にしていたハードワーカーの神木莉央は、過労死寸前に女神に頼まれて異世界へ。魔法のある世界に召喚された莉央は、魔力量の少なさから無能扱いされるが、持ち前のマイペースさと素直さで、王子と王子の幼馴染達に愛され無双して行く物語です。
※この作品は、カクヨムでも掲載しています。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
【完結】憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる